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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 1 出会いは突然じゃなくて必然に?
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24 悪役令嬢はドレスを脱ぐ

マリナが暴走します。

泣いていた理由を尋ねられ、セドリックは渋々口を開いた。

「今日は、母上に大事な客人が来る。だから、僕は厩に行けと言われた。新しい馬が入ったって」

「うわあ、いいなあ、新しい馬かあ」

「あなたは黙って。……それで、どうしてこうなったのですか」

「だから……」

王太子は少女のように綺麗な顔を歪め、真っ赤になって俯いた。

「ははーん」

ジュリアが腕組みしてニヤリと笑う。

「お母さんに置いて行かれて寂しかったんでしょ?」

「なっ、僕は、そんなっ……」

真っ赤になっていたところにズバリ指摘され、セドリックはまた泣きそうだった。

次代の王が、マザコンを指摘されて恥ずかしがっている場合か。

こんなのに嫁がされるなんてお断りだわ。マリナは内心舌打ちした。

「寂しくなんてありませんわ。殿下のお傍には、アレックス……ヴィルソード侯爵家のアレキサンダー様もいらっしゃるではありませんか」

久しぶりに愛称以外で呼ばれ、尚且つ「様」をつけられたアレックスは緊張して、

「う、うん。はい、いらっしゃりました」

と謎の相槌を打った。

これがマリナをさらに苛立たせることとなった。

セドリックはアレックスの下手な丁寧語に軽く笑うと口が滑らかになった。

「母上は、女の子が欲しかったんだ。だから、僕じゃダメなんだ」

マリナとジュリアは、先刻王妃が自分達姉妹を猫かわいがりした様を思い出し、成程と思った。

「いいじゃん、男の方が騎士になれるもん。女の子は動きにくいドレスを着なきゃならないし、自由に木登りもできないんだよ?」

先刻の不自由さを思い出し、ジュリアはドレスは二度と着ないと心に誓った。男物の赤い上着は恰好良くて気に入っている。

「セドリック殿下、私があなたのご希望を叶えてさしあげますわ」

――そんなに女の子になりたいなら、なればいいじゃないのよ。

マリナはセドリックの青い上着の襟元をすうっとなぞると、クラヴァットに手をかけ、するすると解いていく。

「くっ……」

しんとした室内に、セドリックが息を呑む音だけが聞こえた。


   ◆◆◆


王宮内の客用寝室。天蓋付きのベッドの上で、マリナはジュリアの助けを借りながらドレスを脱いでいる。傍らには王太子から奪った衣装一式が積まれている。

ベッドの横の幕を下ろしており、幕の外にいるセドリックとアレックスからはマリナの様子はよく見えないが、それでも緊張する。

「どうするつもり?」

ジュリアが小声で聞いてくる。

「殿下にドレスを着せる。女子に無理やり女装させられて、嫌な思い出を作って差し上げるの」

「嫌われるため?」

「そうよ。この間、うじうじ泣いているのを詰って、今日も詰って、その上女装。私を嫌いにならない方がおかしいわ」

マリナはセドリックの服を脱がせながら、散々彼を詰った。いつまでもうじうじ悩んで泣いているなんて、グランディ家の御先祖が見たら嘆き悲しみますわね、と。


ドレスを横に置き、ジュリアが差し出した男物の服を着ると、マリナは頭のリボンを外した。まるでどこかの貴族令息のようだ。

「結構さまになってるねー。うん、少し袖丈が長いかな」

袖口にも刺繍があり、折り曲げることができないようだ。ぶかぶかだが仕方ない。

「ありがとう。……さて、殿下にも着せて差し上げないと」

ベッドから出てちらりと見れば、下着姿のセドリックと目が合った。肩にアレックスの上着をかけているものの、マリナに見られて真っ赤になっている。

「お待たせいたしました。これからお支度を始めさせていただきますね」

「あ、ああ、頼む」


   ◆◆◆


王宮の中庭にて。

「ねーえ、エミリーちゃんてば!起きてよぉ」

相変わらずアリッサはエミリーを起こそうと躍起になっていた。昨晩も遅くまで魔導書と格闘し、家の敷地全体に結界を張っていたエミリーは、貴重な睡眠時間を取り戻そうと熟睡している。

「お母様は王妃様とお話中で時間がかかりそうだし。マリナちゃんもジュリアちゃんもどっかいっちゃったし。どうしよう……」

給仕が出したお茶もお菓子も飽きてしまった。お母様に止められたけど、読みかけの本を持って来ればよかった、とアリッサは思った。

子供の足音がし、振り返るとジュリアが走ってきた。

「あれ、ジュリアちゃん、マリナちゃんはどうしたの?」

「エスコート中」

「誰に?」

「マリナが貸したドレスを……あ、来た来た!」

遠くにピンク色の人影が見えた。


「お待たせ、どうかしら」

マリナは会心の笑みを浮かべて、人々の反応を見た。

「うわあ……」

アリッサが大口を開けて目をまんまるにしている。そこには、艶めく金の髪にピンクのリボンをつけ、ピンクのドレスを着たご令嬢が立っていた。恥じらいから少し頬を紅潮させ、青い瞳が心なしか潤んでいる様子が、儚げな愛らしさを引き立てている。マリナが上から下まで自分の作品を愛おしげにじっとりと眺めると、ご令嬢は華奢な体をビクッと震わせ、紅を引かなくても赤い唇が何事か呟いた。

「マリナちゃん……こ、この方……」

アリッサの顔が一層青白くなった。ゲームのスチルで見た王太子の面影がそこにある。

「セドリック様、大丈夫ですか」

「ああ、ありがとう。心配ないよ、アレックス」

口調は前と変わらないが、アレックスに手を引かれるとまるでエスコートされているかのように見える。

「王妃様にお見せになってはいかがですか、セドリック様。王妃様のお望みどおりに、女の子になった殿下に、きっと驚かれますわよ」

マリナは高貴な笑みを浮かべて、ドレスのボタンが閉まらずむき出しになっているセドリックの背中を押し、仲良く談笑する貴婦人二人のテーブルへ向かわせた。


「へっへー。いいでしょ、この服。上着も刺繍がかっこいいよね」

何故かジュリアがマリナの服を自慢する。見ればマリナはかなり高価そうな服を着ている。青地に金色の細かい刺繍が入っており、生地の艶も厚みも特注品に違いなかった。格調高い衣装を堂々と着こなしているのは、もって生まれたマリナの風格のなせる業だ。どう見ても王子様にしか見えない。

「交換していただいたの。無理やり脱がして借りてきた?かしら」

アリッサの顔から血の気が引いた。このドSな姉がとうとう、追剥ぎに成り下がってしまった。

「ダメだよ、それ。お母様に怒られるよぉ」

「大丈夫よ。私のピンクのドレスをお貸ししたから」

そういう問題ではない。アリッサがおろおろしていると、ジュリアはにやにやして言う。

「アリッサも一緒に来ればよかったのに。楽しいわよ、着せ替え人形は」

姉二人が思い切ったことをしたおかげで、当家はもっと存続が危ぶまれる状況になったと、アリッサは頭を抱えた。



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