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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
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178 悪役令嬢と悪戯な黒猫

「あなたのせいじゃない。悪いのは犯人だ」

「でも……」

「スタンリーを追って行って、途中で誰かに見られたの?あなたがそこにいたって証言があるみたい」

「分かりません。帰りの時刻でしたし、辺りも薄暗くて……あ、そう言えば、一人」

「……誰?」

「一人で戻ってきたアイリーンとすれ違いました。何かぶつぶつ言っていて、気持ちが悪いなと思った記憶があります」

――やっぱり!

強力な光魔法の使い手が犯人だと聞いた時から、エミリーにはアイリーンが犯人ではないかと思う気持ちがあった。スタンリーは劇の主役にアイリーンを据えたが、リオネルによって変えられてしまった。アイリーンは面白くない展開だったに違いない。


「そう。……この話、誰かにした?」

「いいえ。王宮から来た魔導士の方にもいろいろ聞かれましたが話していません。僕が誰かに言えば、アイリーンを追い込めますか?それなら……」

キースは椅子から立ち上がろうとする。

「ダメ。……はっきりした証拠がなければ捕まえられないって、コーノック先生が言ってた。キースが証言したとアイリーンに知られれば、スタンリーみたいな目に遭う」

「僕は簡単にやられませんよ?」

四属性持ちのキースは、アイリーンと本気で戦えば勝つかもしれない。しかし、ゲームヒロインの能力は人並み外れているのだ。危険なことに変わりはない。

「それでも、心配だから……」

キースの手を無意識に引いていた。

「エミリーさん……」

頬を赤らめて見つめられ、エミリーも照れてしまう。キースはエミリーの手を両手で包んだ。


ピカッ!

「何だ!?」

白い光が空間に現れた。

――転移魔法だ!

とエミリーが気づいた瞬間に、濃厚なシトラスミントの香りが立ち込める。

「あ、ああっ……」

黒い人影にキースが怯えたような声を上げる。

バサリとローブを揺らして着地したマシューは、僅かに靴音を立ててエミリーとキースの傍へ歩み寄った。

「エミリー、ここにいたのか」

――怖。目が笑ってない。キースを空気扱いだし。

マシューは隠している赤い目を光らせて、魔力を辺りに漂わせている。

「ここは男子更衣室か。こんなところで何をしているんだ」

眉間に皺を寄せ、低く苛立った声で尋ねる。半分服を脱いだ状態のキースを一睨みして、キースからエミリーの手を奪った。

「エンウィに連れ込まれたのか?」

「ち、違います!僕はそんなことしていません!」

「私がここに転移しただけ」

「男子更衣室にか?」

「キースに会いたいと思ったら、ここに来た」

「……会いたい、か。ほう……」

マシューの魔力がさらに溢れているのが分かる。キースはびくびくと怯えている。以前に魔法で吹き飛ばされてから、魔王が怖いらしい。

「容疑者だって聞いたから。心配で」

「そうか……ん……腕輪が現れているな」

――はっ!魔法をかけられていないのに、どうして……?


「俺が転移してきた時に魔力を浴びたのか。では、消してやらないとな」

「……ここはやめて」

キースの目の前で、唇から魔力を注入されたら、と考えるだけでも恐ろしい。

ジロリ。

睨み付けたつもりが、マシューは見つめられたと思ったらしい。口の端を上げて笑った。

「ああ。分かっている。……エンウィ」

「はっ、はい!」

「スタンリー・レネンデフォールの事件は、宮廷魔導士が関わることとなった。学院内の生徒と教師のうち、中程度以上の光魔法が使える者全員の事件当日の足取りを追っている。光魔法の使い手の中には、セドリック王太子も、妃候補であるマリナ・ハーリオンも含まれる。王族と関係する事件とあって、宮廷魔導士が出ることになったが、疑われているのはお前だ。お前が現場近くにいたと、ある生徒が証言したそうだ」

「それって、もしかして……」

「鋭いな。……あいつだ。アイリーン・シェリンズ。お前を嵌めようとしている。気をつけろ」

マシューはそう言い置くと、エミリーを抱き寄せて転移魔法を発動させた。

「そんな……気をつけろって言われても……」

キースは更衣室の中で呆然と立ち尽くした。


   ◆◆◆


剣技科の『仮装闘技場』は、開始早々大きく盛り上がっていた。

赤組二番手のアレックスが、観客席からジャンプで練習場の砂地に降り立った時は、大きな歓声がした。

「派手な登場だねー」

観客の椅子に座ったレナードが、膝に肘をついたまま、ランプの精の格好をしたアレックスを目で追う。

「カッコいいけど、複雑……」

「ジュリアちゃん、自分の婚約者をカッコいいって人前で言うのは、やめといたほうがいいと思うよ?惚気にしか聞こえない」

「ゴメン……」

「別に謝らなくても。あ、俺のこともカッコいいって言ってくれたら、許してあげる」

猫目を細めてにんまりと笑っている。彼の言葉はいつも、本気なのか冗談なのか分からないとジュリアは思う。

「カッコいいよ?猫ちゃんも」

「わ、何か、微妙な褒め言葉!」

「褒めろって言ったくせに」

「ははは。ね、俺のこと撫でてよ。猫なんだから、撫でてくれるよね?」

「調子に乗りすぎ!」

額をペシッと叩くと、レナードはまた楽しそうに声を上げて笑った。


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