表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
352/616

204 悪役令嬢は『みすこん』に挑む

昼休み終了の鐘の音と共に、グランディア王国初の『みすこん』の幕が開けた。

先に男子の審査、第一ラウンドが行われる。開始宣言の後、マリナ達は観客席から別室に案内された。向かった先はステージ裏の控室だった。

「控室?どういうことですの?」

アリッサのマネージャーを自認するフローラが、実行委員の二年生に問いかける。フローラ自身も実行委員なのだが、普通科の展示の担当だったため『みすこん』の準備には関わっていない。流れがつかめていないのだ。


「男子と女子と、交互に審査を行うのですが、審査の内容が分からないように部屋に入っていていただきます。事前に分かると有利になりますので」

「男子と女子の審査の……つまり『お題』は同じってこと?」

ジュリアが聞き返す。

「そうです。五人ずつの出場者のうち、誰か一人でも『お題』を知ってしまったら、予習できるかもしれませんよね。というわけで、部屋から出さないようにと、ベイルズから言われているのです」

「ベイルズ……」

「マックス先輩のことよ。ほら、生徒会の」

アリッサがジュリアに耳打ちする。

「ああー。生徒会メンバーで出ていないのって、あの人とキースくらいだもんね」


実行委員に見張られ、控室に閉じ込められていたマリナ、ジュリア、アリッサのところに、アイリーンが白々しい微笑を浮かべて現れたのは、それから間もなくのことだった。

「まあ、皆さん、お早いお着きですのね。やる気満々といったところかしら?」

「集合時間は過ぎているわ」

マリナが淡々と受け流した。

「誰かさんは裏工作に忙しくて遅くなったのかな」

ジュリアが嫌味を言うと、アリッサが袖を引いて頭を振った。ダメ、と言いたいらしい。

「出場者はあと一人ですね。三年生の先輩ですよねっ」

アイリーンが声を弾ませた瞬間、控室のドアが開いた。

「……エミリーちゃん」

「遅くなった。……私が出るしかないみたい」

「何かあったのかしら?」

にっこりと微笑んだアイリーンを鋭い眼差しで睨みつけ、

「自分の胸に手を当てて考えてみたら?」

と低い声で言った。



「わたくし、男子の審査を見て参りますわね」

部屋を出ようとしたフローラを実行委員が呼び止める。

「フローラさん、客席に戻ったらもう、控室には来ないでね。情報提供になってしまうから」

「お友達でもいけませんの?」

「いけません。客席で応援してください」

「あなた、優しそうな顔して結構頑固ですのね」

「拗ねても変わりませんよ。ほら、行った行った!」

実行委員はフローラを追い出し、ドアを閉めて再びマリナ達に向き直った。


   ◆◆◆


舞台の上では、男子の第一ラウンドが始まっていた。

「第一ラウンドの選考課題は、『ジャグリング』です!」

司会の実行委員が手で示した方を見ると、男子生徒が三つのボールを順に放り投げて器用に回している。

「一人に三つずつ、この小さなボールを渡します。『始め』の合図の後、放り投げた回数が一番少なかった人が負けになります!」

セドリックはボールを渡されてきょろきょろしている。殆ど経験がないのだ。対してハロルドは渡された直後にボールを軽く投げて感触を楽しむ余裕がある。レイモンドも落ち着いた様子だった。


……そして。

ボールを持ったまま微動だにしない者が二名。隣り合って立っていた。

リオネルは自分の不器用さを呪っていた。後夜祭でアイリーンとペアになるように、初戦敗退だけは免れたいと思っている。だが、こういう手先を使う遊びはあまりしたことがない。木刀を持ってルーファスを追いかけ回していた記憶しかない。

アレックスはボールを投げる手加減が分からないでいた。市場の近くの芝居小屋で大道芸がかかり、ボールを投げている芸人を尊敬の眼差しで見たことはある。自分でもできるのではないかと、邸で果物を放り投げてみたが、窓にぶつかってぐしゃりと潰れてしまった。投げる方向と強さが問題なのだ。


「皆さん、ボールは渡りましたか?……いいですね。では、用意、始め!」

ゆっくりではあるが確実に回数を重ねるセドリックとレイモンド、それより少しだけペースが速いハロルドの手さばきに、観客はわあっと歓声を上げた。

「うぉっと!」

リオネルがボールを床に転がし、慌てて拾った。

「ああっ……」

アレックスが右手で投げたボールが客席に飛んでいき、続行不能になった。

「はい、終了!」

司会が無慈悲に言い、アレックスは項垂れた。

「アレックス・ヴィルソード君の敗退です。頑張った五人に温かい拍手を!」

会場から拍手が贈られる。泣きそうに肩を震わせたアレックスの背中をリオネルが叩いた。

「気にするなよ。ジュリアも五位かもしれないだろ?」

「……そ、そうだよな。あいつも不器用だから……」


   ◆◆◆


「あ、男子が終わったようですね」

会場から聞こえてくる拍手を合図に、実行委員は椅子から立ち上がった。

「彼らは下手から控室に下りるようですから、上手から上りますよ」

動線まで完全に分離されているのだ。マクシミリアンの徹底した仕事ぶりが随所に現れている。

「行きましょう」

「うん。私も頑張る!」

「よおし、やるぞ!」

「……」

エミリーが控室を出ると、アイリーンがそれに続く。あっという間にジュリア達を追い越して、マリナの横に進み出た。

「お手柔らかにお願いしますわね」

と不意にマリナの手を取って微笑む。細められた瞳にどことなく蛇が這うような気配を感じて、マリナは一瞬目を瞠り、すぐに手を振り払うと、

「皆ライバルですから、本気を出して勝負いたしましょう」

とアルカイックスマイルで応戦した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ