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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 8 期末試験を乗り越えろ
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256 悪役令嬢は箝口令を破らせる

「マリナが、外泊ぅ?」

ハーリオン四姉妹の部屋を訪れた王太子の侍従は、申し訳なさそうに頭を下げた。男子寮にいる年かさの侍従ではなく、年若く不慣れな侍従は王宮からの使者のようだ。

「それもこれも、王宮の不手際でして……マリナ様にワインをお出ししてしまい……」

「ワイン?」

ジュリアは腕組みをした。グランディアでは十五歳で飲酒の許可が下りる。ワインは食事で出されることもあり、社交の場に多く出ているセドリックやレイモンドは普通に口にしているはずだ。ハーリオン家では、侯爵が娘達の飲酒を頑として認めなかったため、ジュリアはワインを飲んだことがなかった。

「はい。給仕の者の話では、少なくとも二杯はお飲みになったそうにございます」

「そっかー。酔っぱらって寝ちゃったのか」

「……はあ、あの……」

侍従は困って視線を逸らした。

「何?まさか、人前で寝ちゃったの?」

「いえ、お気を失われただけにございます。今晩のことは、陛下自ら箝口令を……」

「箝口令……」

エミリーが渋い顔をした。箝口令が敷かれるくらいの事態が起こったのだ。

「マリナちゃんは、無事なの?」

「ご無事です。ご無事ではありますが……」

「……箝口令なんか気にしないで、洗いざらい吐いてくれる?」

右手に赤い炎を纏わせた紫色の魔法球を出し、エミリーが眠そうな瞳で侍従を見据えた。


   ◆◆◆


「……終わったな」

侍従が帰った後、エミリーは椅子の背に凭れて言った。魔法球を天井まで飛ばして、無効化魔法で撃つ。飛ばしては撃ち、飛ばしては撃ち……と、自分の気持ちを落ち着かせようとした。

「まさか、マリナちゃんが……」

「酒乱だなんてなー」

ジュリアが頭を抱えた。

「お父様が私達にお酒を飲ませなかったのは、きっとこうなるって予感があったからなのね」

「多分ね。お母様にも飲ませなかったじゃん。きっと酒乱の血はお母様譲りだよ」

「どうする?よりによって、国賓がいる晩餐会でやった。……令嬢として終わり」

「終わりだなんて言わないでよ、エミリーちゃん」

「国賓の前で大失態、仮にも次期王妃がだ。……妃候補から下ろせと言われる」

「殿下はマリナが大好きでも?他の子選べって言われても、殿下はウンって言わないよ?」

「王太子の意見より、世論が強いだろう」

「うー。困ったなあ、あー、あー」

「……うるさい。私、あっちで勉強するから」

机の上の教科書を閉じ、エミリーは勉強道具一式を持って居間から出て行った。


   ◆◆◆


「リオネル様、先ほどは大変失礼をいたしました」

「王妃様、お顔を上げてください。僕は全く気にしていませんから」

「ですが、せっかくの楽しいお食事が……」

「いいんです。きっとマリナも腹に据えかねることがあったのでしょう。僕は彼女の友人ですし、しっかり者のマリナの面白い一面を垣間見て、とても親近感が湧いたのです。……ところで、晩餐会の席で仰っていたご用事とは一体何なのですか」

マリナが大暴れした晩餐会の後、国王は出席した貴族に口止めし、王妃はリオネルを別室でもてなしていた。騒然となった会場では、国賓の接待を続けるのは無理だと判断したのだ。部屋にはリオネルと王妃、リオネルに付き添ってきたルーファスが入った。

「十分なおもてなしもできずに、このようなお願いをするのは、大変心苦しいのですが……」

王妃は口ごもった。視線が衣裳部屋のドアへと向けられている。

「王妃様?」

「席を外していただける?」

「えっ」

「ルーファス、いいからちょっと部屋の外に出て」

「あ、はあ……分かりました」

渋々部屋を出ていくルーファスは、腑に落ちない様子で頭を掻いた。


「では、少しの間、お付き合いくださいませね?」

王妃は高貴な微笑でリオネルの言葉を奪い、部屋の隅に控えていた六人の侍女に指示をした。

「水色、髪飾りは青ね」

「かしこまりました!」

「へ……」

あれよあれよという間に、リオネルは着ていた王子の正装を脱がされていく。

「お、王妃様?これは……」

「私、可愛いものが大好きなの。うちのブリジットはまだ小さくて」

「ブリジット様はお可愛らしいです。それとこれは」

ブラウスを脱がされ、胸に巻いていた布を外され、リオネルはぱっと赤くなった。

「あのドレス、入るかしら……」

唇に指先を当てて王妃は考え込んだ。


五分後。

抵抗する暇もなくドレスアップされ、疲れ果てたリオネルは、侍女に髪を整えられながら鏡台の前に座っていた。

「ほうら、やっぱりよく似合うわあ」

王妃は頬に手を当てて、少女のようにはしゃいでいる。

「王妃様、僕にやらせたかったことって……」

「リオネル様、『僕』は禁句ですわよ。ここは『わたくし』と仰って」

「そうではなくてですね……」

「今晩はこのまま、王宮にお泊りになるのよね。お部屋で着替えるまで、どうかこのままでいらしてね」

「ぼ……わたくしは、男物の服の方が好きなのです!」

コンコン。

廊下からルーファスの声がした。

「ちょうどいいわ。彼にも感想を聞いてみましょう!」

王妃が言うと、侍女がさっとドアを開けた。

頭を下げたまま部屋に入ってきたルーファスが、リオネルのドレス姿を見て絶句し、いたたまれなくなったリオネルが彼を突き飛ばして廊下に走り去るのを、夢見がちな王妃は楽しそうに見ていたのだった。


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