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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
373/616

【連載5か月記念】閑話 悪役令嬢がRPGだなんて聞いてません! 2

「よっしゃ、一丁上がり!」

長い細身の剣を振るい、ジュリアはオークにとどめを刺した。一面緑色の林の中では、赤い騎士服が目立つ。金糸で刺繍がある華やかな上着は裾が膝まであり、敵を薙ぎ払う度に翻って美しかった。

「すげーな、もうやっつけたのか」

木立の向こうから走ってきたアレックスが目を丸くする。黒に銀糸で刺繍がある騎士服を纏った彼は凛々しく、ジュリアは一瞬見とれてしまった。

――夢の中なのに、惚れ直しそう。

「こんなの、朝飯前か。そういや、飯まだだよな。賞金をもらって何か食いに行くか」

アレックスに肩を叩かれ、ぼんやりしていたジュリアは我に返った。

「あ、うん……」

「なあ、まだ迷ってんのか。魔王討伐」

――魔王?

「俺はお前とパーティーを組みたい。キースには声をかけてあるんだ。戦力的には充分だろ?」

「パーティーって……」

「一人で倒しに行けないだろ。なんたって敵は、六属性の魔力を操る魔王・マシューなんだからな」

――私達が倒したらどうなるの!?エミリーは何処よ!

「う、うーん……」

闘志に燃えるアレックスを見ないようにして、ジュリアは首を捻った。


   ◆◆◆


「おかあさま、ご本よんで!」

「ぼくが先だよ!ははうえのおひざはぼくのものだ!」

目の前で金髪の子供達が兄弟喧嘩を繰り広げている。マリナは長椅子に座って、三、四歳くらいと思われる彼らを微笑ましく思っていた。

――確か、エミリーのために夢を見たはずよね……。

おかしい。どう考えても自分はこの子達の母親役だ。願望が夢になるとは聞いたが、自分が前世から持っていた夢が形になるとは思ってもみなかった。マリナは『素敵な夫と可愛い子供達に恵まれて幸せな生活を送る』という夢があった。が……。

――この子達、金髪だわね。

自分の銀髪ではなく、おそらく夫譲りであろう金髪に、自分と同じ紫色の瞳の子供達がじゃれ合っている。仕立ての良い子供用の上着に半ズボン、白いハイソックスの典型的な貴族子弟の服装だ。幸せな一場面なのだろうが、胸に不安が押し寄せてくる。

「ねえ、二人とも」

「なあに?」

「どうしたの、おかあさま」

「お母様の妹……叔母さんを見なかった?」

とにかく妹達と合流するに限る。同じ夢の世界にいるはずなのだから。

「おばさん?」

「見たことなあい」

「叔母さんのお家に行きましょうか?」

自分が既婚者設定なら、妹達も既婚の可能性が高い。家に訪問すれば合流できると考え、マリナは息子たちに訊ねた。

「ぼく、お家からでたことないもん」

「おとうさまが、おかあさまとぼくたちは、お家から出ちゃだめだって」

――これって、軟禁!?

さあっと血の気が引いた。


セドリックに不貞を疑われた王太子妃は、彼の子を身籠りながらも人里離れた城に幽閉されてしまうのだった。今の状況はそれではないのか。それとも、ハロルドが隠しキャラで、完全に病んでしまった彼に閉じ込められているのだろうか。

「おかあさま、元気を出して」

「父上は、夜になったら帰ってくるよ。ぼくたちもいるから、さびしくないよね?」

マリナの両隣に腰かけた息子たちが、膝に頭を乗せてくる。天使のように可愛らしい。

――私が悪夢を見るなんて、誤算だったわ……。

柔らかい金髪を撫でながら、早く夜が明けて夢から目覚めますように、と強く願わずにはいられなかった。


   ◆◆◆


アリッサは冒険者ギルドの掲示板を食い入るように見ていた。露出の多い水着に似た服に、ひらひらした長いパレオを巻いている。銀の髪は高い位置で結い上げ、派手なアクセサリーをつけていた。夢の世界で自分が踊り子になっていると気づいた時、アリッサはこの服が嫌で仕方がなかった。恥ずかしすぎると思った。

――夢の中でくらい、ダンスが得意になりたいって思ったら……。

こんなはずではなかった。失敗もいいところだ。

「……これもダメ。踊り子の募集はないわ。回復系呪文が使える魔法使いは募集が多いのに……」

「俺はお前と一緒でなければ、パーティーに入らないからな」

隣で掲示板を見つめる神官姿のレイモンドが、優しく側頭部を小突いてくる。

「レイ様……」

――カッコよすぎて、鼻血が出そうだわ……。

自分の服装は最悪だが、レイモンドの神官姿は堪らなかった。禁欲的な丈の長い白い衣装は金糸で刺繍がされており、冷酷無比と呼ばれている彼のクールな風貌によく合っている。淡い水色の髪もいい。アリッサは、二人きりで旅をしている設定だと知り、躍り上がって喜んだ。

「『お前』って……」

少しだけワイルドな彼も素敵だ。夢の中のレイモンドは『君』とは呼ばない。露出の多い服のアリッサを人目をはばからず抱きしめ、スキンシップを仕掛けてくる。神官なのに、だ。

「アリッサは一人で旅ができないだろう?」

――夢の中でも方向音痴なのね……。

旅の踊り子なのだから、運動音痴ではないと思っていたのに、方向音痴はそのままなのか。

「他の男にお前を治療させられるか!お前に触れていいのは俺だけだ」

「レイ様!」

思い余って抱きつこうとすると、目の前に赤いものが横切った。

「きゃっ」

「あ、ゴメン……って、アリッサ!?」

目の前のジュリアはいつもの彼女そのままだった。アリッサの露出狂ぶりに驚き、口をあんぐり開けている間抜けな顔も変わらない。

「ジュリアちゃん!よかった、会えて……」

アリッサの視界がぼやける。涙が溢れたのが分かった。


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