表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 8 期末試験を乗り越えろ
435/616

271 悪役令嬢は試験結果に呆れ返る

期末試験の翌々日、職員室前の掲示板には朝から生徒達が群がっていた。

「うわー!俺、今回も追試かよ」

「俺も!あ、補習になってフィービー先生と二人っきりもいいかな……」

「いいなあお前、俺なんか鬼のバイロン……」

剣技科三年の男子生徒が絶叫しているのを遠目に見て、マリナ・ジュリア・エミリーは、一年生の結果に目をやった。

この世界の期末試験は結果が出るのが早い。乙女ゲームの進行の都合なのか、採点にはあまり時間を要することなく結果が貼りだされた。選挙の投票と同じく、試験の答案もある程度は魔法でチェックできる。前世で言うところのマークシート方式の部分は魔法で判定する。残りの記述式の部分は、先生方が読んで点数をつけるのである。

「何もさ、最下位まで書いて貼らなくてもよくね?プライバシーはどうなってんのさ」

ジュリアが結果表を指で弾いた。

「生徒に奮起させるのが目的らしいわよ。よかったわね、ジュリア。鬼門のアスタシフォン語も最下位を免れて」

「ホント、そこはハリー兄様のお蔭だね。足向けて寝られない感じ?」

「……下から三番目」

「うるさいなあ、エミリー。そりゃ、追試だけど……」

追試確定の生徒達の上に線が一本引かれている。ここから下は、五日後に追試験を受けるという印だ。

「アリッサが見たらショックを受けるわね。全科目追試ですもの」

「欠席したんだから仕方ないよ。アリッサなら満点で合格するさ」


総合得点による順位表も貼られている。アリッサ不在により、マリナが一位を獲得した。

「すごいじゃん、マリナ。……ん?フローラが二位か。姉と親友がワンツーフィニッシュだったって聞いたら、アリッサも喜ぶよね」

「正直、自分でも驚いているわ」

「兄様に教えてもらってよかったな。次もお願いしようよ」

「私達に教えている時間があったら、お兄様だって試験勉強をしたいはずよ?あまり頼りすぎるのもご迷惑だわ」

「そうかなあ?兄様は喜んで教えてくれると思うよ。特に、マリナにはね」

「……手取り足取り」

エミリーがにやりと笑う。

「私達が心配しなくても兄様なら余裕だって。……ほら、三年の結果、見てみ?」

ジュリアに促されて三年の総合成績に視線を走らせる。タイトルのすぐ下、総合順位一位のところにハロルド・ハーリオンの名がある。

「一位……満点?」

瞠目して軽く口を開けているマリナの斜め後ろから、エミリーがそっと囁く。

「……ご・ほ・う・び」

「兄様、何をおねだりするのかな。……頑張って、マリナ」

彫像のように固まっているマリナの肩を、白い歯を見せてニヤニヤしながら、ジュリアは力一杯叩いた。

「レイモンドの奴、一位陥落したんだね」

「……どうでもいい」

「本当ね。……あら?上位に名前がないなんて、具合でも悪かったのかしら?」

「アリッサを外で待ちぼうけ食らわせるような奴、バチが当たって当然」

「まさかエミリー、呪いとかかけてないよね?」

「やってない。あいつが勝手に自滅しただけ」

眉間に皺を寄せたエミリーは、迷惑そうに吐き捨てた。


各学科でのみ学ぶ科目は総合得点に含まない。そのため、エミリーは得意科目の魔法分野の得点で勝負できない。一般教養科目の合計点では、中の上といったところだ。血眼になってキースの名前を探す。

「……は?」

キース・エンウィの名前は、ジュリア・ハーリオンの僅か二人上のところに書かれている。

「私に勝つとか豪語しておいて、これ?」

「エミリーはキースに勝ったのね。……あら?随分……」

マリナは言葉を濁した。普段のキースの様子からは、授業も真面目に受けていそうなタイプに見えるのに。

「頑張ってよかったじゃん。婚約なんか絶対言い出さないだろうし、『彼氏』も魔王にならなくて済むよ」

「……だといいけど」


   ◆◆◆


教室に戻ったジュリアは、クラスメイトからレナードが神と讃えられているのを目の当たりにした。

「おはよう、アレックス。あれ、どうしたの?」

ぼんやり机に肘をついているアレックスに問いかける。

「おはよう、ジュリア。レナードの奴、追試なしだったんだってさ」

「へえー。すごいね。私、アスタシフォン語と数学と歴史はダメだったよ?数学なんて点数一ケタだもん。アレックスは?」

「俺も。ついでに、剣術理論もギリギリ線の上だった。……なあ」

「ん?」

「殿下達と出かける話、あれ、無理じゃね?」

「そっかー。次の祝日は勉強しないとないよね……」

二人は大きく溜息をついた。

賑やかな教室では、『一ケタ点数自慢』(自虐)が繰り広げられている。こんな有様なので、成績は中の中で追試にならないレナードは神扱いなのである。


「おはよう、ジュリアちゃん。……あれ、その顔。試験結果を見てきたの?」

「うん。三つ追試」

「お姉さんのマリナちゃんに教えてもらいなよ。学年一位だよね」

「そうするつもり。エミリーも頑張ったし、アリッサは風邪引いて追試だけど余裕だし。あーなんで私ばっかり……」

普段から授業を真面目に受けていればいいのにとレナードは思ったが、口にしないでおいた。組んだ腕を枕にして机にうつ伏せになったジュリアの髪を撫でる。

「ジュリアちゃんには他の三人にない、いいところがいっぱいあるからね。勉強までできたら、マリナちゃん達が嫉妬しちゃうでしょ?」

「いいところ?」

視線だけ上げてレナードを見る。

「今の顔、子供みたいに拗ねてるところも、すごく可愛いよ?」

「かわ……っ!?」

「元気に動き回るから、銀髪を結ったところから解けて……」

レナードの長い指がジュリアの襟足をそっと撫でた。

「おい」

すぐにアレックスの手がレナードの手首を掴む。

「やだなあ。アレックスはすぐに目くじら立てるんだから」

「めく……?」

逞しい首を傾げる。赤い髪がさらりと揺れた。

「アスタシフォン語より、グランディア語を勉強した方がいいかもね。俺はこんな騎士団長の下で働きたくないし?」

「何だって?」

「ちょ、やめなって、アレックス。レナードもどうしたの?何か変だよ?」

ジュリアには何が変なのかうまく言い表せなかった。仲良しの三人組に生まれた緊張感に、自然と鼓動が速まるのを感じながら、無言で席に着いたレナードの背中を目で追いかけた。


次回から新章に入ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ