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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
360/616

212 悪役令嬢のドレス談義

「リリー!」

ジュリアは制服のブレザーを脱ぎながら侍女を呼んだ。

「お嬢様方、お召し替えの準備はできております!」

ドレスを抱えたリリーの隣には、ハロルド付きの侍女で力自慢肝っ玉母さんのアビー、オードファン家の侍女のハンナがいた。リリー一人で四人を着替えさせるのは時間がかかると見たハロルドとレイモンドが、それぞれ侍女を寄越したのだ。

「ねえ、リリー。ドレスには変なところはなかったわよね?」

「変?ともうしますと……」

「さっき出てった奴、私達の敵なんだよね。昨日もドレスを盗られたって言ったじゃん。それ、あいつの仕業だから」

「ドレスは私達三人が常に目を光らせておりましたから、何も悪戯されてはいないと思いますが……念のため確認いたします」

リリーとアビーとハンナは、ドレスを細やかに点検して、お互いに確認し合った。

「特に変わったところはなさそうですねえ……」

ハンナがのんびりした声を上げた。アビーも腕組みして頷いた。

「縫い目も綺麗だし、おかしいところはないね」

「たちの悪い脅しか、本当に仕掛けがあるのか……分からないけれど、迷っている暇はないわね。これを着ていかないと、ファーストダンスに間に合わないもの」

「支度をお願い!」

ジュリアが威勢よく叫んだ。

「かしこまりました」


数分後、ジュリアは自分の失言を後悔していた。

「いででででで」

「締めないとドレスが入りませんよ?」

アビーが力一杯コルセットを締める。

「入学されてから、少々ふくよかになられましたものね」

リリーが遠い目をする。自分がもっとジュリアのドカ食いに気を付けていればと反省した。

「運動してるからって、油断しちゃダメだよ、ジュリアちゃん」

「胸が成長したって喜んでいたけれど、あれはただ太っただけだったのね」

「ちがーーーう!何なの、皆はコルセット苦しくないの?」

話している間にも、リリーたちが手早くドレスを着せていく。

「苦しいか苦しくないかって言えば、苦しいに決まっているわ。でもね、体型を維持していればそこまで締めなくてもいいはずよ」

「私、緩くなった」

「エミリーちゃんは痩せたよね」

「あなたは食事に興味がなさすぎるのよ。少しは食べなさい」

「……面倒」

エミリーはドレスのウエスト部分をつまんだ。入学前より痩せてしまったのか、引っ張ると布地に余裕がある。首から手の甲まで素肌が出ないように完全にカバーされている。リリーの見立ては完璧だ。色もエミリーが大好きな暗い紫で織模様こそ見事だが、遠目には地味に見える。広がらないスカートもいい。

「このドレス……好き」

「それはようございました。先日送られて参りましたので」

「家から?」

「奥様が、コーノック先生からお預かりしたそうです」

――ドキン。

心臓が一瞬大きく跳ねた。

コーノック先生とはリチャードのことだろう。ドレスを贈った主が誰かは想像に容易いが。

「あら、よかったわね、エミリー」

「ドレスを贈られるなんて、……ね?」

アリッサとマリナが目を見合わせて微笑む。

「ドレスを脱がせてみたいって意味なのかしらね」

「な……」

他人には分からない程度に微妙に頬を染めたエミリーを、姉達は生温かい目で見ている。


アリッサのドレスは大好きな淡い緑色だ。肩を出し、胸の下からスカートが流れる。エンパイアラインだ。マリナが隣から胸元を引き上げてやる。

「きゃっ。な、何?マリナちゃん……」

「肩のストラップが心もとないわね。まあ、アリッサは胸があるから引っかかるでしょうけど」

「ちょっと!こっちみて言うのやめてくれる?」

ジュリアのドレスも比較的肩を出したデザインだが、胸元にはチュールレースがごてごて飾り付けられている。ジュリアが好む赤ではなく、金色の光沢がある生地がメインだ。

「ジュリアちゃんのドレス、派手だねえ……」

「逆にジュリアでないと着こなせない気がするわ」

「……絶対着たくない」

身震いしたエミリーが吐きそうな顔をしている。

「金色だもん、マリナだっていいでしょ。殿下の髪の色じゃん。……てか、そのドレス、どっかで見たよね?」

「今日初めて着たわよ?青のドレス……ほら、肩のところがふわふわしていて」

「私も見たことある……あっ」

エミリーが目を見開いた。

「……ハーリオン侯爵令嬢が着ていたドレスだ」


   ◆◆◆


男子更衣室では、卒倒する寸前のキースが、四人目の服に魔法をかけたところだった。

ふらついてアレックスに助け起こされる。

「大丈夫か?」

「心配するくらいなら、魔法を使わせないで……ああ、もうダメだ」

肩を貸されて長椅子まで歩き、ぐったりして横になった。

「無理を言ってゴメン。僕達、キースしか頼れる人がいなかったから」

「殿下……」

「ありがとう。本当に感謝しているよ」

セドリックはキースの手を取り、自分の手で挟んで最高の微笑を向けた。

「はっ、そ、そんな、畏れ多い!」

ガバッ。

起き上がったキースは貧血を起こして再び倒れた。


「では、行くか。……キース。今回の働きは見事だった。君の力で、グランディア王国王太子の威厳が保たれた。俺からも礼を言う。……ありがとう」

「私からも言わせてください。ありがとうございます。あなたは素晴らしい魔導士ですね」

「俺も!ありがとうな、キース!」

バシッ。

アレックスに力任せに肩を叩かれ、キースは口から「ぐふっ」と息を漏らし、恨めしそうに彼を見た。


レイモンドがドアを開け、四人が廊下に出ていくと、通りがかりの生徒達から吐息が聞こえた。

「レイモンド様、黒いお衣裳も素敵!」

「悪魔っぽくて……私、こっちの方が好き」

「セドリック殿下が赤を着るなんて意外だな。金髪だから派手に見える」

「少々目にきついな。……おい、笑ったらダメだって」

「アレックス君、水色の服なんて持ってたんだ……」

「何て言うか、爽やか系?いつもの服は婚約者の好みなんじゃない?」

「ねえ、見た?ハロルド様の。ワインカラーがよくお似合いよね」

「金糸の刺繍がさり気なくて上品な感じ。控えめなハロルド様に合って……」

噂の数々を耳にしたアレックスは、自分の服を凝視して首を傾げた。

「やっぱ俺、似合わないですかね?」

「さあ、どうでしょうか。堂々としていれば、誰にも変だとは言われないと思いますよ」

ハロルドはアレックスの背中に触れ、

「ジュリアには好まれないかもしれませんが」

と楽しそうに笑った。


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