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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
362/616

214 悪役令嬢と動き出した罠

講堂に向かうハロルドは、落ち着いた様子でジュリアをエスコートしていた。ハーリオン家で教育を受け、学院でも主席クラスの秀才である。細かい所作も洗練されている。普通科の一年生には義兄のファンが多いと、アリッサから聞いたことがある。

「私としては、マリナの手をとってエスコートする予定でしたが……」

ふわりと微笑んだ義兄は、裾の長いドレスとピンヒールに慣れないジュリアを気遣う。

『みすこん』男子の部は、勝ちを焦ったセドリックがお手付きで自滅し、ハロルドが優勝したのだ。

「ごめんね、ハリー兄様。マリナと踊りたかったんでしょ」

「いつか公式の場でマリナのパートナーを務めてみたいという願望はあります。ですが、今日の結果を悪くないと思う自分もいるのです」

「え……」

真っ直ぐに見つめる青緑色の瞳に、一瞬ジュリアの胸が高鳴った。

――って、違うっ!ときめいてなんかいないし!あ、そうだ、アレックスは?

ジュリアはアレックスの順位を知らなかったが、他のペアは先に講堂へ入ってしまっている。


「行きましょう、ジュリア」

「兄様、さっきのどういう意味ですか?」

分からないことは訊くに限る!というのがジュリアの信条だ。落ち着いた表情を崩さないハロルドを引き留めて腕を掴んだ。

「女子の二位はアイリーン・シェリンズだと言っていましたね。彼女は王太子殿下に取り入ろうとしている。殿下が彼女を気に入れば……」

「最低!兄様酷いよ。ライバルが消えるからって。マリナの気持ちはどうでもいいの?」

「ふふっ。そう言うと思いましたよ。あなたは姉思いですから」

「殿下が目の前で他の女の子と仲良くしたら、マリナが傷つくんだよ?……あ、兄様にはそのほうが都合がいいんだね。弱ってるマリナにつけこんで……」

ジュリアの推測を聞きながら、ハロルドは再びくすくすと笑い始めた。

「あなたはどれだけ、私を卑怯者だと決めつけているのでしょうね」

「う……ごめんなさい」

「謝る必要はありません。私も最近、本気でマリナを自分のものにしようとしていましたから」

――自分で言うか、普通。っつか、真顔で言うなよ、怖っ。

爽やかな笑顔の裏にはとんでもなく暗い闇があるような気がして、ジュリアは一歩義兄から離れた。

「アイリーンは王妃の器ではありません。寧ろ絶対に王妃にしてはいけない人でしょう。レイモンドやアレックスにも言い寄っているようですし。グランディア王国の一国民として、私は彼女を王太子妃にしてほしくはありません」

「なら、何で?殿下に近づいてもいいなんて言うの?」

必死に見つめるアメジストの瞳に抗えず、ハロルドはジュリアの耳に唇を近づけた。

「ちょ、兄様?」

「黙って……誰に聞かれるか分かりませんから」

秘密の話なのは分かるが、他人が見たら怪しい関係にしか見えない。

「学院祭までの間に起こった事件にはアイリーンが絡んでいると、レイモンドは見ています。私も同感です。彼女の背後についている貴族が誰なのか、真の目的は何なのか、それを知るために少しだけ、アイリーンの策略に乗るのです」

「殿下は知っているの?アレックスは?」

「王太子殿下には言うなと言われています。アレックスも口を滑らせる可能性がある、と」

「私はいいの?うっかりしゃべっちゃうかもよ?」

「頃合いをみて話すつもりでした。敵の策略に乗れば、マリナとアリッサは傷つくでしょう。殿下とレイモンドの裏切りをあなたは許さない。きっと先頭に立って責め立てるのではありませんか?」

ジュリアは俯いた。図星だ。

「うん。……多分、剣を持って乗り込むくらいはするかも」

「そうならないように願いたいですね。この話を聞いた時点で、あなたは私達の共犯者なのですから」

人差し指を立てて唇に当て、ハロルドは長い睫毛で縁どられた瞳を細めた。

「秘密ですよ?」


   ◆◆◆


ジュリアがハロルドにエスコートされて会場に入り、司会が紹介をした後、音楽が始まった。エミリーは不本意ながらレイモンドの腕に手を乗せる。下手かどうか試してみろと言うだけあって、彼のリードは見事だった。あまりダンスの経験がないエミリーでも踊りやすい。

「まあ、お似合いですこと」

「お衣裳も合わせてらっしゃって……妬けますわね」

「レイモンド様のいつものお相手とは違いますのよ?姉妹で男性を取り合うなんて」

「あら、公爵家からすればどちらでも同じではありませんの。二人を天秤にかけて、レイモンド様も罪な方」

生徒達のヒソヒソ話が耳に入り、ビクリと身体が硬くなる。

「おい、どうした?」

「皆に見られるの、慣れていないのよ。それに……」

どう説明しよう。皆に関係を疑われているなんて。

「ああ。噂話なら、好きに言わせておけばいい」

「聞こえてたの?」

「セドリックには常々地獄耳だと褒められているからな」

「アリッサから私に乗り換えたみたいに言われているのに、いいの?」

レイモンドは視線を遠くに向けた。リオネルに気遣われながら、アリッサがたどたどしく踊っている。

「これから起こることを思えば、俺達の噂など他愛ないものに聞こえるだろう」

「……これから?ねえ、何が……」

身体が離れる。ターンしてまた元のポジションに戻る。

「リオネル王子に聞いた。ハーリオン侯爵令嬢の未来を」

――それって……。『とわばら』の結末?

華麗にステップを踏みながら、エミリーは彼の真意を読み取ろうと緑の瞳を見つめた。


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