26 閑話 王と王妃
王宮内、王と王妃の寝室にて。
「ねえ、あなた。今日は朝までいっぱいお話ししましょうね」
「何だ、アリシア。やけに嬉しそうだな」
アリシア王妃は大きなベッドにぼふん、と飛び込んだ。緩くウェーブした金髪がシーツに広がり、子供っぽいその様子に王は目を細めて苦笑する。少しネグリジェの裾が乱れて脚が露わになるのも気にせず、王妃は起き上がって王の手を引く。
「セドリックにいいことがあったのよ」
「いいこと?」
「運命の、で、あ、い!」
二人の唯一の子供である王太子セドリックはまだ十一歳だ。運命の相手に会うには早いのではないかと王は思った。
「ピンクのドレスを着て、真っ赤になって泣きそうなセディの可愛いことったら。マリナちゃんグッジョブだったわ」
「マリナ?ああ、アーネストの娘か。今日はソフィアが娘達を連れてきたのだったな。ん、今聞き捨てならないことを言ったな。セディがドレスを?」
「そうよ。私が女の子が欲しいって言っているのを聞いたみたいで。マリナちゃんのドレスを着て見せてくれたのよ。もう、可愛いのなんのって」
自分の背中をバシバシ叩きながらきゃーきゃーはしゃいでいる妻を横目に、王は眉間に皺を寄せ額に手を当てた。
「何てことだ……」
「でもね、セディったら、マリナちゃんにときめいちゃったみたいよ」
「はあ?なんでそうなる」
「無理やり男の子の服を脱がされて、ドレスを着せられて、眺められたのがよかったみたい?不思議よねえ」
「よ、よかった??そんなわけないだろう。第一、私はあれを男らしく育ててきた自負はある。ドレスで喜ぶなんて、そんな……」
王は頭を抱えた。親友の娘の手によって、次代の王である我が息子が変な趣味に目覚めてしまった。女装好きだけならまだしも、男が好きになってしまったら、王家断絶である。
王妃はうふふと笑って続ける。
「あら。ときめいたのはドレスにじゃなくてよ。それに、無理やり脱がされてときめいたのは、何もセディだけじゃないでしょ?」
王立学院の同級生だった二人は、森での実戦練習の際に魔物に襲われた。王子の傷を手当てするためアリシアは彼の服を強引に脱がせ、肌に触れて回復魔法を浸透させた。それから王子はアリシアを意識し、意識しすぎて困ったことになったのだが。
「ほら……」
王妃が王の肩を押すと、彼は簡単にベッドに倒れた。寝そべった王の上に馬乗りになって、クラヴァットを外し、シャツのボタンを外していく。時折指先をつーっと王の胸板に滑らせると、王は分かりやすいくらいビクンと身じろぎした。
「こら、アリシア!」
「セディはあなたにそっくりだわ。そっと触れられるのが好きなのね」
「今日は朝まで話をすると言ったのは誰だったかな」
「あら、私、そんなこと言ったかしら?」
童顔の王妃は艶めかしく微笑み、美丈夫の王の頬が朱に染まった。




