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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
342/616

194 悪役令嬢の作戦会議 12

ぼふん!

「……疲れた」

ベッドに倒れ込んだエミリーが呻くように言う。

「お疲れ!」

「お帰りなさい、エミリー」

「……うん。ただいま」


怒涛の学院祭一日目が終わり、四姉妹は疲労困憊で寮の自室に戻った。リリーが笑顔で出迎えた。

「あのね、リリー。ドレスのことなんだけど」

「リリーが女子更衣室に用意してくれた、ピンクのドレスがなくなったのよ」

「まあ……それは……申し訳ございません。私がついていれば」

学院の更衣室には、身支度を整えるために侍女がいる。生徒達が実家から連れてきた使用人も出入りできるが、着替える衣装を預けて学院の使用人に任せるのが一般的だ。リリーの不手際ではない。

「いいのよ。……ドレスを盗んだ犯人も分かっているわ」

「マリナのドレス、あったの?」

「劇が終わって更衣室に戻ったら、ドレスも、ジュリアの制服もあったの。ドレスは後で持ってくることにして置いてきたわ」

「そっか。だからマリナが私の制服を着てるんだ?」

赤紫のドレスで帰るわけにいかず、マリナは茶色の上着にショートパンツ、ニーハイソックスのジュリアの制服を着て寮に帰った。

「帰りにまたスタンリーに会って、じろじろ見られたわ」

「劇で仲良く手つないでたんでしょ?」

「仲良くなんかないわよ」

「まあまあ、マリナちゃん……あれでどうにか劇を終わらせたんだから、ね?」


   ◆◆◆


スタンリーと手を取り合って舞台に戻ったマリナは、唖然としているセドリックを尻目に、舞台袖に控えていたリオネルに視線を送り、音楽に合わせて踊りだした。

「オルスティン、マデリベル、コルディオ、トルディオ」

予告なしに舞台に現れたリオネルが、意地悪三兄弟と主人公に呼びかける。

「父上……」

ふわりと微笑んだコルディオ役のハロルドが、禍々しいオーラを放っている。

「王女様は隣国の王子とご結婚が決まっている。お前達の出る幕ではない。仲良く家に帰ろうではないか!はっはっは!」

――リオネル様、強引!

客席で見ていたアリッサが開いた口を覆った。

「そうですね、義父上。これを機会に兄弟仲良く……」

主役のレイモンドが言い淀む。すかさず舞台前面にいたアレックスが、レイモンドの肩を抱いた。

「そうだな、マデリベル。俺はお前に意地悪をするのをやめる!それでいいよな、コルディオ、トルディオ!」

「あ、うん。いいよ……仲良くしてやってもいいぞ!」

腰に手を当てたセドリックが上から目線で言い、

「兄上がそう仰るのなら。致し方ありませんね」

とハロルドが肩を竦めた。


リオネルはちらりと舞台係に合図を送る。実行委員が幕を下ろし、新釈マデリベル物語は強制終了したのだった。


   ◆◆◆


「……思い出したくないわね。二度とごめんだわ」

マリナが盛大な溜息をついた。

「殿下の暴走がすごかったもんね。レイ様もびっくりしていたもの」

「あそこでアピールする?大人しくストーリーに従っていればいいものを!」

ぼすっ!

枕を拳で殴り、鈍い音がした。

「……お兄様もね。殿下に張り合っちゃって……」

アリッサは熊のぬいぐるみを抱きしめている。疲れた時にはこれだ。

「え?ハリー兄様も暴走したの?」

「二人とも、ジュリアのドレスを見て目の色を変えていたわ。セドリック様の上着は赤、お兄様の上着は紫でしょう?自分の衣装と色を合わせて着てきたと思ったみたい」

「ありゃ……悪かったね」

苦い物でも齧ったような顔でジュリアが頭を掻いた。


「スタンリーは意識が戻って、怪我もなかったわね」

「エミリーちゃん、何があったの?」

「……魔法」

「魔法で治したの!?エミリーが?」

「……治したいと思ったら、発動した。光魔法……」

枕に顔を埋めたままだ。エミリーはくたくただった。姉達と会話をする元気もない。

「身体には傷一つなかったでしょ?マントは血で汚れてたけど。どこで会ったの?」

「……魔法ショーの途中で降ってきた。転移魔法で飛ばされて」

「キース君がショーに出ていたはずだよね」

「劇の魔法使い役を交代したのはどうして?」


意を決してエミリーはむくりと起き上がった。ぼさぼさになったストレートヘアを直しもせずにベッドの上に胡坐をかく。

「スタンリーを怪我させた犯人じゃないかって、キースが疑われてた。アイリーンの差し金だと思う。魔法ショーは一人一人出る時間が決まっていたから、何かあると思った」

三人が顔を見合わせる。エミリーは眠そうな瞳で話し続ける。

「……それで、思った通りにスタンリーが降ってきた、ってわけ」

「今度はエミリーちゃんが疑われるんじゃないの?」

「うん。こっちが不利になった気がする。どうやって言い逃れるのさ」

「エミリーちゃんも光魔法が使えるって、魔法科練習場にいた皆が知ってるんだよ」

「……使えるようになったの、今日だもの」

「今日から使えるようになったって証拠はないわ。光魔法が使えれば、雷撃でスタンリーを傷つけることもできる、だからお前が犯人だ、って言われかねないのよ」

エミリーは無言で考えた。

考えた。

――が。何も対策は思い浮かばない。

「……寝る」

ばさりと寝具が音を立て、エミリーは制服姿のままシーツの間に滑りこんだ。


   ◆◆◆


入浴を終えて、ネグリジェ姿になったマリナは、リリーと協力してエミリーを着替えさせ、アリッサとジュリアが着替えを終えるのを待った。

「明日は『みすこん』かあー」

頭の後ろで腕を組んだジュリアがベッドに寝転がる。膝を立てて脚を組む。

「この調子だと、エミリーは明日一日寝ているわね。ジュリアの出番よ」

「おっけー。あ、一般常識の本、読まなきゃ」

先日から読書を開始したジュリアだったが、毎晩二ページと進まないうちに寝てしまう。

「『みすこん』って、何で順位を決めるの?私、ちゃんと話を聞いてなかったなあ」

「当日まで秘密よ」

「生徒会で決めたんじゃないの?」

「役員のほとんどが『みすこん』上位に入って、本選に出場するでしょ?私達にも知らされていないの」

「ふーん。じゃ、クイズもないかもってことだよね?あっち向いてホイとかだったら、私の優勝だね!」

ジュリアは本を閉じた。勉強するつもりは毛頭なかったらしい。

「リオネル様には、アイリーンを自分と同じ順位にするようにって言われたわ。後夜祭でセドリック様達と踊らせないように」

「微妙に手抜きするとか?うわ、むず……」

「やるしかないのよ。ヒロインのイベントが成立する要件を潰していかないと、何がフラグで没落死亡エンドになるか分からないんだもの」

ジュリアの手から本を受けとり机の上に置くと、マリナは自分のベッドに身を投げ出した。


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