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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
376/616

【連載5か月記念】閑話 悪役令嬢がRPGだなんて聞いてません! 5

「魔王印のアビドキン?」

「何かな?お菓子みたいだけど」

王都から少し離れた宿場町で宿を探したジュリア一行は、町の土産物屋で売られている不思議な食べ物に興味を引かれた。

「とりあえず、一つ食ってみようぜ。おばちゃん、これ一つ!」

一袋手に取って、アレックスが勘定を支払う。銀貨一枚とは、菓子としてはそれなりの値段だ。早速袋の口を開け、一つ手に取って口に放り込んだ。

「お、……ん?……むぐ」

「どう?アレックス」

「……んっ。……これ、美味いぞ!ジュリアも食ってみろよ」

「どれ?」

ジュリアはアレックスがつまんだ二つ目を、彼の手首ごと引っ張って口に入れた。少し指先を舐めてしまったようで、アレックスが顔を赤くする。

「なっ……」

「あ、ホント!お餅みたい!」

「オモチ?」

「外国の食べ物だよ。アリッサ、食べてみて」


五人は一袋を分け合い、概ね美味であるという評価をしたところで、袋に書かれた『魔王印』とは何か店主に訪ねた。

「お客さん、知らないのかい?ま、店の真ん前で皆で分け合ったところを見れば、知らないんだろうけどねえ……」

「もったいぶらないで教えてよ」

「アビドキンは、この辺じゃ有名な元気が出るお菓子なんだよ。……特に、夜にね」

店主のおばちゃんはにやりと笑って五人を見た。

「えっ……」

アリッサが絶句する。隣に立っているアレックスは、調子に乗って袋の半分をたいらげてしまったはずだ。無事では済まないだろう。

「ジュリアちゃん……」

「……よし、次からお菓子を買う時は気をつけないとね」

「魔王、とは何なのだ、店主よ。よもや魔王がこの菓子を作っているのではあるまいな」

「魔王様お手製だよ。これだけじゃない。他にもいろいろ評判がいいんだよ。魔王印の魔法薬は。この貼り薬なんか翌朝には肩こりも腰痛も治るさ。こっちは腹の薬で……」

「嘘っ」

この世界の魔王は実業家のようだ。

「魔王様お手製のもの以外に、『魔王』なんてつけられるかい?罰当たりだろう」

「では、魔王はこの店に定期的に品物を納めに来るのか?」

黙って話を聞いていたレイモンドが、店のカウンターに身を乗り出して尋ねた。

「本人は来ないけれどね、使い魔が持ってくるのさ。品物を受け取って、代わりに魔王が欲しい物を渡して。物々交換だあね」

「何てことだ……魔王が人々の生活に馴染んでいるとは」


「ところでお前さん達、王都に行くのかい?」

「どうしてそれを!」

キースが青ざめた。このおばちゃんは心を読むのか?と一歩後退した。

「さっきあんたが王都の地図を買ったからさ。あそこは大きい街だからね。地図で宿屋を探して歩かないとって」

「……そうでした。はい。王都に行きます」

「じゃあ、気をつけたほうがいいよ。あそこは、魔女が治めてるって噂だからね」

「魔女?」

「王様じゃないの?レイ様、ご存知でしたか?」

「いや。俺がいた神殿がある聖跡都市から王都は遠い。国王が傀儡になっているのではないかと言っている者もいたが……情報が入って来ないんだ。店主、もう少し詳しく教えてもらえないだろうか」

「魔女だか何だかよく知らないがね、国王陛下は悪い女に引っかかっちまったのさ。何年か前にご結婚なさった王妃様も、今はどうなっているのやら」

「王妃様……」

ジュリアが口元を手で覆う。

「おばさん、王妃様って、どんな人だか分かる?絵姿とかないかな」

「ええと、ちょっと待ってね。確か、ご成婚記念のプレートがあったはず……」

店の奥の埃がかかった棚から、店主は縁がよれている染みだらけの箱を取り出した。

「あったあった、これだよ」

手で埃を払い、箱の蓋を開ける。埃に目を閉じたジュリアが再び目を開けると、そこには幸せそうに寄り添う二人の絵が描かれていた。顔を寄せたアリッサとジュリアは、視線を合わせて頷いた。

「これ……どうしよう、ジュリアちゃん」

「間違いないよ。セドリック殿下とマリナじゃないか……」

「マリナちゃん、どうなっちゃったのかなあ……」

「王都に行くしかないね。マリナがいるなら助けなくちゃ。エミリーの情報もあるかもしれないし」

「そうだね。うん。魔女に負けていられないよね」

決意を込めて握りこぶしを作ったアリッサのマントがはだけ、踊り子のセクシー衣装が露わになった。赤くなりながらガン見しているアレックスの脇腹に、ジュリアの鉄拳がきまったのは直後のことだった。


   ◆◆◆


「遅くなってごめん」

部屋に入ってくるなり、現実より少し大人びたセドリックは、ベッドサイドまで小走りで駆け寄り、マリナをきつく抱きしめた。

――セドリック様なの?私達を閉じ込めているのは……。

ふわり。

彼の服から女物の香水の香りが漂う。

「放して!」

腕で胸を押すと、簡単に彼は拘束を解いた。

「マリナ……」

「こんなところに閉じ込められて、私達……」

「僕が何をしても、君はもう信じてくれないんだね」

「信じる?何を?」

「僕だって君をここから出してあげたい。エルドレッドとウィルフレッドも、広いところで遊ばせてあげたいんだよ」

「なら、何故っ……」

責めるような視線でセドリックを追い詰める。彼は弱々しく笑って頭を振った。

「何も言わずに閉じ込めてごめんね。……そうだね、そろそろ潮時かもしれない。僕が君達を閉じ込めているのは、この離宮が魔女の目を眩ませているからだよ」


「魔女……」

「己の野心から近づいてきたあの女を、不甲斐ない僕が排除しきれなかったのが原因だ。勝手に僕の愛妾だと言って権力を握り……王都を火の海にしたくなければ、君を殺せと言われた」

――何なの?夢なのに話が重すぎるわ。

「そんなこと、できるわけがないじゃないか!愛する君を手にかけるくらいなら、死んだ方がマシだ。でも、君が苦しむのが分かっていて、無責任に死を選ぶなんて最低だろう?だから、何か方法がないかと調べて……見つけ出したんだ。かつて魔王が王都にいた頃、この離宮に住んでいたと。離宮は魔王が張った結界が今も生きているってね」

「結界が……」

「あの女より、魔王の魔力が上回る。外から結界の中は見られない。音も聞こえない。お腹の子諸共、君は死んだと嘘をつき、僕は君を閉じ込めたんだ」

セドリックはマリナの肩に手をかけた。

「僕は決心したよ。必ず玉座をあの魔女から取り戻してみせる。王宮をエルとウィルが自由に走り回れるように」

「セドリック様……」

「……やっと、名前を呼んでくれたね」

長い指がマリナの銀髪を梳いた。


今晩のうちに閑話完結できませんでした。

明日に持ち越します。申し訳ございません。

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