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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 7 学院祭、当日
321/616

173 悪役令嬢とオバケの嘆き

グランディア王立学院祭は、学院内の講堂で開会式が行われた。ステファン国王とアリシア王妃の他、アスタシフォン王国から大使としてエルノー伯爵が来賓席に座った。

「おっ、ルーのお父さん来てるよ」

リオネルがにやにやしながらルーファスの肩を叩く。

「クラスごとに座ってんのに、どうしてここにいるんだ?」

「え?だって仲いい人と一緒に座りたいじゃない。代わってって言ったら、席を譲ってくれたよ?」

ルーファスは複雑な気持ちで隣に座るリオネルを見た。年上の側近として、くだらないところで権力を使うなと注意すべきか、自分の隣に座りたかったという彼女の言葉に素直に喜ぶべきか。

「……そうか」

結局、後者を選んでぼそりと呟いた。


「あ、次はセドリック様だ。大丈夫かな、あの人。昨日も泣きながら挨拶原稿作ってたんだよね」

挨拶の後、開会宣言をすることになっている。長い文章ではないが、セドリックは苦戦していた。

「一国の王になるのに、挨拶ごときで挫けるようでは、グランディアの将来も見えたようなもんだな」

「セドリック様はさ、あんまりたいしたこと話してなくても、いるだけで華があるから、いいこと話したように見えるんだよ。得だよなって思う」

壇上のセドリックに視線を向けながら、リオネルとルーファスは囁き合う。

「ああなりたいか?」

「別に」

「王太子殿下を補佐して国政に関わって行くなら、公式の場での挨拶は必須だぞ」

「人前に出たくないの。……バレたらと思うとさ。僕、思ったより身長が伸びないし」

「ごまかせてもあと一、二年だろうな」

「ごまかせなくなったら、王子リオネルは死んだことにしてもらわなきゃ。で、第二の人生を送るよ」

「なあ、その時は、俺の……」

妻になってくれ、という声は、セドリックを称える割れんばかりの拍手にかき消された。

「ん?何?聞こえなかった」

「……っ、何でもない!ほら、開会宣言が終わったぞ。持ち場につくんだろ?」

「うん!剣技科の『仮装闘技場』、ルーも見に来てね!絶対だよ」

「おう」

ルーファスの返事を聞き、リオネルは花が咲いたように微笑んだ。


   ◆◆◆


開会式の後は、国王夫妻と来賓のエルノー伯爵は、普通科の教室へ向かうことになっていた。美術や工芸などの生徒達の作品が展示されている。その後、講堂へ戻り、器楽の演奏を鑑賞する予定だ。

アリッサがレイモンドと共に、賓客の到着前に普通科二年の教室へ着いた時、中から尋常ではない泣き声が聞こえてきた。

「何事だ」

ドアを開けるなり、レイモンドが教室内を見渡し、声の主を見た。

「レイモンド様!大変ですわ!」

黒いピアノカバーを被って泣いているポーリーナは、引っ込み思案が嘘のような声量だった。フローラが彼女の背を撫でている。

「絵、絵が、絵がああああああああ!うわああああああん!」

教室の壁に掛けられた絵の数々が、悉く刃物のようなもので切り付け、ポーリーナが描いた風景画も、無残にもバツ印をつけられている。

――酷い!とってもきれいな絵だったのに!

昨日、控えめでも誇らしげに絵の話をしていたポーリーナを思い出す。アリッサは彼女が絵にこめた想いが踏みにじられたと思い、怒りが湧いてきた。

「開会式が終わってすぐに戻ってまいりましたら、こんなことに……。目を離したのがいけなかったんです。わたくしの責任ですわ」

「開会式は全員参加だもの、フローラちゃんは何も悪くないよ」

「絵が切られたのはこの部屋だけか?二年二組や三年の教室はどうだ」

「他の実行委員が確認に行きましたが、三年一組にあった木彫の鹿も、角が折られていたようです。他にもいくつか。ガラス細工や陶器はもう……」

フローラは眉間に皺を寄せた。ポーリーナは幾分落ち着いたらしく、泣き声を上げるのをやめて盛んにしゃくり上げている。


教室には、ポーリーナのように絵の才能がある生徒が製作した作品と、二年と三年が校外学習で製作したうち比較的見栄えのする工芸品を飾っていた。職人に教わって作ったもので、どれも到底売り物になる品物ではないが、貴族の子女が工房に通って市井の様子を肌で感じた証だった。アリッサが昨日最終確認をした時には、二年のセドリック、三年のレイモンドの作品も展示してあった。

「どちらも、陛下や王妃様がご覧になる予定だったのに……こうなったら、別の教室をご案内しましょうか?」

「別の教室をご覧いただくとしても、刃物で絵を切った犯人が近くにいるんだぞ?陛下に万一のことがあっては……講堂でそのままお待ちいただくほうがいいだろう。俺は講堂に戻って、セドリックと学院長先生に報告する。アリッサ、君は作品が荒らされた教室を閉鎖し、無事な作品を集めて展示を再開させてくれ。追って、警備員を巡回させるように手配する」

「分かりました」

「フローラはポーリーナについていてやってくれ。自分の作品を壊されて衝撃を受ける生徒が他にもいるかもしれない。混乱させないように」

「はい。手の空いている実行委員が、既に作者の皆様の元へ走りましたわ。簡単に修復できるようならすぐに直してほしいと」

「いい判断だ……頼んだぞ、フローラ」

緑色の目を細めたレイモンドとフローラは視線を交わした。

――レイ様?フローラちゃん?

二人の間に流れた親密な空気を感じ、アリッサの胸がドキリと音を立てた。


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