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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 8 期末試験を乗り越えろ
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257-2 王太子と一夜の夢

変態王子視点です。朝に相応しくなくて申し訳ございません。

【セドリック視点】


エンフィールド侯爵とハロルドの言い争いに、酒に酔ったマリナが乱入した。

扇子で侯爵の頬を叩き、あろうことが口封じに扇子を突っ込んだ。涙目になった侯爵が頬を染めてマリナを見ていた。

――あの男、許さない!

ぐらりと倒れたマリナを受け止めると、彼女は可愛らしく僕に抱きついてきた。

「セドリックさまぁー!」

「マ、マリナ!?」

彼女から抱きつかれた経験は数えるほどしかない。僕は動揺して声が上ずってしまった。

「うふふふ。セドリックさま、だーい好きっ!」

「あっ、えっ?うん。僕も大好きだよ!」

大声で好意を示した彼女に負けじと声を上げると、

「おい。さっさとマリナを連れてどこかへ退避しろ」

とレイモンドが僕達を邪魔してきた。ああ、せっかくいいところなのに。

もしかしたら僕は、退屈な晩餐会の途中で眠ってしまったのかもしれない。これが夢なら醒めないでほしい。

「レイ、僕の頬をつねってみてくれないか。僕は幸せな夢を見ているのかな」

「ああ。とんでもない悪夢だ」

悪夢だって?

こんなに可愛いマリナのどこが悪夢だと言うんだ。

レイモンドは眼鏡の度が合わなくなってきているに違いない。

「もう、レイモンドったら、おこりんぼさんねー」

「おい!やめろ!」

マリナに鼻先をつつかれたレイモンドが狼狽し、真っ赤になって手を払った。

「レイ、何を赤くなってるんだ!」

疾しい気持ちがあるから照れているんだろう?

「マリナは僕の鼻を好きなだけ突いていいよ。だからレイに触らないで?」

「ふふ……セドリックさま、やきもちやいたの?」

「……うん。だから……僕の鼻を好きなだけ突いていいよ?」

この時の僕はまだ、これから起こる惨劇を予想だにしていなかった。


   ◆◆◆


「……マリナは、どうしている?」

長椅子に横になり、天井画をぼんやり眺め、僕は侍従に問いかけた。

「お部屋にご案内し、ドレスを着替えられたそうにございます」

「そう……ああ、あのドレス、よく似合っていたのになあ……」

マリナの金色のドレスは、僕の鼻血まみれになってしまった。マリナが僕の鼻の穴に指を入れたことは、近くにいたレイモンドしか知らない。居合わせた貴族たちは皆、マリナの可愛らしさに興奮した僕が、自発的に鼻血を出したと思ったようだ。

仕方ない。マリナの名誉を守るためだ。

鼻血王子と呼ばれようが構わない。後の世に語り継がれる異名は、僕にとって勲章だ。

だが、マリナにとっては、今晩の騒ぎは不名誉でしかない。父上の命令でも、噂がどこかから漏れてしまうかもしれない。未来の王妃が酒乱だと分かれば、僕の妃にマリナは相応しくないと言い出す貴族がいるだろう。

――そんなの、知ったことか!


椅子から起き上がり、立ち上がってドアへ向かうと、侍従が僕を止めた。

「殿下、どちらへ?」

「マリナの様子を見に行く。止めても無駄だよ?」

「はい……。差し出がましいようですが、鼻栓はお取りいただいた方がよろしいかと存じます」

「……ああ、ありがとう」

僕は鼻に詰めていたちり紙を抜くと、頭を下げている侍従の手に乗せた。


   ◆◆◆


マリナが泊まる客用寝室には、女官長以下数名の侍女が控えていた。母上が指示して着替えを用意し、彼女を手早く着替えさせたらしい。

「マリナ、君を守ってあげられなくて、ごめんね」

夢のように美しいネグリジェを着て横たわる彼女の髪を撫で、額に口づけ……られなかった。女官長が物凄い形相でこちらを睨んでいる。

「……額くらい、いいだろう?」

「なりません。王妃様のお言いつけです」

僕は贖罪の気持ちから労りのキスをしたくなっただけだ。それすらも許されないのか?

「母上が、キスはダメって言ったの?」

「はい。今晩は部屋に複数人で待機するようにと」

部屋に待機、か。

流石母上だと舌を巻いた。

僕が隠し通路を抜けて彼女の部屋に夜這いするとでも思っているのだろう。

――実際、しようかと思っていたけど。


「……あの時とは状況が違うよ」

「はい。あの時とは異なり、殿下もマリナ様も大人になられました」

「うん。だから少しは……」

信用してくれてもいいと思う。

女官長は頑なな態度を変えずに、僕をじっと見てはっきりと告げた。

「王妃様は、王立学院在学中に結婚式を行うことがないように、と仰いました。意味はお分かりですね?」

母上は僕がマリナと……その、そういうことをするんじゃないかと疑っている。

結果、僕とマリナに子供ができるのではないかと。

王子の子だと状況証拠が揃っていても、正式な婚姻の下に生まれた子でなければ庶子扱い、つまり王位を継げない。

「……分かってるよ。僕はただ、マリナが心配なだけなんだ」

心配だから傍にいたい。

下心抜きで、彼女を見守っていたいんだ。

……と言い切れるかどうか微妙だけれど、とにかくそういうことにしないと、部屋から追い出されそうな雰囲気だ。


「触るなというなら、ここで見守っているから、どうか同じ部屋にいさせてくれ!」

「……セドリック、様?」

背後から吐息交じりの声が聞こえ、僕の心臓が大きく跳ねた。

「マリナ……目が覚めたの?」

ベッドに座り、身体を起こしたマリナを支える。

毛布をかけていて気づかなかったけれど、母上がマリナに渡したネグリジェは、父上を悦ばすためのものだったらしい。予想以上に布地が薄く、肩や腕が透けて見える。何より胸元が大きく開いている。

「セドリック様、私……」

潤んだアメジストの瞳が僕を射抜く。まだ酔いが抜けていないようだ。

――まずい。また鼻血が出そうだ。

「この服……薄くて、寒いんです……」

「う、うん。何か羽織るものを……」

持ってきてくれと言いかけた僕に、マリナはひしと抱きついた。

「セドリック様が、ぎゅって、してください」

――!!!!!

何という役得……いや、新手の拷問か?

ここで抱きしめてしまったら、女官長はすぐに母上に告げ口し、しばらくマリナに近づくなと接近禁止が言い渡されてしまうだろう。

堪えろ、堪えるんだ、セドリック!

彼女の背中に回しそうになった腕を宙に浮かせ、僕はゴクリと唾を飲んだ。

「……何か、彼女に羽織るものを」

絞り出すように言うと、侍女が一人、弾かれたように部屋を出て行った。

「どうして?」

「うん?」

「抱きしめてくださらないの?」

悲しげに眉を下げたマリナは、胸に縋りつきながら上目づかいで僕を見る。

――もう……限界だ!

「マリナ!」

ぎゅっ。

抱きしめた僕の腕の中で、マリナが「うっ」と呻いた。

「強く抱きしめすぎたかな?」

と愛しい彼女の顔を覗きこむ。……真っ青、だよね?

「……気持ち悪」

「えっ……」

事態を察した侍女達が駆けつける寸前に、マリナは僕の一張羅をダメにしたのだった。


気づけば100万字超え……(驚)

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