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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 1 出会いは突然じゃなくて必然に?
31/616

23 悪役令嬢は王妃に愛でられる

「アリシア王妃様。本日はお招きいただき……」

「もう、ソフィアったら。今日はそういう堅苦しい挨拶はよして」

王妃に腕を取られ、ハーリオン侯爵夫人ソフィアは笑った。

「まあああ、ほんっとうに可愛い子達だこと!十歳になったのよね」

はい、とマリナが代表で返事をすると、子供好きの王妃は頬を紅潮させて手で覆い、目をキラキラさせて四つ子を見た。

「女の子っていいわねえ、癒される~」

「四人もいればうるさいわよ。さっきも行かないで~って泣きわめいて。急に連れてきちゃって迷惑でしょ。ごめんなさいね」

「迷惑だなんて。可愛いお嬢さんたちは大歓迎よ。お揃いのドレスもよく似合って」

王妃はマリナの頭を撫でた。

「もう一人は?あら?男の子の服なの?」

「それがね、出がけにお腹が痛いって言い出して」

「まあ」

「普段スカートをはかない子だから、お腹を冷やしたらしいのよ」

暴飲暴食と腹を冷やしたことにより、急に腹痛に襲われたジュリアは、うまいことドレスを逃れたのだった。例によって少年のようないでたちである。

「これはこれで可愛いもの。いいじゃない」

王妃は男装の麗人も好きらしい。

「今日は王子様は?いいの?」

「新しい馬が厩舎に入ったとかで、そっちに行ってる」

「ああ。もう少ししたら習うのかしら?」

「そうねえ。大きい動物は怖いみたいだけど。ふふっ。あなたもすぐ、お家に戻りたいでしょうから、今日はあまり引き留めないつもりよ」

「乳母とアーネストに頼んできたわ。どうしようもなくなったら、家の使いが来るかもね」

「ごめんなさいね、赤ちゃんのお世話で忙しいあなたを呼びつけたりして。ほら、座って」

アリシアはソフィアを導き、椅子に座らせると紫がかった不思議な色をしたイヤリングを差し出した。

「これは……」

ハーリオン家の家宝≪魔力抑制イヤリング≫である。魔力を吸収して抑制するタイプのもので、この中には夫のハーリオン侯爵の莫大な魔力が蓄えられている。国宝級の魔石に匹敵する力を持つ。

先日、夫の忘れ物を届けに行った娘が、王宮内で失くしてしまったと謝っていた。よもや他の貴族の手に渡ったかと心配していたが、王妃が拾っていたのかと、ソフィアは安堵した。

「ハーリオン家のイヤリング、よね。この間、セドリックが東翼で会った天使が、去り際に落として行ったんですって」

「まあ!」

ふふふ、と王妃は笑う。

「それでね、その天使を探してほしいって、私に頼みにきたのよ。実を言うとね、今日のお茶会の目的はそれなの。もう、ほんっと、可愛いわよね。あの子ももう少ししたらこちらに来ると思うわ」

ソフィアの後をついてきた娘達が所在無げにしているのを、王妃は見逃さなかった。

「皆同じ髪と瞳ね」

「四人とも私にそっくりなの。セドリック様は違いがお分かりになるといいけれど」

「ふふ。お手並み拝見、というところかしらね?」


   ◆◆◆


母と王妃が育児トークをしている間、四人は周辺を探検しようと相談した。

「せっかく王宮に来たんですもの。少しは見て帰らないと」

「王宮には珍しい本がたくさんあるんですって」

「騎士団見に行こうよ!」

「やだ。寝る」

「ちょっと、エミリー!ここで寝ないでよ」

中庭に設置された白いガーデンテーブルに突っ伏して寝始めたエミリーと、見守り役のアリッサを残して、マリナとジュリアは東屋へ駆けだした。


「音が聞こえる……騎士の練習場はあっちね」

マリナは先日の王宮へのおつかいと、アレックスの父である騎士団長に連れられて王宮に出入りしているジュリアの話を元に、現在地を特定した。

「騎士団見に行こうよ、マリナぁ」

「いつでも見られるでしょう」

「ケチ」

王宮の奥へ歩いて行く。立ち入りが制限されている区域に入っても、子供のマリナとジュリアなら、迷子のふりで誤魔化せる。

「王宮に行くのが怖いって言ってたのに、馴染みすぎじゃない?」

「あら、あれは王太子が破滅フラグだからよ。もうお会いしたもの。妃候補にすらならないように嫌われる予定だし怖くはないわ。それより、王妃様とお母様の策略が気になるの。あの場にいないほうがよさそうだわ」

しばらく歩くと、白い大理石が美しい回廊に出た。大理石の壁が弱く光を反射し、金で縁どられた天井画を照らしている。

「素敵よね、この装飾。採光の位置も完璧だわ。綺麗な廊下よねえ」

マリナが感嘆の溜息をついた。ジュリアはうんざりしている。

「天井高すぎて落ち着かない。うちのほうがずっといいや」

「ジュリアはこういうの興味ないもんね」

「分かってるなら話が早いね。ほら、練習場に……ん?」

ジュリアが立ち止まった。数歩後ろに戻り、聞き耳を立てている。

「どうしたの?」

「泣き声が聞こえない?」

「うーん?微かに……って、ジュリア?」

マリナの返答を待たず、ジュリアは廊下に面した部屋のドアを勢いよく開けた。ドアノブが壁に当たった音がした。

「ちょっと、ジュリア!」

薄暗い部屋にずんずん入っていくジュリアの上着の裾を掴み、マリナは止めようとしたが止まらない。

「誰かいるの?」

窓際、カーテンの下にうずくまっている何者かの影がある。

「その声、ジュリアンか?」

見知った声に二人が近づくと、アレックスがおろおろ立ったり座ったりしていた。

「何してんの、アレックス」

「うん。今日は練習場に行く父さんについてきたんだけど、それで……」

アレックスの隣には、金色の髪を後ろで束ねた少年がぐしょぐしょに泣いている。年の頃はジュリア達とそう変わらない気がしたが、泣いているせいか幼く見える。

「ああ、子守を押しつけられたわけね」

「こも……!ぶ、無礼だぞ!」

目を真っ赤にし、鼻をすすりながら、金髪の少年が叫んだ。

「無礼?何のことかな。泣き虫のくせに、むむむっ」

「ジュリアン!やめとけよ!」

アレックスがジュリアを後ろから抱きかかえて、少年から遠ざけるようにして口を塞いだ。

「あの……」

マリナが少年に近づく。

「大変失礼をいたしました。ハーリオン家当主の娘、マリナと申します。本来ならば、私どもがこうして直接お話しするのも無礼にあたるのでしょうけど。……またお会いしましたわね、セドリック殿下?」

淑女の礼を取り、鋭い視線でセドリックを射抜いたマリナに、セドリックは一瞬、何か呟いた。目が思いっきり泳いでいる。

「あ、ああ。そうだ。僕がセドリックだ」


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