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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 8 期末試験を乗り越えろ
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253 異国の王子は王妃に翻弄される

晩餐会は和やかに進んでいた。堅苦しいしきたりが苦手だというリオネルが、立食パーティーにしたいと言っていたが、王族としてもてなされる以上、グランディア国王夫妻と共に上座に座っている。

「リオネ……」

「グランディアの料理はお口に合いますか」

王妃がにこやかに問いかける。先ほどから王妃とリオネルがひたすら会話を続けているため、国王は言い出す機会を持てないでいた。

「はい。学院の食事も美味しくて、こちらに留学している間に少し太ってしまったかもしれません」

「まあ。うふふ。リオネル様は細身でいらっしゃいますわよ」

「妖精のような王妃様にそう仰っていただけるとは。照れますね」

「あの、リ……」

「ところで、リオネル様。今日のお召し物も素敵ですわ。先日お見かけした時も、小物使いがお上手だと感心しておりましたの。うちのセドリックは細かいお洒落ができない無粋者でしょう?リオネル様のおしゃれ感覚を見習ってほしいものですわ」

「コホン、王子……」

「セドリック様はご自身が輝いていらっしゃいますし、何を着ても服の方が見劣りしてしまうのでは?」

王妃は息子をも褒められて有頂天になった。

「うふふ。お口がお上手ですこと。この分なら、ハーリオン姉妹のどなたかを口説き落してしまわれたのではなくて?」

「そ、そうだ。私もそれを聞きたかったのだ!」

やっと口を挟む余地ができ、国王は張り切って声を上げた。


「あなた、声が大きいですわよ」

「すまん……つい、嬉しくて」

「嬉しい?リオネル様がマリナちゃんを選んだらどうなさいますの?うちのセドリックが寝取られ男になってしまいますわ」

「王妃様、寝取ってませんから。っていうか、僕は妃選びを諦めたんです。……事情はご存知だと思いますが」

「まあ……そうだろうな。アスタシフォン王家でも我が国と同じ宗教、同じ教義の下で、宗教政策を行っている。よもや王家が教義に反する婚姻を……」

「簡単に言うと、女の子同士では無理よねってことよ」

王妃がリオネルに耳打ちする。ついでにウインクする悪戯っぽさは、歳を重ねても健在だ。

「はい。ですが、マリナ達とは仲良くなりました。グランディアで辛いことがあったら、僕を頼ってアスタシフォンに来てほしいと思っています」

「辛いことか……そうだな。王太子妃として、ゆくゆくは王妃として、責任ある立場に就けば辛いことも多かろう」

「あら、そうお思いなら、もう少し私を甘やかしてくださっても結構ですのよ?」

「アリシア。お前は少しのびのびしすぎだ」

クスッと笑ってリオネルは丸い瞳を細め、すぐに真剣な眼差しになって、国王夫妻を見つめた。

「……ハーリオン侯爵家を陥れようとする動きがあるのをご存知でしょうか」

晩餐会の賑やかな会話にかき消され、リオネルの声は国王夫妻にしか聞こえない。話を聞いたステファン四世は、給仕を下がらせ微かに頷いた。


「要職に就くことを拒んでいるハーリオン家を陥れて得する者がいると?」

「僕は、個人的な怨恨と、利権の奪取が目的だと睨んでいます」

王妃が口を開けて扇子で覆った。

「侯爵夫妻は恨まれるような方ではなくてよ?マリナちゃん達も可愛いし、ハロルド君は美青年だし」

イケメン関係ないから!とリオネルは心の中でつっこんだ。

「実は、その企みが、我が国を巻き込もうとしているようなのです。……詳しくは調査中で、お話しできる段階にないのですが。僕が帰国した後、ハーリオン家を含むグランディア国民に対して、我が国は何らかの対抗措置を取る可能性があります」

「なんと……!」

「ですが、それはあくまで形式上のこと。僕が友人であるマリナ達を守ろうとして行っただけで、二国間の関係を悪化させる意図はないとご理解をいただきたいのです」

「つまり、静観しろと?」

「はい。事態を収拾させるまで、おそらく数か月はかかるでしょう。アスタシフォン国内の不穏分子が関与している可能性も高いのです。どうか、僕の話を信じていただけないでしょうか……!」


緊張からくる涙がリオネルの頬を濡らした。

王妃は一瞬驚いて、そっとリオネルの手を取り、両手で包んだ。

「……王妃様?」

「私は信じるわ。あなたがアスタシフォンのために……いいえ、大切な人達のために必死になっているって分かるもの。ね?あなた」

隣の国王は口元に手を当てて、渋い顔で視線を落としている。

「国内を混乱させうる不穏な動きを未然に防ぎたい。本来であれば、先に私や宰相が気づき、対処すべき問題なのだが……」

「あなた」

強い調子でゆっくりと呼びかけられ、国王はたじろいだ。

「うむ。……分かっている。つまらない意地を張っていても進展しないことは。私も親友夫妻と子供達を守りたいのだよ」

「では……」

表情に明るさが戻ったリオネルが、ぱあっと頬を染めた。

「我が国は協力を惜しまない。グランディア国王として約束する」

「ありがとうございます!」

「うふふ。うまく話がまとまってよかったわね。……ねえ、リオネル様?」

「はい?」

「晩餐会が終わったら、少しだけ私に付き合ってくださらないかしら?」

扇子で半分顔を隠して優雅に笑う王妃に、リオネルは悪い予感がした。だが、相手は王妃だ。断れるはずもない。

「はあ……。も、勿論、ご一緒しますよ」



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