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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
332/616

184 悪役令嬢の不本意な緊縛

変態が出てきます。

軽い内容ですが苦手な方はご注意を。

自習室を飛び出したマリナは、全身に震えが走るのを止められなかった。

――あり得ない!あ、あり得ない、あり得ないあり得ない!何なの、あいつ!



脅されるような形でエンフィールド侯爵を案内し、普通科教室へ行こうとした時だった。彼は強い力でマリナの腰に手を回し、抱きかかえるようにして自習室へ押し込んだ。

「ここなら人が来ないね」

――学院を知らないなんて嘘だったのね!

と驚いたところで助けは来ない。アリッサが待つ普通科教室へ急ぐあまり、セドリックを置いてしてしまったのがそもそもの失敗だった。敵はアイリーンだけではなかったのに。

「先日王宮で君を見かけた時から、私は……」

晩餐会の予行の夜だ。あの時も侯爵はマリナを舐め回すような視線で見つめていた。

――気持ち悪い。

リオネルに聞いた、『とわばら2』の追加攻略対象の一人で、顔かたちも美しいインテリ青年なのだが、今までの記憶がマリナの瞳を霞ませている。少しもカッコいいと思えないのだ。

「嬉しいよ。君と二人きりになれて」

侯爵は金髪を掻き上げ、少したれ目の茶色い瞳を細めて優雅に笑った。上着のボタンを外して気だるそうな雰囲気を出している。女遊びに慣れていそうな優男で、浮気男が大嫌いなマリナの最も嫌いなタイプだ。


何を言われても受け流すんだ、とマリナは心に決めた。

――ここから逃げる方法を考えなければ。

自習室は真ん中に大きなテーブルがあり、向かい合わせで三脚ずつの椅子があるだけの狭い部屋だ。入口側に立たれてしまうと、机のどちら側を回って行っても捕まえられてしまうだろう。どちらかを走って出ようかとも思うが、無謀な賭けでしかない。


エンフィールド侯爵は、興奮で顔を赤くしていた。瞳が欲と狂気でギラギラと輝いている。

――怖い。

「マリナ嬢」

「来ないで!」

一歩後ずさる。窓まであまり距離がない。

侯爵は一気に間合いを詰めた。マリナの手を取り、甲に恭しく口づける。

「君に……踏んでほしいんだ」


――え?

「今、何と?」

「君に踏んでほしいと言ったんだ。蹴ってくれても構わないよ」

――ヤバい!ド変態のスイッチを押してしまったんだわ!

「触らないで!変態!」

マリナの心からの叫びが出た。エンフィールドはマリナの軽蔑した視線に痺れ、恍惚の表情を浮かべている。

「ああ……夢にまで見た通りだよ。もっと罵ってくれ」

火に油を注いだと気づく。時折セドリックも変態モードに入っているが、彼ほどではない。

「お断りします」

「いい……冷たい視線が、いい……」

「そこを通してください。くだらない遊びにお付き合いできるほど、私も暇ではございませんので」

「お願いだ」


マリナは室内を見回した。そして、椅子を窓際に一つ引いてくると、侯爵に座るように促す。自分の制服の胸元のリボンを解く。その様子を彼は固唾を呑んで見守っている。

椅子の後ろに回り、背凭れの外側に腕を回すようにして侯爵の手首を縛った。

「マ、マリナ嬢……!」

驚いた声を上げながらも、彼は頬を染めている。

――うう……。こんなことしたくないわ。

「目を閉じてください」

ゆっくりと彼のクラヴァットを解き、目隠しをして後ろで固く結んだ。元々少し着崩していたのか、侯爵の襟元が開き、

「はあ……何だ、これは……」

「見えない方が、か、快感が増すかと」

言っている方が恥ずかしかった。だが、ここから抜け出すための作戦だ。相手から見えなければ逃げ出せる。

「おとなしくしてくださいね……私が何をしても、声をあげてはいけませんよ?」

わざと低い声で、ゆっくりと聞こえるように念を押す。

「あ、ああ、勿論だ。声は出さない」

「お約束してくださいますか?」

「約束する!だから、早く……」


バン!

勢いよく開いたドアが壁にぶつかり音を立てる。興奮している侯爵を残し、マリナは全速力でそこから逃げ出した。廊下は走らないというポリシーもどこかへ飛んでいった。

どうにか今回はやり過ごせたものの、次に会ったらどうなるのだろう。恐怖で全身が震える。出会いは最悪だった。彼に殺されかけた記憶もまだ鮮明だ。

「やだ……膝が震えて……」

階段の傍まで来た時、マリナは自分の脚が立っていられないほどに震えているのに気づいた。手すりに身体を預け、どうにか歩こうとするが、立っているのもつらい。情けなさと侯爵から逃れられた安堵で、自然と涙が溢れてくる。目の前の景色が歪んでいく。

「……っ、……く……」

皆、講堂や剣技科魔法科の練習場に行ったのだろう。誰も通らないのは好都合だった。

声を殺して泣いていると、景色が突然暗くなった。


「……マリナ?」

弾かれたように顔を上げたマリナは、腕を伸ばして優しい声の主に縋りついた。


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