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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
369/616

220 悪役令嬢は愛の語らいを見る

寮の自室で、窓辺に座って夕日を眺めていたエミリーの耳元を風が過ぎていく。

窓を開けていないのに、銀の髪が揺れた。

「……」

「いかがなさいました、エミリー様」

エミリーの表情が変わったのを見逃さず、リリーが声をかける。

「……別に。明日、早起きすることになりそう」

「まあ、それは……」

「起きなかったら起こして。始業前に魔法科練習場に行かないと」

「お任せください」


アイリーンとの言い争いは、魔法対決にはならなかった。マシューがアイリーンにつけさせている腕輪は、エミリーに対する攻撃魔法を放てなくしている。何度か魔法を使う気配を見せたものの、アイリーンから攻撃を受けることはなかった。

――マシューの腕輪、思ってたよりいいかも。

後で礼を言っておこうとエミリーは思った。

王太子に魅了魔法が効いて有頂天になっていたアイリーンは、口が滑って『女王になる』などと言っていたような気がする。セドリックの妃になっても、所詮配偶者である。王位はセドリックのものなのだ。しかし、セドリックから譲位されるとアイリーンは豪語していた。エミリーにはそのからくりが分からなかった。

――アリッサが帰ってきたら聞こう。


   ◆◆◆


「ただいまー」

ジュリアがドアを開けた。

日本の生活習慣をそのままに、ジュリアは帰宅の挨拶をする。

「お帰りなさいませ。ジュリア様」

「あー、疲れた。『みすこん』は緊張したよ」

「ジュリア様が一位になられたと、ロイドが申しておりました。おめでとうございます」

「ありがとう。……って、全然実感ないんだけど」

「後夜祭のダンスはいかがでしたか」

「あ、ドレスありがとうね。すごく動きやすかったよ。相手がハリー兄様だから、無理はしないでおいたけど、靴もそんなに痛くなかったし」

ファーストダンスの後、ジュリアは更衣室に戻って学院の侍女に着替えを手伝ってもらった。ドレスと靴は更衣室に預けたままだ。

「それはようございました。男女ともハーリオン家のお子様が栄冠を手にされたと、旦那様にお知らせしなくては。きっとお喜びになられますよ。縁談も多くなるでしょうね」

「ええー?そんなの要らないよ。アレックスと婚約してるのに」

ジュリアには、婚約者がいるのに縁談をもちかける貴族の神経が理解できない。侯爵令嬢に結婚を申し込むにはそれなりの家格が必要なのだが、話を聞くと伯爵家以下平民までもがジュリアを妻にと希望しているらしい。ジュリアの剣さばきに惚れたという自称ツワモノ達は、貴族の常識を超越しているのである。

「そうだ。マリナは帰ってきた?アリッサは?」

「……二人ともまだ」

「生徒会の打ち合わせが長引いてるんだね。あー、心配だな。殿下、ヘンになっちゃってるし」

「アイリーンに騙されてる」

「『魅了』されたまま、マリナに酷いこと言ってないかな。殿下は素直だから」

「素直って、物は言いようだよね……」


   ◆◆◆


レイモンドに送られて帰ってきたアリッサが、リリーが淹れた紅茶で一息入れた頃、ハーリオン家四姉妹の部屋のドアがノックされた。

リリーが対応に出ると、王太子付きの侍従が申し訳なさそうに立っていた。

「王太子が余計な心配かけさせるから、あの人の髪が薄くなるのよ」

エミリーがボソッと呟いた。

「マリナ様はお戻りでしょうか」

「いいえ、まだ寮には……」

「そうでしたか。……実は、殿下もまだお戻りではないのです。レイモンド様も寮にお戻りでしたし、生徒会の会議は終わったと思われるのですが」

アリッサが立ちあがって侍従を見た。

「会議の後、レイ様と少しだけお庭を寄り道して帰ってきました。王太子様とマリナちゃんは、会議が終わる前に部屋を出ていって、そのまま戻りませんでした。まだ学校にいると思います」

「そうですか……。殿下には、学院内にいる時は護衛をつけていません。代わりに一日の予定と、どこにいらっしゃるのかを確実に把握しているのです。……お力をお借りできませんか」

侍従の視線はエミリーに注がれている。視線が合うと、はあ、とエミリーは面倒くさそうに溜息をついた。

「マリナのいるところには、私が転移して行ける。……そこに王太子がいるとは限らない」

「構いません。殿下の行先をマリナ様に教えていただけるのでしたら」

「……待ってて」

エミリーは疲れた身体に鞭を打って、マリナを思いながら転移魔法を発動させた。


   ◆◆◆


――ここ、どこ?

白い靄が消え、視界がはっきりしてくると、エミリーは辺りを見回した。

茶色の本棚が少しと応接セットがある空間だ。壁の色から学院の中だろうと推測する。

「エミリー!」

不意にマリナが自分を呼び、エミリーは姉の姿を探した。

「マリナ、動かないで……」

長椅子の陰に金髪の頭が見えた。

「……?」

ガタッ。

椅子の背を回り込まず、座面に乗って向こう側を見ると、床に銀髪が広がっていた。

「……何やってるの?」

横たわるマリナの上に四つん這いになったセドリックがいる。これはもしかしなくても押し倒されているの図ではないか。流石のエミリーも狼狽して表情に……出なかった。

「えっと……愛の語らい?」

視線を彷徨わせたセドリックが半疑問形で答える。

「語らっていませんよね、セドリック様!」

マリナが腹筋を使って起き上がり、残念そうなセドリックは彼女の上から退いた。


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