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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 8 期末試験を乗り越えろ
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263 公爵令息と白磁の天使

【レイモンド視点】


アスタシフォンのリオネル王子とエルノー伯爵家のルーファス、騎士のノアの三名を含む一行は、王家の客船に乗って無事出立した。俺の役目は王立学院生徒会代表として、彼らを見送ることだった。

「折角ビルクールへ来たのだから、夕方まで見て回ったらどうかね」

学院長が髭を撫でて頬を染める。声こそ落ち着いているが、視線はキョロキョロと港の露店を物色している。

「観光がしたいのは、先生ご自身ですよね?」

「ふぉっふぉっふぉ。君には何もかもお見通しか、レイモンド君。ビルクールは王都の次に栄えている街だ。見るところも多かろう」

ここまで俺達を運んできたコーノック先生をお供に、学院長は街へと繰り出した。コーノック先生は非常に迷惑そうな顔をしていたが、学院長には逆らえないようだった。


セドリックは侍従達と埠頭へ戻り、同行する気もなかった俺は、一人で土産物屋をぶらぶらしていた。アスタシフォンとの交易が盛んなこの街では、広大な領土を持つアスタシフォン各地の名産品が手に入る。変わった形の面、不気味な人形……どれも俺の趣味ではなかった。

「いらっしゃい。お兄さん、王都のお客さんだね?」

年配の店主が声をかけてきた。声に張りがあり、まだまだ現役といった感じだ。

「王都から来たが……何故それを?」

「王立学院の制服じゃないか。この街でもたまに見かけるんでね」

――制服を着た者が、港町に?

学院の生徒は、許可を得なければ外出ができない。制服を着替えずに何度も足を運ぶあたり、用事を短時間で済ませて王都に戻っているのかもしれない。

俺は胸がざわめくのを感じた。

「うちの品物はどれも、アスタシフォンの純正品だよ。ここいらでも紛いもんを扱う店があるけどね、うちのはぜーんぶ、私が目利きをして仕入れてるんだ」

店主は鼻高々で商品の説明をし始める。彼の話を聞くふりをしながら、俺は棚の上に視線を移した。

水瓶を持った一人の天使に目が釘付けになった。

白磁でできたそれは、薄緑色の服を身に纏い、柔らかそうな銀の髪が肩に落ちている。背中にある可愛らしい白い翼を羽ばたかせ、今にも飛び立とうとしているかのようだった。幼い頃のアリッサを髣髴とさせる天使は、俺に王立図書館で初めて彼女を見た衝撃を思い出させた。

「……あれは」

「うん?ああ、その天使像かい?手に乗る大きさで、お土産にはもってこいの品だよ」


店主に金を払い、孫娘に綺麗に包んでもらい、俺は箱を抱えて集合場所に戻った。集合場所はハーリオン侯爵が建てた『ビルクール歴史館』だ。開港前からの街の歴史が紹介されている観光名所の一つだった。大量の土産物を買いこんだ学院長は、怪しい仮面を身に付け、荷物持ちをさせられているコーノック先生を脅かしていた。セドリックは何やら神妙な面持ちで、黙って椅子に座っている。

――何かあったのか?

声をかけようとして、俺ははっと立ち止まった。

俺達は昼前に喧嘩をしたのだ。アリッサへの俺の想いを疑うような発言をしたセドリックを思い出し、彼から目を背けた。


   ◆◆◆


役目を終えて寮に戻る。

今日は勉強会を中止にして、アレックスとキースには課題を出しておいた。アイリーンには構わないでいるが、試験前日の明日になればまた、俺達の前に現れるのだろう。セドリックが不参加だと知ったら、あの女はどんな顔をするだろうか。

陶器の天使像が入った箱を胸に抱え、俺は寮の廊下を歩いていた。夕食には間に合わなかったから、ハンナに何か作ってもらおうと考えていると、不意に隣室のドアが開いた。

「レイモンド、お帰りなさい」

ハロルドが柔らかい微笑を向けてくる。

「ああ、今戻った。行きも帰りも、コーノック先生の魔法で一瞬だったが、学院長が観光をしたがってな」

「ふふ。先生は好奇心旺盛な方ですからね。あの街には興味を引かれるのでしょう。……おや、それは?」


大事そうに抱えていた箱に気づかれ、俺は狼狽した。淡い色の包み紙と緑色のリボンを見られてしまったからだ。

「ビルクールで買った品だ」

「アリッサへのお土産ですか?」

「ハーリオン家の領地で買ったものを贈るのはどうかとも思ったんだが、アリッサが喜びそうな物があったんだ」

「それはよかったですね。……今日の勉強会でも、アリッサは少し元気がないようでしたから心配していたのです」

元気がない、か。

土産物一つで元気になってくれるとは思えないが、いくらかでも彼女を笑顔にできたら、行った甲斐があったというものだ。

「明日、会う約束をしている。その時に渡そうと思う。日中はアイリーン・シェリンズがつきまとってきて会えないからな」

アイリーンの名を耳にして、ハロルドの表情が曇った。彼もアイリーンをよく思っていない。マリナの敵だからか?

「アイリーンと言えば、夕食前……でしたでしょうか、男子寮の周りを歩いているのを見かけました。まるで誰かを探しているようでしたが……気を付けてくださいね、レイモンド」

「忠告ありがとう。……ところで、試験勉強はできているのか?妹達に教えている時間があったら、自分の部屋で勉強したいのではないか?」

「ご心配なく。この二年、一度もあなたには勝てませんでしたが、今度こそ満点で首位を取ってみせます」

「随分とやる気だな。セドリックと競っていると聞いたぞ」

「ええ。マリナの『ご褒美』を賭けて」

にっこりと微笑んだハロルドに、『ご褒美』とは何かを聞くのも恐ろしい気がして、俺は就寝の挨拶もほどほどに自室へ入った。


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