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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 8 期末試験を乗り越えろ
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223 悪役令嬢のテスト対策

学院祭が終わって三日目。

剣技科一年の教室では、生徒達が死刑宣告にも等しい期末試験の予告を受けていた。

「期末試験の試験範囲は、教科書の四十八ページまでだ。基本の例文だけでなく、応用問題もあるからな。しっかり復習するように」

バイロン先生が微かに笑って教科書を閉じた。

「怖……笑った?今、笑ったよね?」

「俺も見た。絶対難しい問題出す気だよ……」

アレックスが赤い髪を掴んで机に突っ伏した。

「そう身構えるなって。バイロン先生だって笑ってもいいだろ?何かいいことあったのかもしれないし」

「ああいうのを悪魔の微笑って言うんだぜ。追試になったらどうしよう……」

「アレックスの場合、追試の前に日頃の行いがね」

「宿題やってきたことないよな」

残念な友人を見て、ジュリアとレナードが憐れむ。


「ね、やっぱ、誰かに教えてもらおうよ」

「当てがあるの?ジュリアちゃん」

「んー。私が知ってる限りでは、ハリー兄様か……」

「ハロルドさんは勘弁して!……ってか、きっとマリナちゃんに勉強を教えるって言い出すよ?そこを邪魔したら悪いよ。命がいくつあってもたりないだろ」

「俺もそう思う。だから、セドリック殿下もパスだな。マリナは成績がよさそうだから、教わらなくてもいいと思う」

「レナード、誰かいい人いない?」

「そうだなあ……二年か三年の……」

「ああっ!」

いきなりアレックスが大声を上げ、クラス全員がこちらを向いた。

「……なあ、リオネルに教わればいいんじゃないか?」

「リオネルに?」

「そうか!殿下には母国語だからな。帰国するまであと四日しかないけど、頼んでみる価値はあるね」


三人が期待の眼差しで見つめているとは知らず、リオネルは教室のドアのところで誰かと話しているところだった。

「ノアじゃないか?」

「ほんとだ。……リオネルが怒ってるね」

ノアに自分の教室へ帰れと怒鳴っているようだ。

「ノアも過保護だからねえ。朝はルーファスがべったりだったよね。私も話しかけづらくて」

「帰国が近いからいろいろあるんだろう。……お願いするのは悪いか?どう思う?」

三人は顔を見合わせた。


   ◆◆◆


「エミリーさん!魔法薬学の試験範囲は聞いていましたか?」

「……聞いてない」

「また寝てたんですね?試験の出題範囲も知らないようでは、対等な勝負とは言えませんからね。特別に教えます。……教科書の、ここから……」

キースはパラパラとページをめくる。

「ここまでですよ。……印をつけておきますね」

「うん。ありがとう」

「一年の一学期ですから、初歩の初歩ですし、エミリーさんの魔法の知識なら余裕ですよ」

「そうかなあ……んー……ぐう」

「寝ないで!起きてください!エミリーさん!」


ぐうたらなエミリーを励まし、寝そうになっている彼女を毎日教室まで連れてきて、期末試験の出題範囲を教えて……キースの献身ぶりは教室でも評判になっていた。

「ほら、また……」

「まあ、仲がいいわねえ。羨ましい……」

「五属性持ちで筆頭侯爵家の令嬢ですもの、エンウィ家も逃したくないと見えますわ」

「由緒正しい魔導士の家系に箔がつくでしょう?」

「そう言えば、お二人は婚約間近だとか」

「ええっ?存じませんでしたわ」

「先日、朝の登校の時に、婚約がどうのと話してらっしゃいましたもの。間違いありませんわ」

噂好きな女子生徒達が盛り上がっているとはつゆ知らず、エミリーは机にうつ伏せになり、顔にノートの型をつけながら寝ていた。


   ◆◆◆


「今日から勉強会を再開しましょうね」

二時間目と三時間目の間の休み時間に、普通科一年の教室に現れたハロルドは、極上の微笑を浮かべてマリナの手を取った。

――手、取らなくていいってば!

「勉強会……?」

「学院祭が忙しくて中断していましたからね。アスタシフォン語の他にも、数学でも歴史でも何でも……」

「い、いえ、私、数学と歴史は得意教科ですから」

マリナはどうにか義兄との二人きり勉強会を避けようと思案した。

「そうですか」

「学年主席のアリッサもいますし、ご心配なく!」

「アリッサなら、レイモンドがつきっきりで教えると言っていましたが」

――げ。アリッサは言ってなかったのに!勝手に決めたな、レイモンドの奴……。

「では、勉強会をする部屋が」

ありませんよね、と言う間もなく

「自習室は一つではありませんから、彼らと別の部屋で勉強しましょうね」

と、義兄は美しく微笑む。

「ですから、ええと……」


「マリナ!」

廊下を走るような足音がして、ドアの前のハロルドが押されて横に傾く。

「あ、と、ごめんね?……ハ、ハロルド?」

「廊下を走るとは、国家に関わる急用ですか、王太子殿下?」

ハロルドはさり気なく嫌味を言う。二人の視線が絡み、表情が険しくなった。

――ひいいいいい!

マリナはすぐにドアから離れて逃げ出したい衝動に駆られた。が、そんなことはできない。ハロルドに片腕を掴まれ、セドリックにもう一方の手首をぎっちり握られている。

「遅くなってしまったね。学院長先生に捕まって」

「は、はあ……」

「試験前だから、生徒会活動もお休みだよ?当然、僕と一緒に試験勉強するよね?」

――当然って何ですか???

両想いを確信してからのセドリックは、かなり積極的だ。以前から積極的ではあったが、ここ数日は度を超している気がする。

「おや、マリナには私が教える予定になっているんですよ?二年より三年が教える方が、より高度な学習ができるというものです」

「そうかなあ?学院で学ぶ内容を、僕は既に王宮で家庭教師から学んできたんだよ。現役の三年生よりよく知っていると思うな」

再び火花が散る。竜と虎が戦う掛け軸のように、対峙する二人を絵に描いたらよさそうだと、マリナは現実逃避した。


「お兄様も、セドリック様も、ご自身の試験勉強はよろしいんですの?聞けばお兄様は万年二位、セドリック様は一位でもマクシミリアン先輩がわざと手を抜いていると噂されておいでですよね」

「……それは……」

「……噂は知っているよ」

二人の空気が重くなった。

「お兄様も本気で勉強して、レイモンド様を負かしてみたらいかがです?」

「セドリック様も、誰にも文句を言わせないように……」

「うん、分かった。満点を取ってみせるよ!」

セドリックが力強く宣言した。

「レイモンドに勝つには、満点を取るしかなさそうですね」

と静かにハロルドが頷く。

「頑張ってくださいね。……では、私はこれ、でっ!」

ガツ!

閉めようとしたドアに、二人の足が挟まった。

「……まだ、話は終わってないよね、マリナ?」

「そうですよ。一位になったら、あなたから特別なご褒美をいただけるのでしょう?」

――特別なご褒美って何よ!?

「は、ははは……」

美しい二人から受ける威圧感に、マリナは何も言えなくなった。


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