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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
357/616

209 悪役令嬢は決勝戦に挑む

「ねえ。男子の決勝、長くね?」

大口を開けて欠伸をしたジュリアは、大きく伸びをして長椅子に横になった。自分達が控室に入ってすぐに、男子の決勝は始まっている。何が原因で長引いているのか、時折聞こえる歓声からは推測できない。

「ジュリアちゃん、寝ちゃダメだよ?」

「分かってるって。でもさ、ここまで来たら、緊張しても始まんないし」

「寝起きだと頭が働かないわよ。クイズだったらどうするの!」

よっこらしょと、マリナがジュリアの頭を持ち上げて、脚を下ろして正しく座らせた。

「それこそ私、寝ててもいいよね?」

「……諦める気?」

「目が据わってるよエミリーちゃん」

「……眠いの」

「ジュリアは私達の最後の望みなのよ。常に前のめりの姿勢で……」

マリナがプチ説教を始めそうになったところで、控室のドアが開いた。

「舞台袖に移動します。決勝に出場しない方は、舞台のすぐ前の席へ案内します」

「決勝が見られるの?」

「はい。男子の部は終わって先に着替えに行っていますし、控室でお待ちいただく理由もありません」

実行委員はジュリアとアイリーンを促して外に出る。マリナ達は別の実行委員に連れられて、講堂の最前列席へと向かった。


   ◆◆◆


座席に着くと、二列目に座っている女子生徒達が、何やら男子の部の結果について噂話をしていた。

「セドリック様、最強よね。あの爽やかさがたまらないわ」

「間違っても堂々となさっていて、流石は王太子殿下よね」

「あら?今日の一番はハロルド様よ。普段は見せない熱い一面が垣間見えて、私、すっかりファンになりそうよ」

「まあ……『セドリック殿下とマリナ様を応援する会』会員の風上にも置けないわね」


――決勝は、セドリック様とお兄様だったんだわ。

マリナは青ざめた。結果は聞こえないが、女子の部の結果如何では、アイリーンはセドリックと後夜祭でダンスを踊ることになる。セドリックも彼女に関わらないように用心してきたが、ダンスとなれば一気に距離が近くなる。不安が胸を過ぎる。

「……王太子と義兄、どちらが勝ったのか……」

エミリーがぼそりと呟く。


「皆さん、お待たせいたしました。これより、女子の部決勝戦を行います!」

司会がハイテンションで叫んだ。男子の部決勝が盛り上がり、司会者としても興奮を抑えられないらしい。

「課題は、男子の部決勝と同じく、この方からの出題です!」

「げ」

ジュリアは司会者席の傍に立った、白髪と髭の老人の姿を見て灰になりそうだった。

――学院長?ってことは……。

「決勝戦は、私が出題します!なあに、歴史の授業を聞いていれば、簡単な問題ですぞ」


「どうしよう……ジュリアちゃん、顔が引き攣ってるよ?」

アリッサがマリナの袖を引いた。

「歴史か……ジュリアは授業中寝ているって聞いたわね。どうやって答えを……そうだわ!」

がしっとエミリーの肩を掴む。驚いたエミリーが身体を離した。

「風魔法よ、エミリー。ほら、耳元でそっと、その人にしか聞こえない、あれよ!」

「……無理」

「どうして?マシュー先生はできるみたいだし、エミリーちゃんもできるんでしょ?」

「魔法を使っても、ジュリアには伝わらない。……さっき、『無効化』をかけたから」

アイリーンの妨害を防ぐために、エミリーはジュリアの全身に魔法の効果を消す『無効化』の魔法をかけたのだ。アイリーンは何もできなかったようで顔を強張らせているが、ジュリアが有利になるわけではない。

「困ったねえ……。叫んで答えを教えるのはダメだもんね」


「では、第一問!……初代国王の宰相を務め、我が国の繁栄を基礎を築いた人物と言えば、誰か」

――やば。欠片も分かんないわ。

ジュリアはキョロキョロと辺りを見た。アイリーンも分からないらしく、二人の前の光魔法球は沈黙したままだ。答えが分かったら魔法球に手をかざすと、赤く光る仕掛けになっている。要するに早押しクイズ形式だった。

――何かヒントはないか。……ないな。あー、適当に答える?間違えたらお手付きになるしな。どうする?

ふと、姉妹と目が合う。

胸元で手を合わせ祈るようなアリッサ、問題の意味を理解していないようなエミリー、マリナはいつも通りだ。開き直ったのか堂々としている。


「……アリッサ、答え分かった?」

「うん。レイ様の御先祖よ。初代国王の弟、レイモンド・オードファン。答えはレイモンド・グランディでもいいと思う。王位の争いを防ぐために臣下に下ったの。レイ様は初代の名前をもらったって自慢していたわ」

「へえ」

「エミリーちゃん、興味なさそうだね」

「答えをジュリアに伝えたいのよ。いい方法はない?エミリー」

「……」

顎に手を当てて少し考え、エミリーはアリッサを指さした。ジュリアがこちらを見ている。

「私?」

「黙って。……アリッサ、蕩けるような顔をして。夢見る乙女のポーズで」

「分かった、やってみるっ」


壇上のジュリアは、アリッサの百面相に首を傾げていた。

――アリッサ……?何でブリッコしてんの?……ん?マリナもなんかやってる?アリッサをエスコート?眼鏡……?

「分かった!」

パン!

勢いよく光魔法球を叩いた。赤く光って転がっていく。

「ジュリアさん、答えをどうぞ!」

「レイモンド!……レイモンド・オードファン!」

「正解じゃ!」

学院長は白い髭を触りながら、目を細めて頷いた。

「おっしゃあ、一問とったぁ!」

ジュリアがガッツポーズをし、マリナ達に笑顔を向けた。


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