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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
378/616

【連載5か月記念】閑話 悪役令嬢がRPGだなんて聞いてません! 7

「勇者よ。魔王討伐に向かうそうだな」

玉座に堂々と座っているのは、毛皮があしらわれたガウンを羽織ったアイリーンだった。ガウンの下はスリットが深く入った真紅のドレスだ。ドレスは胸元が大きく開いており、肩から流れるピンク色の髪が広がっている。身に付けている宝石はどれも大粒で、おそらく王家の秘宝だろう。

「ジュリアちゃん、あれ、アイリーンだよね?喋り方がおかしいけど」

「悪女感がハンパないね。国王はどうしたのさ」

「しっ。黙って」

キースが二人を黙らせた。

女王のようなアイリーンは、高いハイヒールをカツカツ言わせながら大理石の階段を下りて、アレックスの前に立った。持っていた扇子を閉じ、彼の顎の下に当ててクイッと顔を上げさせた。

「そなた、アレックスとか申したな。なかなかいい顔をしておる。……どうじゃ、今宵、我が褥に参らぬか」

「……は?」

言葉づかいが難しく、アレックスには理解ができなかったようだ。口を半開きにして固まっている。

「驚くのも無理はないが……そなたの返事如何で、支度金を倍取らせようぞ」

「支度金……倍?」

首を傾げるアレックスの後ろで、ジュリアはアリッサに小声で尋ねた。

「ねえ、何言ってんのか分かんないんだけど」

「アイリーンはアレックス君にベッドの相手をさせようとしてるのよ。支度金を二倍出すからって」

アリッサは王宮内の使用人が若い男だけだった理由を推し量った。魔女アイリーンの愛玩用なのだろう。

「何だって!?」

「ダメ、ジュリアちゃん!」

キースとアリッサの制止を振り払い、ジュリアはアレックスの隣に立った。腕で彼の首を抱き、ぐっと自分に引き寄せる。

「ジュリア……」

「何じゃ、この女は」

「アレックスは私の夫だから、渡さないっ!」

「夫……!?」

アイリーンだけではなく、その場にいた全員が驚いた。当のアレックスも目を丸くしている。

――あれ?違ったのかな?

マリナがセドリックと結婚している設定なら、自分とアレックスも夫婦なのではないかと思って言ってみたのだが、彼の反応を見る限り違ったらしい。

「あ、あれ?」

ちらりと見るとアレックスが真っ赤になって口をパクパクさせている。

「フン!興が削がれたわ。支度金は渡さぬ。……この者らを即刻城から追い出せ!」

魔女アイリーンは声高に叫んだ。


   ◆◆◆


「これで今日の納品分はできあがったな」

マシューは自分で肩を叩いた。

「肩、揉みますか?」

「……いや、いい。お前と触れ合うと、変な気持ちになるからな」

「変……?」

マシューは目を細めてエミリーの頬を指先でなぞった。一瞬顔に当たった大ぶりのシルバーリングが冷たく、飛び上がりそうになる。

「言っただろう?食うのは先にする、と」

「はい……」

「だが、お前を前にすると、その誓いさえ忘れそうだ。……この小さな唇を塞ぎ、白い肌に痕跡を刻んで、俺の下で啼かせてやりたくなる」

「……っ!」

エミリーが動揺して後ろによろめき、ぱっとマシューの手が離れる。

「……冗談だ。ほら、出かける支度をしろ」

「出かける?私、ここから出られないのではないのですか?」

「街に行く。次からお前が一人で魔法薬を売りに行くんだ。今日はついて行ってやるが」

「一人で街に出るなんて、私が逃げたらどうするんですか?」

何気なく訊ねると、マシューの赤い瞳が一瞬曇った。

「……逃げたければ、逃げればいい。俺は一人に戻るだけだ」

――一人にしてはいけない!

「逃げませんよ。あなたを一人にはしません」

「……」

マシューは驚き固まっている。

「……そんなことを言った娘は、初めてだ」


できあがった魔法薬を箱に詰めながら、マシューはこれまで魔王の『花嫁』として差し出された生贄の娘達について話し出した。彼の口から他の女の話を聞くのは、エミリーにとっては苦行でしかなかった。

「では、皆逃げていったの?」

「俺を油断させて鍵を奪った者、魔法薬を売りに行き売上金を持ったまま街で姿を消した者、城に来た他の魔族を籠絡して手引きさせた者……皆俺を裏切った」

「……まさか、その人たちを……」

彼は手にかけたのだろうか。

エミリーの背中を嫌な汗が伝う。

「どうもしないさ。放っておいても構わない。……ああ、中には行きずりの男と関係してできた子供を、俺に手籠めにされてできたと言い張った奴もいたな」

「うわ、最低……」

「魔王の『花嫁』として差し出される娘は、村で爪弾きにされた問題児が多いからな。お前ぐらい普通だと、こっちも逆に勘ぐりたくなる」

「何もありませんよ」

夢の世界に入った時には、あの草原に一人だったのだ。『花嫁』になった経緯など知らない。ただ、マシューを魔王にしたくない、それだけがエミリーの願いだった。

「あなたを魔王にしたくなかったんです」

「俺はすでに魔王だ。手遅れだろう?」

「そうですね。でも、悪い人ではないと思うんです」

じっとエミリーに見つめられ、マシューはたじろいだ。背中の黒い羽根が無意識にパタパタと動いている。

「……そう、か?」

「生活のために作っている魔法薬も、材料代程度の安い値段ですし、使い魔もあなたを慕って従ってるって分かります。私にも無茶な要求はしないで……その、食べる、のを待ってくれて……」

そっと腕に触れると、羽根が動きを止めた。

「……好き。あなたが好きです」

現実世界で魔王になってしまっても、彼を一人にはしない。

マシューに飛びついて抱きしめると、黒い衣装の鎖がジャラリと音を立てた。


   ◆◆◆


――これは、夢なのよね?

マリナは目の前の状況を整理しようと必死だった。

「愛しているよ、マリナ……」

――私、天蓋付きのベッドに押し倒されている……わよね?

「君達をここに住まわせてから、四年以上……こうして君に触れたかった」

はあ、とセドリックの熱い吐息が耳にかかる。髪を撫でていた手が肩から胸へと下りてくる。

「ま、待って!」

「待てないよ……」

「エルとウィルが寝ているのよ!」

子供達が寝ているベッドに押し倒して、何を考えているのだ、この王子……いや、国王か。

「僕としては、君の可愛い声を聞きたいところだけど……声を上げないように堪えてね」

青い瞳が欲望の色に輝いた。


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