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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
361/616

213 悪役令嬢は『悪役令嬢ドレス』に沈む

「控室からお一人ずつお呼びします。五位のペアから順に入場し、最後に一位のペアが会場に入ったところで、音楽が始まりますのでダンスを始めてください」

控室は男女別だった。ダンスホールとして使うために、講堂の椅子は片づけられ、段差もない大広間に変わっている。マリナ達と入れ替わりに生徒達が駆け込んできて、更衣室付きの侍女に手伝ってもらいながら着替えていた。

「皆喜んでたね。マリナちゃんのドレスが可愛いって」

「……うん」

マリナは沈んだままだった。『悪役令嬢のドレス』を着ていると気づいてからは、後夜祭のダンスパーティーが確実に乙女ゲームのイベントで、自分を破滅に導くと思うと何もする気が起きなかった。

「元気出しな!今夜もアリッサの面白いダンスが見れるんだからさ!」

「酷いよ、ジュリアちゃん!私だって練習してきたもん!」

「そーお?殿下の誕生パーティーの時、レイモンドが可哀想だったよ」

「……あの男がよくキレなかったな」

にやり。

「……愛の力?」

エミリーは思わせぶりな視線を投げた。アリッサが頬を手のひらで押さえる。

「照れちゃうから言わないで」

「結果が知らされてないもんな。私、アレックスが優勝したとは思えないんだよね。学院長先生の歴史クイズ、マジで分かんなかったし」

「優勝は王太子様だと思うの。レイ様は殿下に優勝を譲って……」

「……何それ」

「私の予想」

「あ、そ」


「第五位、マリナ・ハーリオンさん、廊下へ出てください」

「……」

「マリナ!」

「……っ、あ、はい!」

椅子から立ち上がり、マリナは心ここにあらずといった様子で、部屋の外へ出ていった。


   ◆◆◆


「な、んで……マリナが……」

講堂前の廊下で待っていたアレックスは、自分がエスコートする相手、ダンスの相手がマリナだと知って激しく動揺した。

「嘘だろ?マリナが五位だなんて。殿下もハロルドさんも、マリナが優勝だって言ってたのに!」

「予想は外れたようね。……エスコートしてくれるのかしら?」

アレックスがカクカクと頷いた。

「う、うん。……あー、絶対後で怖い目にあうよ」

セドリックは荒れるだけだが、ハロルドはじわじわと精神的に追い詰めてきそうだ。アレックスには悪いが、どちらかと組んでもう一人に嫉妬されるよりマシかもしれない。

「よろしくね。ダンスはジュリアほど上手に踊れないわ。ほどほどにしてよ」

「ああ。無理はさせないから、任せろ」

ダンスのリードが独りよがりになりそうだな、とマリナは心配した。


   ◆◆◆


「……帰る」

廊下で待つレイモンドの姿を見るなり、エミリーは踵を返した。

「おい。人の顔を見て逃げるとは、失礼な奴だな」

冷酷な眼差しに負けないように、エミリーはアメジストの瞳で睨む。

「どうして……黒い服なの?」

「キースに色を変えさせた」

自分の暗い紫色のドレスにはところどころ黒が使われており、黒に紫の刺繍があるレイモンドの服と、まるでお揃いにしたように見えてしまう。

「お互い、四位だとは知らなかったんだ。俺はお前のドレスに合わせたつもりはない」

「知ってる」

「一曲踊るだけだ。問題はないだろう?……それとも、ダンスが下手なのか?」

クッ、と口元に手を当てたレイモンドが笑った。エミリーのなけなしの闘争本能に火がつく。

「その言葉、そっくり返すわ。あなたこそ、アリッサを隠れ蓑にして、ダンスのリードが下手なのを誤魔化しているんでしょう?」

「何だと?」

緑色の瞳が怒りの色を帯びる。レイモンドはエミリーの手を取った。

「やだ。……放して」

「下手かどうか、試してみてから言うんだな。……不用意な発言を後悔するがいい」

低い声にエミリーの背筋が凍った。


   ◆◆◆


「ええっ……リオネル様、三位だったの?」

「ごめーん、アリッサ。こっちの流行歌なんて知らなくて」

リオネルは白を基調とした正装をしている。王子らしく勲章をつけている。美少年ぶりが板についているせいか、自然にアリッサをエスコートした。

「お支度大変でしたでしょう?」

「まあ、正装するからって理由で、別室で着替えられたから。ところで、女子の順位はどうだったの?男子はマリナを巡った争いだったんだ」

「王太子様とお兄様、ですよね?……二人ともがっかりするだろうなあ。マリナちゃん、五位だったんです」

「そっかー。アレックス、大丈夫かな……」


   ◆◆◆


控室に残されたジュリアは、アイリーンのドレスを見つめていた。マリナと同じく青のドレスだが、高級感はかけらもない。王都の仕立て屋で売っている既製品なのだろう。身体のラインに合っていないようだ。制服の時には感じなかったが、随分と胸を強調したドレスだと思う。攻略対象を色気で誘惑しようとしているのか。

「金色のドレスだなんて、殿下の色を身につけるとは失礼でしょう?」

「じゃあ、あんたの青いドレスだって、セドリック殿下の目の色だ。失礼なのはお互い様だろう?」

「マリナさんも失礼よね」

「マリナが青を着るとセドリック殿下が喜ぶからいいの」

――アイリーンが着たって、殿下は喜ばないだろうね!

「金色のドレスが下品でけばけばしいのには変わりないわ」

「胸元が開いたドレスの方が、よっぽど下品だと思うけどね。てっきり娼婦の服かとおもっちゃった」

「んまあ!」

言い争う二人に、実行委員が声をかけ、アイリーンは嬉々として廊下に出ていった。


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