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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 8 期末試験を乗り越えろ
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239 悪役令嬢は公開告白をする

廊下で座り込んで泣いていたアリッサは、ハンカチで涙を拭いて立ち上がった。

「腕輪……届けなきゃ」

アイリーンはレイモンドにかなり接近している。もしかして、既に『魅了』魔法がかけられているかもしれないが、とにかく彼に会って話を聞かないことには次の手も打てない。

何より、自分の言葉で彼と話したい。彼の口から本当の気持ちを聞きたかった。

スカートの裾を直していると、頭の上から声をかけられる。

「アリッサ」

――っ!

それはアリッサが一番聞きたいと願った声だった。

顔を上げると、制服をスマートに着こなしたレイモンドが、姿勢正しくアリッサを見下ろしていた。屈んで労るでもなく、ただ、アリッサを観察しているかのように。

「レイ様……」

「廊下で何をしているんだ、君は」

――えっ……。

冷たい声にアリッサの肩が震えた。聞き違いかもしれないと、じっと彼の顔を見つめる。

「何をしているんだと訊いている。……シェリンズ嬢と喧嘩をしていたと聞いたが」

「喧嘩……」

喧嘩と言われればそうなのかもしれない。レイモンドからもらったイヤリングを返してと迫ったが、結局手を引っかかれて終わった。

「人通りが多い廊下で騒げば、口さがない者が噂をするだろう。現に、俺は君から彼女に乗り換えたと言われているくらいだからな」

「あ……」

レイモンドは噂を否定しなかった。否定しないどころか、廊下での一件でアリッサを責めるような発言をしている。

「ごめんなさ……私……」


――もう終わりなの?

彼はアイリーンを選んだのかもしれない。

きっと遠くない未来に、自分は花嫁控室で毒入りワインを飲むのだろう。

死にゆく自分を眺めて、彼はアイリーンとキスをする。そして二人は幸せに……。

――ううん。レイ様は幸せになんかなれない!

アイリーンは逆ハーレムを狙っている。レイモンド一人を愛するわけではない。

アリッサはぎゅっと目を閉じた。そして、目を開けて再びレイモンドを見つめた。

「……謝りません。悪いと思ってませんから」

「アリッサ?」

「レイ様がアイリーンをどんなに愛しても、愛してもらえないんだもの!……そんなの酷すぎる。ずっとずっと好き……私の方が、いっぱいレイ様を愛してるのに!」

涙声になってしまった。涙か鼻水か分からないもので顔がぐちゃぐちゃだ。視界が悪く目の前のレイモンドの顔がはっきり見えない。

唇を噛んで踵を返したアリッサの肩が後ろから掴まれた。

「……っ、来い!」

レイモンドの腕が肩に回され、押されるようにしてアリッサは廊下を歩いた。彼は生徒指導室の鍵が開いているのを確認し、ドアを開けるとアリッサの背中をトンと押した。よろめいたアリッサが膝をついた瞬間、背中側でバタンと音がした。


   ◆◆◆


「気を失っただけ……?」

レナードはぽかんと口を開けた。

ジュリアが医務室から戻って間もなく、次の授業が始まってしまい、事の次第を聞けずに悶々としたまま席に着いた彼は、授業終了のチャイムが鳴るなりジュリアを問いただした。

「うん。アレックスがあんまり強く……抱きしめたものだから」

ポッ。

という形容が相応しいような、初心な反応をする。ジュリアの頬が赤く染まる。

アレックスがジュリアを文字通り『抱き潰した』のだと、レナードが理解するのに時間はかからなかった。

「そうか……そうだよな、うん。俺が勘違いしてただけだ」

「勘違い?」

アレックスが金色の目をぱちくりさせる。二人の様子を見て、レナードが安堵の溜息を漏らす。

「いや、いいって、こっちの話。……さっきは悪かったよ、アレックス」

「いいって。俺も悪かったんだ」

「喧嘩はよくないよ。何だか知らないけど」

「俺もレナードに言われて反省したよ。ジュリア……次は力加減、間違えないから」

ポッ。

アレックスもジュリアと同じように赤くなった。

「……だーよーな。こんな二人が、……な」

「ん?」

「何だよ。はっきり言えよ」

「まだまだ俺にもチャンスがあるって思っただけ。ね、ジュリアちゃん?」

「へ?」

自分を見つめてウインクしたレナードに、ジュリアは気の抜けた返事をした。


   ◆◆◆


アリッサはすぐに立ち上がってドアに向かった。

ドン!

内開きのドアを押し、向こう側に押せないと分かる。鍵は外側からかけられないので、誰かが押さえているのだ。

「アリッサ」

「レイ様!開けてください!」

ドンドン!

「……静かにしろ」

押し殺した声が聞こえる。

「お願いです、ここから……」

出して、と言おうとして声が詰まる。

「……しばらく頭を冷やせ。後で出してやる。鍵はかけないが、ここから出るなよ」

「そんな……」

ドアから滑り落ちるようにアリッサは床に膝をついた。


足音が遠ざかり、改めて室内を見渡すと、応接セットがあるのに気づく。

とぼとぼと歩いて長椅子に座り、アリッサはぽすんと横に倒れた。

――もう、分からなくなっちゃった。

涙も枯れてしまったみたいだった。仰向けになり天井を見上げていると、泣き疲れたせいか急激に眠気が襲ってきた。

「ん……」

顔を横に向けて腕に乗せる。瞼がゆっくりと下りて、アリッサは夢の中へ落ちていった。


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