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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
351/616

203 悪役令嬢は空気を読まない

医務室でグロリアに治癒魔法を施したロン先生は、大きく溜息をついた。赤紫の髪が揺れる。エミリーが焦げた制服を着替えさせるのを手伝った。

「しっかし、危ない奴がいるねえ……校内で攻撃魔法を使うなんてさ。最近の魔法科は、こんなアブナイの教えてるわけ?」

「分かっていて聞くな。教えるのは治癒魔法と生活に役立つ魔法が殆どだ。魔導師団希望か魔力の強い高位貴族にしか、攻撃魔法は教えないと決まっている」

「だーよーねー。てことは、グロリアに雷撃系の魔法を使った奴も、高位貴族なのかしらね」

ちらりとベッドに目をやる。

意識が戻らないグロリアの傍らには、椅子に座って項垂れているバイロン先生がいる。

――あんな顔、初めて見た……。

エミリーは顔には出さないが、彼の意外な一面に驚いていた。アスタシフォン語担当のバイロン先生は宿題をやってこない者には容赦しないドS教師だと専らの噂である。エミリーは毎回適当に問題集の空欄を埋めているが、ジュリアは放課後に居残りさせられたと聞いた。真面目で教育熱心な先生なのだろうが、対応がドライで本心が見えないだけに、生徒達には煙たがられているようだ。しかし、今はグロリアを心から心配しているように見える。


「バイロン先生は何か見ていませんか?」

マシューが訊ねた。敬語なのは彼から見れば先輩教師だからである。

「見ていない。……だが、駆け付けた時には濃い光魔法の気配がしていた。息を吸い込んだら喉が焼けるような……」

「あら、バイロン先生は『味覚』なの?」

「何がだ?」

「あたしは音楽で聞こえるんだけどね、四属性以上持ってると、誰の使った魔法か五感で分かるのよ」

「……そうか。自分では意識したことはなかったが……」

バイロン先生は水色の髪を掻いた。癖のない水色の髪と青い瞳が彼を冷たく見せているが、授業中と異なり表情は穏やかだ。

「四属性持ってるのに語学教師なんてもったいないわよねえ。公爵家なら魔導師団だって楽勝で入れるでしょうに」

――公爵家?

教師三人が話している脇で、エミリーはバイロン先生をまじまじと見た。水色の髪と冷たい印象の美貌に既視感を感じる。

「余計なお世話だ!……とにかく、次に同じ魔力を感じれば犯人は分かる」

苛立ったバイロン先生が中指で眼鏡を押し上げた。

「あ!」

「どうした、エミリー?」

「いいえ、何でもありません。……それより、グロリアさんの怪我は?」

「怪我はばっちり治したわよ。あたしが治せないわけないでしょ。意識が戻るかは保証できないわね。午後の『みすこん』も無理かもねえ」

『みすこん』の四文字を聞いて、エミリーはフリーズした。本選の補欠要員は一名。ジュリアだけである。グロリアが欠場になれば、自分が欠けるわけにはいかない。人前に出るのが大嫌いなのに、ステージに立つと考えただけで眩暈がしそうだった。

「……早く意識が戻るように願っています」

それ以外の感想が出てこない。


「うんうん。でも、ま、今回の事件で一つ分かったことがあるよね。エミリーは犯人じゃないってことよ」

「そうだな。グロリアはスタンリーと同じ手口でやられた。だが、犯人と目されていたエミリーは、俺達と一緒に魔力測定をしていたわけだからな」

「しかも、光魔法は殆ど検出できなかったときているわ。服が焦げるくらいの強烈な光魔法を出せる力はないって、リックにはあたしから報告しておく。……捜査は振り出しに戻るって感じかしら?」

「ああ」

鬱陶しい長い髪を掻き上げ、マシューは窓の外を見つめた。

「グロリアの記憶が消されていなければ、犯人はまたグロリアを狙うだろう」

「……バイロン先生、今日は彼女についていてくれないかしら?学院祭で怪我人が出れば、あたしはここを離れることもあるし。何より、目覚めた時に先生がいてくれた方が、グロリアも嬉しいんじゃないかしら?」

「なっ……何を言う」

水色の瞳を細めてロン先生はふふっと笑った。

「剣技科の子って医務室によく来るのよね。グロリアって美人だけど、一年生の時は地味な感じだったでしょう?『彼は派手系美人が好きよ』って教えてあげたら、面白いくらいに変わっちゃってね」

「留守番は引き受けた。……これ以上余計なことを言わないでくれ」

「はいはい。バイロン先生も早いとこ、マシューみたいに、あたしに娯楽を提供してほしいわあ」

――『娯楽』って……。

困惑してマシューを見上げると、彼も困ったように視線を逸らした。


   ◆◆◆


「はい、そこ!片づけサボって何抱き合ってんのさ」

ポコ。

アレックスの後頭部を筒状にしたプログラムが直撃する。

「何だよ」

「何だよ、じゃないよ。ジュリアちゃんも作業に戻って。こんな人通りの多いところで抱き合ってたら、先輩達に白い目で見られるよ」

レナードは練習場付近にいる三年生男子の一群を視線だけで示した。

「ただでさえ、女子率低くて潤いがないってのに、恵まれてる二人が見せつけちゃダメでしょ。俺だってジュリアちゃんに抱きつきたいよ?」

ぎゅ。

背中側から抱きしめられる。

「こら!」

「今イラッと来ただろ?皆お前にイラついてんだよ、アレックス。少しは空気読みなっての」

ポコ。

再びプログラムでアレックスの頭を叩く。

「午後の『みすこん』の準備もあるんだろ?講堂に行ったら?」

「あ」

ジュリアとアレックスは同時に口を開けた。

「いっけない!早めにお昼食べるんだった!」

「まずは腹ごしらえだ!レナードも行こうぜ、食堂」

「……って、そっちかよ!」

アレックスの腹にレナードの裏拳が決まり、三人は連れ立って食堂へ向かった。


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