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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
339/616

191 悪役令嬢の胸に腹は代えられない

ガタタ。

再び更衣室のドアが開いた。ジュリアが勢いよく開けたせいで、少し建てつけが悪くなってしまったらしい。

物音に振り向いたジュリアとアリッサは、ぽかんと口を開けた。

「お姫様だっこ?」

「ノアさんと……ええっ?」

下着姿を見られたことより、姉がリオネルの護衛騎士に抱きかかえられて現れた事実に驚いたジュリアは、アリッサに指摘されて慌ててドアを閉めた。


更衣室の前でノアに礼を言い、マリナは真っ赤になって腕から下りた後、

「申し訳ございません。お見苦しいところを……」

と咳払いをした。

――なんて格好してるのよ、ジュリアったら!

しかも男性に見られても堂々としていた。信じられない。

「いえ……歩けますか、マリナ様」

「は、はい。……ほら、この通りですわ」

「厄介なことに巻き込まれたご様子ですね。よろしければ、私が講堂までお連れします。部屋の外で控えておりますから」

「これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきませんもの。私は妹達と参りますから、ノアさんはリオネル様の護衛にお戻りになってください」

「承知いたしました。……くれぐれもご無理はなさいませんよう」

年齢不詳の美丈夫は、やや厚めの唇に笑みを浮かべ、一礼して走り去った。


   ◆◆◆


更衣室の中に入るなり、マリナは妹達に抱きしめられた。

「心配したぞ!マリナ」

「マリナちゃん!よかった、無事で」

「どうしたの?二人とも……」

「変態に絡まれたんでしょ」

「そう……その話は後で。今は劇の準備を……」

「それがねぇ、うわーん!」

アリッサが声を上げた。ジュリアが慌てて口を閉じさせる。

「ドレスが、ドレスがないのぉお!」

「……そういうわけなんだ。ついでに私の制服もなくなってた」


「妨害?」

「そうかも……リリーが忘れるわけないもん」

「昨日のうちに運んでおきましたから、って言われたわ。……レイモンドの瞳の色に合わせて緑をと思ったけど、私が持ってるのは青緑だから……」

「あー、ハリー兄様が喜ぶやつか」

「この間歓迎会で着たばかりだもの。また同じドレスだなんて、侯爵令嬢として恥ずかしいし。それでね、別のにしてもらったわ」

「何色?」

「ピンクよ。お母様に持たされた、絶対自分では選ばない色のね」

「……でも、そのドレスもないんだよねえ……」

アリッサは深く溜息をついた。下着姿のジュリアが腕を組んで考えた。


「できました!」

話し合う三人の横で、ジュリアのミニ丈妖精ドレスを直していたビヴァリーが、嬉々として言った。

「早っ!すごいね、ビヴァリー」

「大したことありません、これくらい……」

眼鏡を上げてうふふと微笑む。

ジュリアはビヴァリーの手からドレスを受け取った。身体に合わせてみて、ふと考え込む。

「ねえ、マリナ」

「何?」

「このドレスさ、マリナでも入るんじゃない?」

「む、無理を言わないでよ!そんな丈の短い……」

「胸に腹は代えられぬっていうじゃん!着てみなよ」

「それを言うなら背に腹でしょ?」

「お腹の肉を寄せて上げて胸にするって話?」

「違うわよ!」


制服を脱いだマリナは、ジュリアの妖精ドレスを着ようとした。背中のボタンを留めていくと、途中で留められなくなった。

「残念!」

「ウエストは入ったのにねえ……胸が」

ジュリアの肩幅に合わせてあり、肩はかなり余裕がある。それをプラスマイナスしても、胸は入りそうにない。

「ジュリアのサイズに合わせて作ったドレスですもの、仕方ないわ」

「どうせささやかですよっ。……ねえ、ビヴァリー、この胸のパッド取れる?取ったらいけるんじゃない?」

「取れますよ。このドレスは下着がつけられないので、厚いパッドを作ってつけたのですが……取ってしまって大丈夫ですか?」

――どうしよう……。

マリナの視線が彷徨う。アリッサが心配そうに見つめている。

「いいの?マリナちゃん。……その、刺激的な格好したら、王太子妃としては……」

「殿下は喜ぶかもね。兄様は病みそうだけど」


マリナは瞼を閉じて、こめかみに指先を当てて考え込んだ。

「ジュリアは劇に出られないの?」

「私?」

「そっか、始めからそうすればよかったんだよ!今日の王女様はジュリアちゃんで!」

「待ってよアリッサ、私、剣技科の仮装闘技場に戻りたいんだ。ジェレミーが魔法でおかしくなってて、レナードが食い止めてる。行って助けたいんだ」

「魔法で……ねえ、それってアイリーンの?」

「分かんないよ。劇が始まる時間になったら急に強くなりやがって。絶対何かあるね」

「戻るにしても制服はないんでしょう?どうするの?」

「だから、私がマリナの制服を借りるよ。マリナはこのドレスを着て劇に出るんだよ!」

「覚悟を決めて、マリナちゃん。カッコいい王女様にしてあげるね」

更衣室に備え付けの櫛を持ったアリッサがにっこりと微笑んだ。


   ◆◆◆


「何の用かな?君の配役はないよね」

「でもぉ……お困りではありませんか?セドリック様ぁ。王女役のハーリオンさんはまだ来ていないじゃないですか」

「君に僕の名前を呼ぶのを許した覚えはないよ。マリナは来るよ!絶対にね。僕は信じている」

「そうですか……第二幕の開演までもう少しですね。うふふっ」

織模様が美しいシンプルなドレスは、シェリンズ家の財力で仕立てたとは思えない高級なものだ。レイモンドは瞳を眇め、セドリックは敵意を露わにした。

「どういうつもり?僕も皆も、マリナが来るのを待ってるんだ。それを、楽しそうに……」

「ああ。不謹慎だ。やめてもらいたい。王女役のマリナが来られなくとも、代わりにアリッサがいる。君は……」


アイリーンはピンク色のドレスの裾をさばき、一歩レイモンドに近づいた。

「あら。王女役は誰でもよいのなら、私でもいいんでしょう?マリナさんの代わりになれるのは、妹さん達だけなんておかしいじゃない!私だって劇の練習を見ていたのよ?……台詞も覚えているわ!」

早口で一気にまくし立て、キッ、とセドリック達を睨む。

「あなた達、ハーリオン姉妹に洗脳されているんだわ。そうでもなきゃ、この私を主役にするはずだもの!私に声をかけられて幸福感を覚えないなんて、どこかおかしいのよ!」

舞台袖にいた全員がアイリーンの剣幕に驚き、訳も分からず身を固くしていると、舞台のすぐ前から生徒達のざわめきが聞こえてきた。

「ほら、もう時間切れだわ。さっさと王女役を決めて。第二幕が始まるわよ」

アイリーンは瞳に翳を宿してにやりと笑った。


悔しそうに顔を歪めたレイモンドが、緞帳の下がった舞台へ出ていく。第二幕はマデリベルが王宮へ到着した場面から始まるのだ。

「俺はギリギリまで待つつもりだ。それでいいか、セドリック?」

舞台袖にいる王太子に訊ねると、彼は黙って頷いた。


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