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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
324/616

176 悪役令嬢とランプの精

「アリッサさん、これはこっちでいい?」

「壊れやすいものはこちら側に集めてください」

無事だった作品を集め、アリッサは実行委員と有志の力を借りて、普通科教室での展示を並べ直していた。完全に突貫工事の様相である。

「絵はどの順番でかける?」

「ポーリーナ、どう?」

「そうね……これは、こっちの方が……」

義妹(予定)のフローラに励まされ、奮起したポーリーナが的確な指示を出してくれており、アリッサは彼女に心の中で感謝していた。

――私一人じゃ、絶対にできなかった。皆が頑張ってくれたから……。


アリッサとフローラと数名の実行委員は、見栄えよく展示を並べ終えた。ポーリーナも作品の解説係として立ち直り、黒いピアノカバーを脱ぎ捨てて、作品に見入っている。

先刻、レイモンドが教室に顔を出し、国王夫妻が教室を訪れるのは講堂で演奏を聞いてからだと言っていた。

「展示をご覧になる時間まで少し余裕ができましたわね」

「そうね。なんとかなりそうだわ。レイ様が殿下に、場をつないでくれるようにお願いしたって」

「大丈夫でしょうか……わたくし、少しばかり不安になってまいりましたわ」

「セドリック様ならきっと……と言いたいけれど、うん、私も少し不安だわ」

「演奏会はマリナ様が中心となって動いていらっしゃるのでしょう?」

「うん。マリナちゃんが皆と話し合って出演順を決めて、実行委員が演奏者を順番に音楽室から呼んで来るの」

流石のマリナでもフォローしきれないかもしれないとアリッサは思った。姉妹は別々の場所で学院祭の運営を取り仕切る。お互いに頼ることができないのだ。

「大丈夫かなあ……マリナちゃん……」

アリッサの不安は的中した。


   ◆◆◆


「いよっ、妖精!……うわあ、想像通りだね、ジュリアちゃん」

レナードは猫目を細め、赤紫色のミニ丈のドレスで妖精に扮したジュリアを、上から下まで舐めるように見た。

「こら、見すぎ!」

「ぐえ」

アレックスが後ろからレナードの首に鍛えられた腕を回して羽交い絞めにする。

「いいじゃないか、似合ってて可愛いなって言ってるんだからさ。ほら、脚も綺麗だし」

「だから、見るなっての!」

「試合中も見たらダメ?そんなのおかしいよ、アレックス」

ジュリアもアレックスに文句を言う。前世ではこの程度のミニスカートは普通だった。制服のスカートもこれより短かったと思う。

「中にショートパンツ穿いてるし、見えないって。ね、ほら」

スカートを少し持ち上げると、アレックスは赤くなって自分の制服の上着を脱ぎ、ジュリアの膝に掛けた。

「おとなしく座ってこれ掛けてろよ。いいな!」

「またそうやって命令するんだから。アレックスだって着替えて来なくていいの?出番はすぐだよ?」

「アレックスは赤組の二番目だよ。急いだ方がいい」

「げ、そんなに前だったっけ?」

「劇に出るから順番を先にしたんじゃないか。ほら、早く着替えに行って来いよ」

赤い髪を掻き、アレックスは更衣室へ一目散に走って行った。


剣技科練習場で行われる『仮装闘技場』は、すでに多くの観客が試合開始を待っていた。赤組対青組の勝ち抜き戦で行われ、赤組の選手が敗れたら赤組の次の選手が中に入るのである。各組は一年から三年まで、比較的戦力を均等にしてあり、試合の進み具合によっては三年生と当たることもある。

「三年生と戦うの、ドキドキするなあー。レナードはいつも三年生と練習してるよね?」

「しごかれてるだけだよ。今度、ジュリアちゃんも一緒に練習する?きっと皆喜んで仲間に入れてくれるよ」

優しく笑うレナードは、ビヴァリー渾身の作である悪戯猫の衣装を着ている。猫目の彼にはぴったりだった。身体に沿う黒い服は、所々に革が使われており、ロックミュージシャンのようにも見える。頭の上の猫耳を除けば。

「猫耳、可愛いね」

ジュリアはレナードの頭に手を伸ばす。黒い猫耳は本物そっくりの出来だ。根元は緩く波打つ茶色の髪に埋もれていて、カチューシャ部分が見えないのもいい。

「そう?俺としては不満だったんだよ?ビヴァリーがどうしてもって泣きそうになってさ、仕方なくつけてるの。ジュリアちゃんが褒めてくれて救われた気分だよ」

「そう?私はお気に入りだよ、それ」

「ありがとう。……さて、そろそろ始まるかな。ほら、リオネル殿下が台に上がった」


練習場の中央、砂地の上に置かれた台は、大人の腰の辺りまでの高さだった。台に近づいたリオネルは、階段を上がらずに手をかけて飛び乗る。服装はリオネルの希望で熊の着ぐるみである。アリッサが見たら喜びそうだとジュリアは思った。

「……すごいな。あんなの着て、一回で飛び乗ったぞ」

そう言いながら、開会に間に合ったアレックスが、観客席に座るジュリアの隣に並んだ。

「早かったね」

「着るもんが少なかったからな。……ってか、俺の服、こんなのだったか?」

アレックスの服装は、魔法のランプを擦ると出てきそうなアラビア風だった。膨らんだズボンはウエストの幅広ベルトで固定され、裸にノースリーブのベストを着ているが、前は留めるボタンがない。鍛えられた胸筋と腹筋が丸見えなのだ。勿論、引き締まった筋肉質の腕もである。父のヴィルソード侯爵とは異なる、細マッチョな身体を惜しげもなく晒している。筋肉フェチにはたまらない衣装だった。アレックスが練習場に現れた時、周りの観客が黄色い歓声を上げていた。

「裸みたいなもんだろ?寒くはないけど、ちょっとな」

――あんまり見られたくないな、何となく。

肉体美が凄すぎて、常に色気ダダ漏れ状態になってしまっている。ベストの前を閉めてようとするも閉められず、ただ胸と腹を触ってしまう。

「何触ってんだよっ……」

「触ったつもりはないよ、でも」

ジュリアの指先が胸を撫でると、アレックスは身を固くしてびくりと震えた。

「なっ、ジュ、ジュリアっ……」

「二人とも、何してんの?」

冷たい視線に気づくと、レナードが呆れ顔で見ている。

「リオネル殿下の話が終わったよ。いよいよ試合開始だ。アレックスもイチャついてるヒマがあったら、素振りでもして身体を温めてきたら?」

「あ、そ、そうだよな。ジュリア、行こうぜ!」

ランプの精は模造刀を手に、練習場の外へと妖精を連れ出した。


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