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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
377/616

【連載5か月記念】閑話 悪役令嬢がRPGだなんて聞いてません! 6

「……あれ?」

ベッドの上で目を覚ましたエミリーは、何か温かい肌触りがして驚愕した。

隣に寝ている男の乱れた黒髪が見える。床の上にはマシューが着ていたロック衣装が散らばっている。

――って、裸で寝てるの!?

自分は服を着ている。着ているが……。

思いっきりセクシーなネグリジェに着替えさせられていた。エミリーは終わったと感じた。

完全に『事後』なのではないだろうか。


あの後、マシューとキスしたところまでは覚えていた。

魔力が心地よくて蕩けた。頭の奥が痺れて、すぐに何も考えられなくなった。

――で、どうなったんだろう?

エミリーは真っ青になった。……顔色には出ないが。

「ん……?起きたのか」

裸のマシューが起き上がり、危うく毛布が捲れそうになった。

「ダメ、起きないで!」

毛布を掴んで身体に押し当て、そのまま押し倒してしまう。

「なんだ、積極的だな。……もう一度か?可愛くおねだりしてみろよ」

「おね……!」

絶句。

エミリーは灰になるかと思った。

――マシューはこんなこと、絶っっっ対に言わない!

「ち、違うからね!は、裸だから、早く服を着て頂戴!」

「分かった分かった。……さて、仕事にするかな」

「仕事?……魔王って普段何をしているの?」

人の生き血をすするとか、使い魔をけしかけて村を襲うとか、グロい話だったらどうしようとエミリーは思った。が、マシューは薄く笑っただけだった。

「お前にも手伝ってもらうぞ」


『魔王専用』と殴り書きで書かれた看板が傾いている。

マシューの実験室は、魔法薬の怪しい臭いが立ち込めていた。

「何なの……」

「俺はここで魔法薬を作っている。街で売れば……金ではなく物と交換だが、食うには困らない」

「つまり、仕事ってこれ?」

「そうだ。この頃は魔法薬の依頼を受けることもあるんだ。効きが速いと評判だぞ」

――魔王の夢って、こんなのだっけ?

姉達にはもっと怖い夢を見ると聞かされていたのに、これでは依頼を受けて薬を調合するゲームのようだ。魔王の弟子になってしまいそうな気がする。

「俺が言った材料の瓶を、そこの棚から取って渡してくれ」

「……分かりました」

このままずるずると彼のペースに呑まれてしまいそうだ。毎日一緒に目覚めるのだろうか。

目覚め……。

「あ」

「どうした?」

マシューは鍋に入れた薬草を混ぜながら、どうでもよさそうに問いかけた。

「昨日って、最後まで……」

「うっ」

ガタン。バシャン!

「きゃっ」

小鍋が床に落ち、エミリーに熱い湯がかからないように咄嗟に守ったマシューが、痛そうに顔を顰めた。

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃない!火傷してるよ!脱いで!手当しなきゃ」

動揺したエミリーは敬語が抜けた。マシューの皮パンツのベルトに手をかける。

「だ、や、やめろ。俺はいいから」

「よくない!」

「脱がそうとするな!……その、下着をつけていないんだ」

ピシ。

エミリーは今度こそ灰になるかと思った。

視線を逸らして顔を赤らめるノーパン男は、そっとエミリーの手をベルトから外させる。

「……昨日は何もなかったから、安心しろ。食うのは……まだ先でいい」


   ◆◆◆


「いやにあっさり通ったな」

レイモンドが不満の声を上げた。王都に入り、勇者一行として城で王に会いたいと言ったら、旅立ちの装備支度金をくれると言われた。謁見の間の控室に通され、五人は募る不審感に苛立っていた。

「王宮なのに、身分も調べないなんて、変なところだよな」

アレックスがぼやいた。ジュリアの言う『勇者っぽさ』を出すために服装を黒系から青系に変え、キラキラする装身具をいくつかつけている。剣は慣れたものが使いやすいので、前から持っているものを磨いて光らせた。

「明らかに勇者っぽい格好してるアレックスと、魔法使い、神官、剣士、踊り子の一行だもんね。……支度金、いくらだと思う?」

「無駄遣いしちゃダメだよ、ジュリアちゃん」

「王への謁見がこんなに簡単でいいはずがない。落とし穴があるだろうな」

眼鏡を中指で上げ、レイモンドが考え込んだ。


「お待たせいたしました。どうぞ、こちらへ」

若い兵士が五人を呼びに来た。王宮に入ってからというもの、若い男以外の使用人を見た覚えがない。アリッサはジュリアの袖を引いた。

「ね、どうして若い人しかいないのかな?」

「さあね。仕事がキツすぎて年寄りじゃ務まらないとか?」

ひそひそ話をしている間に謁見の間に通された。人が入ってくる気配に、床に膝をつき頭を下げる。

「面を上げよ」

五人の耳に届いた声は、セドリックのものではなく、ぞくりと背筋が凍るような女のものだった。



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