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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 9 王太子の誕生日
443/616

279 悪役令嬢はデートに誘う

糖度高め(当社比)です。

「……出かける?俺と?」

朝一番に魔法科教官室へ乗り込んだエミリーは、「個人的な相談がある」と切り出した。会議へ行こうとするマシューを魔法で捕縛し、黒い木製の椅子に彼を座らせた。

「そう」

「どこへ行くつもりだ。何か危険なことに巻き込まれているのか?」

静かに語りかけたマシューの瞳は真剣だった。心からエミリーを心配しているのが分かる。

――この雰囲気でダブルデートなんて言えない。

「違う。……王太子の護衛に」

「護衛?立派な騎士団がいるだろう?」

「……その人たちがついてくると嫌なんだって」

マシューは首を捻った。疑問に思うのも当然だ。エミリーは説明に窮していた。


深呼吸を一つ。

――洗いざらいぶちまけるしかなさそうね。

「今度の祝日に、王太子とマリナが街へ出かけるの。護衛をぞろぞろ連れて行くと目立つから、できるだけ少ない人数で行きたいって言ってて。ほ……本当は、ジュリアがアレックスと一緒についていくつもりだったんだけど、追試があるからダメになった。私が行かないと何かあった時に危ないかなって、ついて行くことにしたの」

「それで?」

一気に話して息を切らしているエミリーを、マシューは平然と見つめている。どことなく楽しそうなのはどういうわけだ。

――少しは察しろよ!この鈍感男!

今の話の流れで、自分も護衛の一人だと気づいてほしい。王太子とマリナのデートをエミリーが邪魔しないように、自分が誘われたのだと勘ぐるくらいはしてもいいのではないか。

「一人で……二人の護衛は無理だから……その……」

「お前なら十分な魔力がある。簡単なことだろう?」

――そうじゃないの!どうして分からないのかな?

無表情でエミリーはマシューを見つめた。


「……お願い。一緒に来て、マシュー」

「エミリー?」

唇を噛み、何度か頭を振って、エミリーは俯いた。

「……もう、いい。誰か他の人に頼むから!」

他の人にあてがあるわけではない。気まずくなっているキースに頼むか、とりたてて仲が良いわけでもない魔法科の誰かに頼むしかない。マシューが言うように、暴漢の五人や十人を一人でも倒せないわけではない。

――はっきり言わないと分からないの?


バシュッ。

エミリーがかけた捕縛魔法が効力を失い、マシューが椅子から立ち上がった。バサリと黒いローブが宙を斬り、彼の腕と胸の間の漆黒の闇に囚われた。

「泣くな」

「……泣いてない」

「泣きそうだっただろう?」

いつから彼は自分の表情が読めるようになったのだろう。エミリーは一瞬息を止めた。

「……あなたと街に行きたかったの」

「そうか」

「学校でも会えるけど、こんな風にしか……」

医務室のロンをはじめ、二人の関係に気づいて応援してくれている者もいるが、対外的には二人は魔法科の一教師と生徒である。所謂禁断の恋だ。かつての恋人達がそうであったように、噂になればマシューは職を追われ、エミリーも修道院送りになるだろう。平民の魔導士と筆頭侯爵家の令嬢という身分の差もある。

「誰にも見られないように、気づかれないようにって……ずっとこのままなの?」

囁くように言うと、マシューの腕がビクッと震えた気がした。


「護衛なら……か」

胸に顔を埋めているからか、低い声がエミリーの身体を痺れさせる。

「そうだな。お前と街に行けたら、楽しいだろう」

はっと顔を上げると、こちらを見つめる黒と赤の瞳があった。

「……行ってくれるの?」

「ああ」

「く、黒いローブはなしだから。お忍びで行くのに目立つのは……」

「分かった。ローブは着ない。お前の服装も楽しみだな」

――うわ。絶対ハズせない。帰ったらあの雑誌、熟読しなくちゃ。

「うん、待ち合わせ、決まったら教えるか、らっ?」

腕から抜け出そうとして、エミリーは再び絡め取られた。

「俺に魔法をかけただろう?腕輪が見えているぞ」

「あ……」

「アイリーンに見られないように、消していかなくていいのか?」

口の端を歪め、マシューはフッと笑った。

いつもならここで彼のペースにはまり、思う存分唇を貪られるパターンだ。思い出しただけでエミリーの頬が熱くなった。


「そのことだけど!」

「どうした?」

既にエミリーの顎に手をかけて上を向かせていたマシューは、動じることなく顔を近づけてきている。彼女がいた形跡はないのに、この手慣れ感はどうなのだろう。

「マリナ達に渡した腕輪は、魔法をかければ見えなくなるのに、どうして私のは」

魔法で消せないの?と続けようとして、唇が塞がれた。

マシューの魔力が心地よく身体を巡り、エミリーの全身が痺れて膝に力が入らなくなる。腰に手を回して華奢な身体を支え、マシューは満足そうに唇を離した。

「嫌なら、魔法を使わなければいい」

エミリーは俯いて視線を落とした。耳まで真っ赤になっているように感じたが、他人が見れば気づかないだろう。

「や、……じゃ、ないもの」

「それなら問題はないな」

余裕の笑みで見下ろす黒衣の魔王を睨み、エミリーは消え入りそうな声で

「意地悪」

と呟いた。すぐに室内をミントの香りが包み、マシューの赤い左目が光を放つのを見て、エミリーは陶酔させられそうな予感に胸を高鳴らせたのだった。


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