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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
358/616

210 悪役令嬢は捨て身のジェスチャーをする

ジュリアの快進撃は一瞬だった。

その後の問題には、ジュリアもアイリーンも沈黙したままで、出題する学院長が困っている有様だった。

「アイリーンも授業中寝てるからな」

「簡単な問題なのに……」

「アリッサにとっては簡単で、すらすら答えが出るでしょうけどね。次の問題よ」


「川の流域の住民が、水利権を巡って争ったことに起因する、グランディア王国を南北に二分した騒乱を何と言うか」

学院長は渋々次の問題を出した。

ジュリアとアイリーンは、ぽかんと口を開けて魔法球に手を伸ばそうともしない。本気で分からないのだ。白熱した好試合だったらしい男子の部とは大違いで、会場は静まり返っている。


「……意味わかんない」

「エミリーちゃん……知らない?ゴルラディアの乱だよ」

「知らない」

「ゴルラディアっていうリーダーが……」

「説明はいいわ、アリッサ。答えをどうにかしてジュリアに教えないと……エミリー、風魔法はまだ使えないの?」

「強くはかけていないけど、決勝が終わるまでは効果が続く」

「そう……となると、ジェスチャーしかないわね。ゴルラディア……」

アリッサがゴルフのスイングの真似をした。ジュリアを見ると、伝わらなかったらしく首を捻っている。

「ダメね」

「ジュリア、そもそもこの言葉しらないんじゃない?ゴルなんとか」

「ゴルラディアだよ。ゴルフから連想しない?」

首を振ったエミリーが、ジュリアに向かってスナイパーのようなポーズをとる。

「それって……」

「ジュリアちゃんに分かるかなあ……あ、ほら、分かってないみたい」


「……仕方ないわね。二人とも、覚悟が足りないわ!ジェスチャーは相手に分かるようにやってなんぼなのよ!」

腰に手を当てて上から目線になったマリナが、バッと前傾姿勢になった。

「マリナちゃん……まさか……」

腕をだらんと垂らし、床について時折四足歩行のようになり、立ち上がっては胸を拳で叩いた。鼻の下を伸ばした顔は、令嬢としてとても人に見せられるものではない。

「ゴリラ……」

エミリーが呟いた。壇上のジュリアはマリナの動きに唖然としている。

「驚くよねえ……」

「没落死亡エンドに比べたら、ゴリラの真似くらい何でもないわ!」

マリナは息巻いた。


「えっと……」

――何なの?アリッサは箒で掃除していたし、エミリーは何かねじってた。

ねじる?掃除でねじる……雑巾?それとマリナの猿の真似がどうつながるの?

猿が掃除?ん?猿じゃないの?もしかして、ゴリラってこと?

掃除?ゴリラが掃除?綺麗好きのゴリラ……ああ、もう!全然分かんない!

ジュリアは頭を抱えた。

銀髪を掻き毟ると、隣の席のアイリーンがぎょっとしてこちらを見ている。アイリーンも姉妹のジェスチャーを見ていたようだが、答えは分からないらしく答えようとしない。

そもそも、問題が出てから一度も魔法球を押していない。

本当に答えが分からないからなのか、何か理由があって戦いを放棄しているのか。

「一回くらい答えたら?」

「問題が難しくて分からないのよ」

アイリーンは愛らしい丸い瞳を細めて、困ったようにうふふと笑った。

「ふうん」

ジュリアは何とも言えなかった。一点だけ取った自分が勝っているものの、後味がいい勝ち方ではない。

「本当に分からないの?一問も?」

「私が分からない方が、あなたには都合がいいでしょ?」


手短に答えたアイリーンは、司会者を向いて手を挙げた。

「すみません!」

「どうしました、アイリーンさん」

「問題が難しくて答えられないので、私、棄権します!」

――何だって!?

驚いたのはジュリアだけではない。席で見守っていたマリナ達も含めて、観客全員がざわめいた。

「戦いを諦めるのですか?」

「はい。優勝はジュリアさんに譲ります」


   ◆◆◆


男子更衣室では、セドリックとレイモンド、アレックス、それからハロルドが着替えていた。リオネルはアスタシフォンから来た来賓に用事があると、後から着替えることにしたらしい。真相は、女だとバレる可能性があるため、男子更衣室で一緒に着替えられないからだが。

各々寮から侍女に着替えを持ってきてもらっている。手伝ってもらいながら着替えて、セドリックは三人を見た。

「えっ……」

「やっと気づいたか。俺も驚いたが……」

「皆銀糸で刺繍のある白い上着、ですね……。私はマリナの髪の色に合わせたつもりですが」

ハロルドは申し訳なさそうに眉を下げた。ハーリオン家の侍女には、マリナと揃いの衣装にしてくれるように頼んだ。その結果がこれである。

「俺はジュリアの髪に合わせて」

「皆銀髪だから、どうしてもこうなるんだね」

「形は異なっていても、クラヴァットを留めているのはアメジストのようだな。どうするんだ?これから着替えるか?」

「劇の衣装も、昨日のうちに寮に戻してしまったよ?」

「時間もあまりありませんし、このまま……ということになりますね」

「俺はいいと思うけど……」

アレックスがぼそりと呟き、レイモンドが厳しい視線を送る。

「男と揃いの衣装を着てもいいなんて思えるのは、お前が騎士団志望だからだろう?俺は我慢がならないぞ」


「あの……」

四人の会話にそっと入ってきたのは、ヴィルソード侯爵家の侍女エレノアだった。

「お話中、大変申し訳ございません。……私に一つ、いい案がございます」

「本当?」

セドリックが笑顔を輝かせる。

「アレックス様、よろしいでしょうか?」

「エレノアの案を聞いてみたいのだけど、いいですか?殿下、レイモンドさん、ハロルドさん」

三人が頷く。アレックスはエレノアに話の続きを促した。


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