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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
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【連載4か月記念】閑話 占い師カルボナーラ 4

「……何だ、一人か」

「占いは一対一で」

「なるほどな。秘密を守るためか」

「そう」

あまり声を出すと正体がバレそうだ。ジュリアは極力言葉を短く言うように心掛けた。

「ふむ……ここへ来たのは他でもない。俺の考えを後押ししてほしいからだ」

「考え、とは?」

「俺には二つ年下の、それはそれは可愛らしい妖精のような婚約者がいるのだが」

――うわ、自分の彼女を他人の前で褒めすぎだろ。キモっ。

ジュリアは軽く後ずさりした。


「彼女は夢のような恋物語に憧れている。王女に騎士が求婚する話や、令嬢と庭師の禁断の恋、思いが募った従者に無理やりに奪われる令嬢の話など……」

――いや、最後のは明らかにヤバいでしょ。

「とにかく、女性の方が身分が高い話が好きらしい」

「はあ」

「そこでだ。俺は身分を捨てる」

「捨てちゃダメです、絶対!」

つい声が出てしまった。

「……そうか?」

レイモンドは不服そうだが、アリッサには生活能力がない。二人して路頭に迷うだろう。

「彼女は、物語は物語だと思っているはずで、現実は見えてる……と思う」

「どうだろうな。俺が学院にいる間に、身分の低い男によろめかないよう、周囲に未婚の男を近づけるなと頼んではあるのだが……」

「じゃあ大丈夫!心配いらない!」

毎日、アリッサは『レイ様お元気ですか』と手紙を書いている。日記なのか手紙なのか分からないくらい頻繁だ。

――ん?日記?

「そうだ!」

ジュリアはおもむろに水晶玉に手をかざした。中が緑色に光った。

――よし!

「緑色の表紙の手帳を買って、交換日記をするといい」

「交換、日記?」

この世界にはそういう文化がないらしい。レイモンドが首を傾げた。

「その日あったことを交互に書いていくんだ。日記は誰かに届けてもらえるのかな?」

「問題ない。……そうか、ありがとう。いつ届くか分からない手紙より、毎日の日記の方がより頻繁にやり取りできるな」

――げ。毎日書くつもりか?

「助言に感謝する。……これは礼だ。受け取ってくれ」

レイモンドはポケットから小さな袋を取り出し、テーブルの上に置いた。フッと笑って緑色の瞳を細めた。


   ◆◆◆


「レイモンドの奴、太っ腹だなー。金貨五枚?殿下のと合わせて、もう目標達成しちゃったよ!」

帰りの馬車の中で独り言を呟き、ジュリアはほくほくしていた。昨日のマリナは可哀想だったが、レイモンドにはまっとうな助言ができた。アリッサも喜ぶに違いない。


家に帰ると、アリッサが満面の笑みで緑色の手帳を抱えていた。

レイモンドは市場に来た帰りに商店街で手帳を買い、早速自分の分を書いて寄越したらしい。

「レイ様と交換日記なんて、夢みたい……」

はう、と吐息を漏らし、アリッサは遠くを見つめている。

「また始まった……」

エミリーが眉間に皺を寄せ、

「今晩は眠れなくなりそう」

と愚痴をこぼした。


エミリーの予言通り、夕食後に姉妹の部屋の机に向かったアリッサは、手帳に何やら書き出した。書く速さも相当なものだが、何ページ書くつもりなのだろうか。

「ねえ、アリッサ?今日はそこまでにして、休みましょう?」

マリナが優しく就寝を促すが、目を爛々と輝かせたトランス状態のアリッサには聞こえない。時折、ウフフ、と笑いながら妄想の世界にトリップしている。

「ほら、ね?」

エミリーが肩を竦め、自分のベッドに入ると闇魔法で暗くした。

「アリッサ?寝ましょうよ?」

「フフフフ……」


   ◆◆◆


翌日もジュリアは市場に出かけた。

今日はチェルシーに話がある。目標を達成したから、アルバイトを辞めたいと言うのだ。

そして、ロジャーの店で美しいレイピアを買って帰るのだ。喜ぶアレックスの顔を想像すると心が躍る。嬉しくて鼻歌が出た。


チェルシーの店の近くまで来ると、何やら人だかりができていた。

「こんなにお客さんが来てるの!?」

人垣の向こうを覗こうとするが、大人の群れは容易には越せない。

「ああ、あんた。チェルシーの弟子だよな?」

肩を掴まれ、ジュリアは声の主に振り向いた。

「そうだよ」

「大変だぜ、チェルシーの奴、貴族のボンボンに絡まれちまってさ」

「貴族に?」

セドリックやレイモンドから口コミで聞いた貴族の子が、店を訪れても何ら不思議はない。チェルシーは適当に話をしたのだろうが、インチキだとバレたのかもしれない。


「ちょっと、通してください……」

人ごみを抜けた先に、ジュリアは信じられない光景を見た。

――アレックス!?

黒い上着に赤茶色のスボン、赤い髪を振り乱した闘神のようなアレックスが、金の瞳を怒りで輝かせ、チェルシーに剣を向けていた。

「ジュリアは、どこだ?」

「知らねえよ、今日は見てない」

「知らない、だって?毎日ここに来ているのは知っているんだ」

「だから何だよ?どこに行こうがジュリアの勝手だろう?……ははーん」

チェルシーは剣に怯えもせず、腕組みをしてにやりと笑い、アレックスをちらりと見た。

「あんた、ジュリアに構って欲しいんだろ?」

「なっ、お、俺はっ……」

あまりの動揺にアレックスは剣を落とした。石畳に当たり、ガシャンという音がした。

「安心しろって。ジュリアはあんたしか見えてないからさ」

「!!」

アレックスはみるみるうちに真っ赤になった。赤い髪をバサバサと振りながら、顔を押さえて呻いている。

――チェルシーの奴、何てことを言うんだ!爆弾発言すぎるだろ!

ジュリアは彼の口を塞ぎに行きたかったが、面倒なことになりそうだと直感が告げ、二人の前に飛びだすのをやめた。


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