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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 1 出会いは突然じゃなくて必然に?
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27-2 悪役令嬢は目を瞑る(裏)

ハリーお兄様、思い込みが激しすぎて気持ち悪いです。

【ハロルド視点】


マリナが正式に王太子妃候補になった。

まっさらな彼女を穢されたような気がして、私は内心穏やかではなかった。王太子が恨めしくて仕方がない。相手は嫁ぎ先として望みうる最高の身分の男だ。侯爵も満更でもないようだ。

マリナは以前と変わらず習い事に勤しんでいる。家庭教師にダンスを教わる時間は、私がパートナーを務めることになっていて、それが何より楽しみだった。まさに至福の時だ。

他の習い事の時間も、私は彼女が気になって仕方がない。こっそりドアの隙間から窺えば、礼儀作法の家庭教師にベタ褒めされている。そうだ、彼女は素晴らしい。


廊下を歩く彼女の後をつけた。ついて歩いたつもりはなかったが、自然と足が向かっていた。ややあって、

「お兄様」

とこちらに気づいたマリナが振り返る。

「ああ、マリナ」

気品溢れる笑顔に感嘆の言葉を禁じ得ない。

「どうして気づいたんです?」

「何となく、お兄様がいらっしゃるような気がして」

それだけ私がマリナの心を占めているのか。心が躍る。途端に胸が高鳴る。

「もしかして、あなたも私を探してくれていたのですか」

問いかければマリナは天使の微笑で私を見た。私はそれを肯定と受け止める。

「何か、ご、ご用ですか?」

「はい。温室の花はご覧になりましたか。昨日あたりから満開になりましたよ」

毎日彼女を観察している限り、温室には行っていないはずだ。一緒に花の話などしながら、二人だけの時間を過ごしたい。私は欲望に駆られた。

「中庭の花も見事ですわよ。流石はペック。うちの庭師は優秀ですね」

「中庭ですか……ああ、そう言えば。ピオリの木に赤い花が咲いたようですよ。……また誰か、叶わぬ恋をしているのでしょうか」


「好きな人に、婚約者がいて……果たして死を覚悟するほどのことでしょうか」

私には、死を選ぶ男の気持ちが理解できなかった。

「相手の男を消してしまえばいいのに。……あなたはどう思われますか」

王太子に手を出せば、無事では済まないだろうなと思う。

「さあ、どうでしょうね」

マリナは曖昧に答える。親が決めた結婚相手――王太子を亡き者にしてまで、私があなたを手に入れたいと望んでいるのに。

「あなたには分からないかもしれませんね。初恋もまだのようですから」

純粋な彼女は、きっと嫉妬も執着も理解できないお子様なのだ。私は少しからかうように言った。

「初恋もまだだなんて、お兄様にお分かりになるのかしら」

――どういう意味だ、それは。

「おや、では……マリナはどなたかに恋をしているのですか」

聞き捨てならない。

「あなたは家から殆ど出たことがないでしょう。どこでそのような方と出会うというのです?王太子殿下ですか?それとも、ジュリアの友人の彼か、あるいは使用人の誰かでしょうか。先日、ペックの息子と親しげに話していましたね。彼なのですか?」

思いつく限りに、彼女と接点のある男の名を挙げる。

「違います!王太子様でもアレックスでも、使用人の誰かでもありません!」

泣きそうな顔で叫ぶマリナ。私の知らない誰かを守るために、必死になっているのだ。

彼女にこんな顔をさせる男が憎い。

「あなたの、心を盗む者は……容赦しませんよ?」

マリナを壁に追い詰め首筋を撫でる。喉元がひくひくと動き

「お兄様……」

と呟く。

私はあなたの兄ではない。何度言ったら分かるのだ。

暗い気持ちが渦を巻き、やがて大蛇のように姿を変えていく。身体の内側から食らい尽くされそうだ。

顔を近づければ、キスの予感を感じたのか、マリナがぎゅっと目を閉じる。

――可愛い。私だけのマリナ。


   ◆◆◆


マリナが執事のジョンに呼ばれて、義父上の部屋に行った後だった。

私は義母上の部屋に呼ばれ、マリナへ近づくなと言われた。

「マリナは王太子様の妃になる身です。義理の兄妹といっても、あなたの振る舞いは度を超えているわ」

「義母上、私は……」

「あなたがマリナに並々ならぬ好意を持っていることは、私も気づいていたわ。マリナがあなたを選ぶなら、それでもいいとさえ思っていたのよ」

認められていたとは心外だった。

「では……」

「でも、ダメよ。あの子は王太子殿下のものなの。ゆくゆくは王妃になり、国母となるのです。決して侯爵領の領地管理人の妻などではないの」

侯爵家の養子ではあっても、所詮領地管理人を務める分家の息子の私には、娘はやれないという意味なのだ。

「……あなたに、つらい思いをさせたくはないのだけれど」

ふう、と息を吐き、義母上はこちらを真っ直ぐ見た。

「あなたの留学先が決まったわ。期間は、王立学院へ入るまでの二年間、ね」

頭を殴られたような衝撃を受け、私は立っていることができなかった。


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