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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
374/616

【連載5か月記念】閑話 悪役令嬢がRPGだなんて聞いてません! 3

「会えて嬉しいよ、アリッサ。……てか、何なの、そのカッコ」

「アリッサは踊り子なんだ」

ジュリアの質問にレイモンドが答えた。

「……踊れるの?」

「大丈夫みたい。夢の中だから」

彼に聞こえないように姉妹は小声で話をする。

「ふうん。じゃあ、四人でパーティ組まない?キースも入れて五人かな」

「おい、ジュリア。勝手に誘うなよ」

肩を叩いたアレックスは、アリッサを見て固まった。銀色の後れ毛がかかる華奢な肩、小柄な身体に不釣り合いに思える豊かな胸の線、くびれた腰と視線を下ろしていく。

「……っ、いでででででで!」

ブーツの踵で思い切り足を踏まれ、アレックスは絶叫した。

「私の妹をいやらしい目で見ないでくれる?」

「見るなって、見えるようにしてんのが悪……いででででで!」

「ハアン?何だって?この変態が!」

「何でもねえよ!ひっ……」

アレックスの頬をレイモンドの杖が撫でた。緑色の瞳は怒りで明るく輝いている。

「神官のみが許される禁忌の魔法を知っているか」

「し、知ってま……」

「今ここで死んでみるか?生き返らせてやるかは分からんがな」

「すみません、もうしません!」

涙目で土下座に入ったアレックスを杖で一打ちし、レイモンドは自分のマントを脱いでアリッサに着せた。

「仲間になってやってもいい。いざとなったらお前が前線に立つならな」

「やった!ありがとう!回復魔法が使えるメンバーが欲しかったんだ!」

「ジュリアちゃん……ここ、エミリーちゃんの夢の中なんだよ?」

状況を思い切り楽しんでいる姉を見て、アリッサは呆れ顔で溜息をついた。


   ◆◆◆


魔王らしいマシューの城に連れて行かれたエミリーは、悪夢対策が失敗だと気付いていた。乙女ゲーム『永遠に枯れない薔薇を君に』で魔王化したマシューは、魔力が暴走していただけで、見た目は普通の彼だった。

――こんなロック仕様じゃなかったのに。

これはこれで素敵ではある。普段分厚いローブの下にこんな鍛えられた身体が、と思うと頬が火照ってくるのが分かった。

「……何だ」

「いえ……」

じろじろ見ていたのを不快に思ったのだろう。マシューは髑髏を模した飾りがついた黒い肘掛椅子から立ち上がり、壁から足枷で繋がれているエミリーの前に歩いてきた。少し踵の高い黒い皮のブーツが冷たい石造りの床を踏み鳴らす。

「泣くなり喚くなりしたらどうだ?俺は魔王らしいからな。明日にもお前を食らうかもしれないんだぞ」

「食べませんよね?」

「さあな。俺の気分次第、といったところだ」

蹲るエミリーを見下ろし、腰を曲げて顔に手を伸ばした。

「やっ……」

顎を掴まれ上を向かせられる。赤い瞳と視線が絡んだ。

「ほう……そうだな、しばらく食うのはやめておこう」

――やっぱり食べられるのか。

目の前のマシューは明らかにファンタジーの魔族のようだ。同じく剣と魔法の世界でも、『とわばら』の舞台であるグランディアには背中に翼のある者はいない。

「食べな……っ、んんっ……」

食べないでと言おうとしたエミリーの唇が塞がれる。

――夢の中なのに!何なの!これ!

自分の願望がこの物語を生み出しているとしたら……。恥ずかしくて姉達には教えられない。

唇を離して、マシューはフッと微笑んだ。

「……甘いな。癖になりそうだ」

「味見……?」

――こんなエロ魔王、マシューじゃないっ!


   ◆◆◆


「魔王討伐って言ってもさ、どうやって行くんだ?」

冒険者ギルドの前でキースを待ちながら、四人は立ち話をしていた。

「魔王の城は海を隔てた小島にある。強大な魔力が全体を覆っているから、転移魔法で行くのは無理だ。船に乗るか、地下迷宮を通るか……」

レイモンドが話すのをアリッサが瞳をきらきらさせて見ている。

「レイ様、素敵。夢の中でも博識でいらっしゃる……」

「話聞いてた?アリッサ。地下迷宮だなんて、アリッサが通れるわけないじゃん。すぐにどっか行っちゃうよ」

「ううう……」

「では、移動手段は船になるな。先に王城へ行き、魔王討伐隊として認められなければならない。もう一人……キースと言ったか、彼が到着次第、王都へ向かおう。多少は戦闘訓練にもなるだろう」

この四人では必然的にレイモンドがリーダーだった。回復魔法が使える神官風衣装の魔法使いなのに、だ。

「王城に行ったら、誰が勇者だって言うの?」

「見た目だけならアレックスがいいと思う。ね、どお?」

「俺?……いやあ、照れるな。ジュリアが言うなら……」

「嫌なら無理にならなくてもいいぞ」

「な、なりますなります!俺、勇者で」


恐ろしいほどに荷物を背負ったキースが到着したのは、日が陰ってきた頃だった。

「す、すみません。準備に手間取ってしまって」

「いいけどさ、その荷物全部持ってくの?」

大きなリュックサックの上にはピクニックシートのようなものが丸めて結わえてあり、左右の肩紐には何が入っているのか巾着袋が複数吊るされている。

「魔法薬と薬草と地図とテントと……あとは僕の着替えです」

「着替え?」

「そっか……気づかなかった……」

ジュリアとアリッサは顔を見合わせた。夢の中であっても、時間が経てば着替えをする。暗くなってきたら宿にも泊まるかもしれない。自分達には十分な旅支度はなかった。

「王都に行けば様々なものが買えるだろう。今日のところは次の町まで行き、宿を取ろう」

キースが持っていた地図を広げ、レイモンドが指示を出した。



今晩頑張って閑話を完結できたらと思っています。

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