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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
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164 悪役令嬢と魔法仕掛けのGPS

エミリーが部屋を出ていってから一時間程度が経過し、寮の消灯時刻を過ぎてしまった。

「遅いねえ……」

読書灯を点けて歴史書を読んでいたアリッサが、時計を見つめて呟いた。

「呼ばれたって言ってたけど、誰に?」

ベッドの上でゴロゴロしながら、ジュリアが天井を見上げる。

「戻って来なかったらマシューに聞くようにって言っていたわね。呼んだのはマシューなのかしら?」

「だったら、マシューのとこに行くって言うんじゃない?」

「確かにね。……もう少しだけ待ってみましょう。日付が変わっても戻らなかったら、ロイドに頼んでマシューに手紙を届けてもらいましょう」

「ロイドか……」

ジュリアは不満そうな顔をしている。

「大丈夫かなあ?そんな手紙を頼んでも」

「私達は外出できないもの。こちらに来てくれるように依頼する手紙よ」

女子寮に限らず、生徒は消灯時刻である夜十時以降の外出を禁じられている。外出が認められるのは、家族に何かがあって急に帰宅する必要がある場合と、王宮からの呼び出しくらいなものだ。

「ロイドがアイリーンに操られてたの、あれ、治ったの?」

「どうかなあ?リリーはまだ、時々不安そうにしてるよね。可哀想……」

アリッサは眉を顰めている。自分達がアイリーンに目の敵にされているせいで、仲の良い使用人夫婦の間に亀裂が入ってしまったのだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「目立ってはいないけれど、多少は影響が残っていると思うわ。夜も遅くてリリーを外に行かせるのは……」

「マシューのところにこっちから行ければいいんだけどね。エミリーがいないと転移もできないしさ。……うーん。……マシューにこっちに来てもらおうよ」

「手紙で呼び出すのね?」

「うん。エミリーの一大事なら、飛んでくると思うんだ」


   ◆◆◆


かくして、マリナはマシューに宛てて短い手紙を書き、独身寮までロイドに持っていかせた。

「エミリーが帰りません。ご相談いたしたく、お待ち申し上げております。マリナ・ハーリオン」

とだけ簡潔に書かれている手紙を見れば、マシューは事態が呑み込めるだろう。

ロイドが出ていって十分もたたないうちに、部屋の中央が白い光を放ち始めた。

「来たよ」

マシューがいつ来てもいいように、三人は普段着に着替えて待っていた。眩い光が消え、中から黒衣の魔導士が現れた。マリナの居所に転移先の座標を合わせて来たのか、転移した先が女子寮の寝室だと気づき、流石の彼も動揺している。

「お運びいただいて申し訳ございません、マシュー先生」

マリナは恭しくお辞儀をした。アリッサがおどおどして背の高い彼を見上げ、ジュリアはベッドから下りて椅子の背もたれを前にして跨った。


「エミリーが戻らないとは、どういうことだ?」

焦りの表情を浮かべたマシューは、挨拶もそこそこに本題に入った。他人に話しかけても自分から話そうとしないような彼が、三姉妹に食らいつきそうになっている。

「消灯時刻より前に、誰かに呼び出されて出て行ったのです。風魔法で伝わったようですが、私達には分かりませんでした」

「出ていく時に、自分が戻らなかったら先生に聞くようにって言ってたんです」

「何か悪い予感がしたのかも」

はっとしたマシューの赤い左目が魔力を湛えて光った。

「エミリーに渡した腕輪は、魔法攻撃も物理攻撃も跳ね返す強力な効果がある。滅多なことでは危害を加えられないはずだ」

「居所が分かりますか?妹は、今どこに?」

静かに頷くと、マシューは空中に手をかざした。四角い画面のようなものが浮かび上がる。

――近未来のナントカみたいだ!

ジュリアは一人興奮を抑えられなかった。目の前の画面にあるのは、王立学院を上空から見た図だった。

「腕輪には特異な波動を出すよう仕掛けてある」

――GPSか!

身を乗り出したジュリアをマリナが後ろから引っ張った。


「こうして、俺が地図を示せば、エミリーの居所が……ん?」

「どうしたんですか?」

実家から持ってきたぬいぐるみを抱きしめて不安を和らげているアリッサが、びくりと身体を震わせた。

「エミリーちゃんに何かあったんですか!?やっぱり、行かせるんじゃなかった……」

半分泣きそうになっている。

「……この場所……今は使われていない旧校舎だな。いや、何かに使っていた気がしたが、思い出せん」

「あの、先生。この腕輪の場所の他にも、点滅している赤や青の光のようなものが見えるのですが、これは何ですか?」

「俺が広げた地図は、魔力の発生源を感知するようになっている。腕輪だけではなく、個人が発する魔力もだ。色は魔法の主属性を示している。つまり……エミリーの腕輪の傍に、光属性の者がいる、ということか。かなり強力だな」

「まさか、アイリーンか?」

「そんなぁ、どうして旧校舎に……」

マシューはマリナの肩を叩き、赤い瞳を隠そうともせずに静かに頷いた。

「エミリーは俺が助け出す。……心配するな」

三対のアメジストの瞳に見つめられ、マシューは無詠唱で部屋から転移して行った。


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