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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 9 王太子の誕生日
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280 悪役令嬢は名探偵を気取る

二時間目の後の休み時間。普通科一年一組の教室の前は、異様な雰囲気に包まれた。

目の前で深々と頭を下げる四人の令嬢を前に、マリナは苦笑いを浮かべていた。

「マリナ様、この度は私共の管理不行き届きにより、ご不快な思いを……」

『王太子殿下とマリナ様の恋を応援する会』、通称セディマリFCの代表が泣きそうな顔で何度も頭を下げる。これではいじめているみたいだ。外聞が悪すぎる。

「お止め下さい、皆様。もう噂も消えたようですし」

――全然下火になっていないけれど、仕方がないわよ。

昨日エミリーが熱心に読んでいた雑誌には、ゴシップコーナーにマリナの妊娠疑惑がでかでかと載っていた。印刷物だから多少のタイムラグはあるにしろ、学院内の噂も再燃しかねない勢いだった。皆期末試験に気を取られて、噂も消えたかと思ったのに。


名探偵を気取ったジュリアの提案で、マリナは自分とセドリックのファンクラブの代表と思われる生徒に連絡を取り、レナードと懇意にしている先輩の婚約者が例の噂を聞いた際、話をしていた生徒を探してもらったのだ。マリナに思わぬ相談を受けたファンクラブ代表とその友人達が血眼になって犯人捜しをし、噂話をしていた令嬢四人を特定した。

「それでさ、私が知りたいのは、皆さんの噂話に後から入ってきた子が誰かってことなんだ」

令嬢達に頭を上げさせ、ジュリアが小声で尋ねる。

「さあ」

「お名前は存じませんわ」

「顔を見たら分かるかな?」

「どうでしょう……こう申してはアレですけれど、印象が薄い方でしたの」

「何色かも思い出せない髪の色、服装も地味で、お顔立ちも美しいわけでもなくて」

「いつも女子寮の前にいるメンバーではなかったってこと?」

「朝に集まる皆様とは顔見知りですもの」

うーん、とジュリアは腕組みをした。ファンクラブとのやり取りを見守っていたマリナは、ふと廊下にかけられた絵に目を留めた。

「……そうだわ。絵が上手な方に似顔絵を描いていただいたらどうかしら?」

「モンタージュか!いいね、それ!」

マリナの提案にジュリアが頷く。ファンクラブの面々は不思議そうに首を傾げた。


   ◆◆◆


昼休みになり、学院祭で美術の展示を担当したアリッサを連れて、ジュリアは普通科三年二組の教室へ向かった。

「ポーリーナさん、お久しぶりです」

「アリッサさん……体調はもうよろしいのですか?」

「はい。熱も下がりましたので、今日から登校しているんです」

入学式で挨拶をしたアリッサが、風邪を引いて試験を欠席したという噂は、全科目追試という不名誉な結果の掲示と共に全校に広まっていた。

「挨拶をしに、ここへいらしたの?何かご用がおありなのでしょう?」

「はい、実は……ポーリーナ様にお願いがあって」

もじもじしているアリッサの後ろから、ジュリアが顔を出すと、ポーリーナは驚いて三歩下がった。

「お願いがあるのは私です。ちょっと、似顔絵をね」


   ◆◆◆


「……誰?」

セディマリFCの話を元に、ポーリーナがスケッチブックに描いた人相書きを見ながら、マリナはぽつりと呟いた。貴族名鑑を丸暗記していて、他の二人よりは社交スキルが高いマリナでさえ、この顔には覚えがない。

「マリナも知らないんだ?」

「王妃様のお茶会に招かれていた貴族令嬢でないことは確かね」

「マリナちゃんが王太子様の婚約者って発表された時の?」

「妃候補、よ。……招待されたのは子爵家以上だったから、人数も限られていたとは思うけど」

「てことはさ、その日来れなかったか、男爵家とか他の身分なんじゃない?服装も地味だったってくらいだし、あんまりお金がないって可能性も」


三人が密談をしているのは自習室だ。

噂を流した謎の令嬢が誰なのか分からない以上、聞かれては困る話は別室でするに限る。

「うちは男爵家とはお付き合いがないわ。恨まれる筋合いもないし。誰かに頼まれたのかしら?」

「誰にさ?」

「恨まれるようなことをしちゃってるかも……あくまで可能性の話だよ?たっ、例えば、王太子様のことをすっごく好きな女の子がいたとして、マリナちゃんが入学してくるまではファンとして遠くから見ていたけど、マリナちゃんと王太子様が仲良くしてるのを見て許せなくなったとか?」

「あー。ありそう。アンチか」

「うん。セディマリFCみたいに、応援してくれる人ばかりじゃないと思うの。前世でアイドルが結婚を発表すると、反応が真っ二つになってたのと同じで」

「マリナ、誰の恨みを買ってるんだろうね」

「適当なことを言わないで、ジュリア。恨みなんて……」

買っていないとも言いきれなくなり、マリナは口を閉じた。


「とりあえず、ファンクラブの皆が噂を消してくれるって言ってたじゃん。これから何か別の噂が流れても、必ず食い止めるって張り切ってたもん。何とかなるよ」

「犯人捜し、やめちゃうの?ジュリアちゃん」

「手詰まりじゃしょうがないよ。せっかくポーリーナに絵を描いてもらったのになあ」

ジュリアはもう一度、スケッチブックの絵を見つめた。

黒か茶か灰色の長い髪、薄い眉。ぼんやりした印象の目元はどんなだったか、瞳の色も目の形も四人の令嬢の証言が食い違って、ポーリーナでも絵に表すことができなかった。顔は卵型だったとも、丸顔だったとも言われた。印象が薄いと言っても、そこまで証言がバラバラになるだろうか。

「……そうか!」

いきなり椅子から立ち上がったジュリアは、アメジストの瞳をきらきらさせてマリナに掴みかかった。

「ねえ、マリナ、覚えてる?あの魔法の家庭教師」

「コーノック先生のこと?」

横からアリッサが訊ねる。

「違うよ。その前に来てた……私をけちょんけちょんに貶した奴。光魔法で錯覚させてハゲを隠してたんだけど、エミリーが魔法で効果を消しちゃってさ」

「それがどうかしたの?」

「だから、それと同じなんだよ、きっと。謎の令嬢は光魔法で姿を錯覚させていたんだ!」

マリナとアリッサははっとして互いに顔を見合わせた。

「皆さんの証言が揃わなかったのも……」

「エミリーがハゲを見破ったのも、私達四人がそれぞれ、違う髪型だと思っていたからだったよね?マリナは七三分けだって言って、私はアフロ、アリッサは」

「ちょんまげだと思ってたわ」

「そうそう。エミリーにだけ錯覚が効かなくてバレたんだ。噂を聞いた四人は皆普通科で、特に魔法が得意でもないみたい。錯覚させられてもおかしくないよ」

「分かったわ、ジュリア。……つまり、犯人は光魔法が得意な人物というわけね」

「正解!」

得意げに目を細め、ジュリアは仁王立ちになった。

「すっごーい、ジュリアちゃん!」

「ふふん、褒めて褒めて。……よっし、犯人の目星もついたところで、さっさと食堂に行こうよ。頭使ったらお腹すいちゃった」

二人を引っ張るようにして自習室を出ると、

「先に行って席取ってるから、エミリーを呼んできて」

とジュリアは一目散に廊下を走って行った。


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