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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
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168 悪役令嬢は劇の衣装に物申す

今日は、本番に使用する衣装を着ての練習だった。衣装と言っても、それぞれが持ち寄った、『役にぴったりの服』である。一度更衣室へ行き、置いてあった衣装へ着替えた。


マデリベル役のレイモンドは、男女が逆転する前の『マデリベルと意地悪な姉』をベースに、マデリベルの純粋さと可憐さを表現した白の上着に薄緑色のズボンだ。水色の髪にも白が良く合う。

「どうだ?マデリベルらしいだろう?白百合のようなマデリベルに相応しい」

堂々と胸を張るレイモンドの前で、アリッサが両手を胸の前で組み、祈るような姿勢で彼を見上げている。アメジストの瞳が恍惚状態で輝く。

「レイ様……はぁ、す、素敵ですぅ……」

――素敵すぎて鼻血出そう……。

鼻を押さえて蕩けるアリッサを見て、レイモンドは満足そうに瞳を細めた。


「予想通りすぎて言葉も出ないわね」

二人の様子を見たマリナが呟いた。ジュリアは苦笑いをしている。

「レイモンドに清純派の役なんて……」

「どこをどういじってもピュアになれそうにないのにね」

「そうよね……あら?」

マリナがアレックスに気づいた時には、隣にいたジュリアは彼の元へ駆けだした後だった。


「……っ、ど、どうかな」

黒と赤を基調とした上下に、表が黒で裏が赤のマントをつけたアレックスは、首に掌を当てて照れながらジュリアを見た。

「うーん……」

「こらっ、『うーん』って何だよ!」

「だって、アレックスっていつも赤とか黒とかばっかり着てるじゃん。見慣れた感じ?」

「それは、お前が赤が好……っ、何でもねーよ。い、いいだろ!これで!」

――何を慌ててるんだろ?ま、いいか。

「いいと思うよ、似合ってる。いつも通りカッコいいし」

「かっ……う、ああ、そ、そうか……うん」

アレックスは挙動不審のまま、キョロキョロと視線を彷徨わせた。

「……ありがとな」

真っ赤になってジュリアの耳元でボソッと呟き、肩を一つポンと叩いて、壇上へ飛び乗った。


ジュリアが恋人兼親友の雄姿に惚れ惚れしている頃、マリナはマデリベルの双子の兄役であるハロルドとセドリックを前に、瞬き一つできなかった。

「いかがでしょうか。私にこのような濃い色の服が似合うものでしょうか……」

控えめに言うハロルドだが、ここは『似合っている』と言わない限り引き下がらなそうだ。

紫色の上着に銀糸の刺繍がされている。ハーリオン家にいる時は、地味な色の服ばかりを着ていた彼である。今回のために作らせたのかもしれない。

「嫌味で陰険なコルディオらしいと思ったのです。……紫は私の好きな色の一つですから」

暗に『あなたの瞳の色だ』と言いたいのだろうが、マリナは全力でスルーすることにした。

「よ、よくお似合いですわ……」

「トルディオの方が重要な役だよね?ほら、僕は普段赤なんて着ないんだけど、レイに言われて着てみたんだ。自分では悪くないと思うんだけど、マリナはどう思う?」

セドリックは真新しい赤い上着を見せて微笑む。手持ちの衣装で済ませるはずが、彼はどうやら王宮御用達の仕立屋に特急で作らせたらしい。

「どう、と……高飛車なトルディオらしく、派手でよくお似合いだと思いますが」

満面の笑みでセドリックはマリナの肩に顔を寄せた。

「ねえ、マリナ」

――近い!パーソナルスペースってものがないの?

「僕の衣装に合わせて、赤いドレスを着てきてよ。王女役は君なんだよね?」

「王女はマデリベルと結ばれるんですよ?マデリベルの兄と衣装を合わせるのはおかしいと思いますわ」

「では、私の衣装の紫に合わせてくださいますか?」

「同じことですわ、お兄様!」

――つ、疲れる……!


   ◆◆◆


劇の練習をもう少しで終えようとした頃、講堂に足音が響いた。

「あら?」

前の席で練習を眺めていたマリナは、振り返って後方を見た。

「マシュー先生ね」

「よかった!魔法を……」

「しっ、アリッサ。エミリーは『風邪が治った』ら来ることになってるんだよ」

「そ、そうよね、ジュリアちゃん。ゴメン……」


転移魔法を使わずに歩いてきたところを見れば、マシューも一応配慮はしたようだ。いきなり壇上に現れて混乱させてはいけないとでも思ったのだろう。

マリナ達の横を通り過ぎる時、ちらりと視線が交わった。頷く代わりに少し瞳を伏せる。

マシューはステージ袖からレイモンド達の様子を見つめていた。きりがいいところで声をかける。

「……オードファン。少し、いいか?」

「はい。何でしょうか、コーノック先生」

「舞台をより華やかに演出したいと、エミリー・ハーリオンから相談されていたんだが」

「演出、ですか?」

レイモンドは中指で眼鏡を押し上げた。

「魔法使いの登場する部分で、視覚効果を出したいそうだ。一番効果があるのは光魔法だが、彼女は唯一、光魔法を苦手としている。そこで、俺、いや、私が仕掛けをしていこうかと思っているのだが……」

「はい!光魔法なら任せてくださいっ!」

――やっぱり、来たか!

マリナとアリッサは顔を見合わせ、ジュリアは壇上に飛び上がったアイリーンに驚いた。


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