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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
370/616

221 悪役令嬢は期末テストに怯える

「侍従が探してる。早く帰れば?」

気まずそうにもぞもぞと起き上がったセドリックに、エミリーは冷たく言い放つ。

「マリナも。アリッサが心配してた。帰るよ」

「あ、うん……」

寝転がっていたせいで乱れたスカートを調え、マリナは立ち上がって咳払いをした。

「私達、魔法で帰るから。居場所は伝えておく」

セドリックの返事を待たずに、エミリーはマリナの手を掴んで転移魔法を発動させた。


白い光が消え、その場に残されたセドリックは、呆然と部屋に立ち尽くしていた。

廊下から手近な空き部屋――この滅多に使われない相談室――にマリナを連れ込んだものの、床に敷かれた豪奢なカーペットの縁でつまづいたマリナが倒れ、彼女を起こそうとして自分も転んでしまったのである。ふわふわしたカーペットが敷かれているので痛くはなかったが、押し倒したような体勢になってしまい、それまでの濃密な『愛の語らい』が媚薬のようにセドリックを後押しした。自分はマリナに拒絶されない(だろう)という安心感が、彼をさらに大胆にさせた。

結果、起き上がらないでそのまま、マリナの上に四つん這いになっていたところへ、エミリーが現れたのである。

「……侍従に何て言うつもりなんだろう」

頭が冷えた今となっては、セドリックの関心事は侍従への報告だけだ。自分は生徒会の会議で遅くなったと言う予定だったが、こうなった以上は信じてもらえそうにない。先にアリッサが帰っているということは、彼女を寮へ送って行ったレイモンドも帰っているだろう。エミリーの証言であらぬ誤解を受ける可能性がある。


誤解というほどの誤解にはならないだろう。

セドリックは、自分に多少の疾しい気持ちがなかったとは言い切れないと思った。

部屋から出ると、窓の外はすっかり暗くなっており、廊下にはところどころ魔法灯が点いているだけで不気味だった。以前の自分なら怖くて震えあがっている。だが、今日は無的になれそうな気がする。

胸を張って廊下を進むと、窓の下、校舎裏に人影がある。

「……?」

生徒は皆、とっくに下校したはずだ。

暗がりでよく見えないが、二人の人間が話をしているようだ。一人は微かな月明かりにも輝く金髪をしている。

「気にすることないか」

独り言を漏らして再び廊下を歩き出す。数歩進んだ時、セドリックの耳に言い争う声が聞こえた。


   ◆◆◆


「ただいま」

「おかえり。マリナちゃんもおかえり」

「……ただいま」

顔に死相が出ているマリナの肩を、ジュリアがバシッと叩いた。

「なあに、この世の終わりみたいな顔してんのよ。魅了の魔法なんか、そのうち……」

「違うの……」

「押し倒されてたから疲れたんじゃない?」

エミリーが涼しい顔で言ってのける。アリッサが「きゃ」と頬を手で覆った。

「マリナちゃん、いつの間に……」

「てか、殿下の魔法が解けたの?」

「生徒会室でマリナちゃんが王太子様にキスし……むむ」

「言わないでよ、アリッサ」

妹の口を塞いだマリナは、ぽっと頬を染めた。

「皆が見てるのに?やるねーマリナ。私も流石に皆が見てる前はきついな。結婚式だけで勘弁してって感じ」

「その時は、魔法が解けたなんて思えなかったのよ。いたたまれなくて生徒会室から逃げたら、セドリック様が追いかけてきて……」

「で、押し倒された?何で?展開早すぎね?」

「廊下で会って、……魔法が解けたって分かったのよ。セドリック様を好きだって、私が告白みたいなことをしたから……」

「あー、殿下が喜ぶ姿が目に浮かぶよ」

ジュリアは遠くを見ながら目を細めた。エミリーが嫌そうな顔で舌打ちをする。

「何をしても私が受け入れると思ったみたいね」

「……調子に乗ってマリナを部屋に連れ込んで押し倒したわけだ。さっきも、王太子は恥ずかしそうにしていなかったが、あれで素なんだな」

「エミリーが来なかったら、どうなっていたか分からないわ。もう少しあのままだったら、多分セドリック様を殴っていたかも……」

「殴るって、マリナちゃん、あんまりだよぅ」

「だって校内の相談室で……って、アリッサもレイモンドに倉庫で押し倒されたら嫌でしょう?」

「レイ様だったら、どこでも……」

頬に手を当てて、ぎゅっと目を閉じて頭を振るアリッサを、マリナは白い目で見つめた。

「あなたに聞いた私が馬鹿だったわ」


   ◆◆◆


夕食後、寝る準備を整えて、四人は寝室のマリナのベッドに集まった。

「今日の『みすこん』、何とか乗り切ったよね」

「ダンスのペアは信じられない組み合わせだったねえ」

「同感。……もうレイモンドと踊りたくない」

エミリーの眉間の皺が深くなった。ぎゅっと薄紫色のネグリジェを握りしめる。

「私も、アレックスとはごめんだわ。リードが荒いし」

「マリナちゃんはお兄様とばかり踊ってたから、全然違うだろうねえ」

「兄様と言えばさ、ダンスの時に無理させられなくて、私も思い切りステップを踏めなくて不完全燃焼だよ。やっぱ、アレックスと組みたいな」

ジュリア以外の三人は、アレックスはジュリアに任せようと心に決めた。

「攻略対象の誰かとアイリーンが踊る機会を持たせるのは危険ね。次に何かあるとしたら、年越しパーティーかしら?」

「こっちの世界はクリスマスがないもんね」

「乙女ゲームだから、代わりに銀雪祭があるじゃん。その前に殿下の誕生日もね。マリナは一緒に過ごすんでしょ」

「王太子様のお誕生日はお休みよね。……と、期末テストもあるよね」

「……忘れてた」

何気なく呟いたアリッサの隣で、エミリーが呻きながら枕に顔を埋めた。


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