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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
298/616

156 悪役令嬢は台本の読み合わせをする

例によって、マリナは放課後の自習室にいた。

劇の台本を持って顔を強張らせているセドリックと、アルカイックスマイルを浮かべるハロルドが向かい合っている。

「どういうことかな、マリナ?」

二人きりでの練習に期待していた王太子は、目の前の人物に敵意丸出しの視線を向けた。ハロルドは全く動じる気配はない。

「殿下はお忙しいでしょうから、お帰りになって結構ですよ?」

「それは僕に途中で帰れと言うことかな?」

「いいえ、滅相もございません。お引止め致しませんから、端からお帰りいただいても」

美しい金髪の二人が挑発しあっている。

――学園祭の前に、胃に穴が開きそうだわ。

マリナは大きな溜息をついた。


「セドリック様とお兄様は、劇で双子の役なのはご存知ですよね」

「うん。だからって、一緒に練習なんて……」

「いいえ!」

マリナは開き直ることに決めた。腰に手を当て、凛とした表情で胸を張る。

「声を揃えて言う台詞も多く、お一人での練習では難しい部分がございます。お兄様と合わせて練習をなさったほうが、必ず上手に演技ができますわ」

「そうかなあ……」

半信半疑のセドリックは、ちらりとハロルドを見る。納得していない顔だ。

「全校生徒とお客様の前で、ばらばらな台詞回しを披露するおつもりですの?威厳のある意地悪な兄役を完璧にこなすには、練習の積み重ねが大事ですよ」

「うーん……」


セドリックの役は常に上から目線でプライドが高い嫌な兄、ハロルドの役は陰険で嫌味しか言わない兄だ。この二人の美貌が毒々しさに華を添えるだろう。

マリナは台本を開き、

「では手始めに読み合わせをいたしましょう」

と二人の顔を見た。


   ◆◆◆


学院祭の準備の進捗状況を確認するため、レイモンドはアリッサを伴い校内を回っていた。

「剣技科の準備はまずまずといったところだな」

「衣装はかなりできていましたね。この分だと、あと三日もあればできちゃうかも」

「普通科の生徒で、裁縫が得意な者が担当している。彼女達に劇の衣装も頼むのは、作業日程からいって難しいだろう。仕立て屋を呼んで採寸し、すぐに作らせよう」

「外注……」

「何か言ったか?」

「いいえ。学院祭の劇で使う衣装なのに、仕立て屋に注文するのですね。不思議な気がして」

「時間がない。背に腹は代えられないだろう?」

「マデリベルのボロボロ衣装以外は、皆自前の正装で足りるんじゃないかって思うんです」

アリッサの意見を聞き、レイモンドは押し黙った。

「……ふむ。成程。マデリベルは城の舞踏会へ行くのだったな。後夜祭のダンスパーティーで着る衣装を使えば、新たに発注する必要はない、か」

「はい。どうですか、レイ様?役に当たっている皆さんは、華やかな正装用の服やドレスをお持ちでしょうし」

「分かった。君の意見を取り入れよう。まとめ役を買って出ているリオネルにも相談する」

「はい。それがいいと思います」


「アリッサ」

不意にレイモンドが名を呼んだ。

「君とこうして廊下を歩けるのも、あと一年に満たないのだな」

二人の年齢差は二歳。最高学年のレイモンドは、卒業まで一年とない。アリッサは来年のことを考えて気持ちが沈んだ。

「俺は君と過ごせる学院生活を大切にしたい。生徒会の仕事もあるが、仕事の合間に二人の時間が持てたらと思っているんだ」

「レイ様……私も、二人の時間が、欲しいです」

「だから、俺達の関係を破壊しようと目論む者には容赦しないつもりだ。君にはつらい思いをさせることもあるかもしれないが、俺を信じてほしい。俺は君を信じる」

緑色の瞳はアリッサを見ず、遠くの景色を見つめていた。

「何か、あったのですか?」

彼の言葉の端々に決意のようなものが感じられる。

「あったともなかったとも言えない状況だ」

レイモンドはアリッサを流し目で見、声を出さずに小さく笑った。


   ◆◆◆


エミリーは生徒会室に向かい、ぶつぶつ言いながら歩いていた。

マシューが言っていたように、アイリーンが男子寮全体に魔法を放ったとして、彼女に心酔していない生徒が多くいるのは何故なのだろうか。少なくとも、毎朝女子寮まで迎えに来る攻略対象メンバーは魅了の魔法にかかっていない。

「発動する条件があるのか……うーん……」

魔力があれば魔法にかからないのとも違うようだ。アレックスは魔法を殆ど使えないが、今朝見た限りではジュリアにペンダントを渡して浮かれていたように思う。セドリック達もいつもと同じだった。

――可能性としては、彼女がいる男子には魔法がかからない、とか?

全員に魔法をかけたとすれば、一人ひとりには効果がかなり薄くなる。魔法の耐性がなければ微弱な魔法でも効く。ある程度は票を集める効果はあったようだが、果たして……。


ドン!

「……っ!」

誰かとぶつかり、エミリーは廊下に倒れた。

「ごめんなさ……え?」

目に涙を溜めて何も言わずに走り去ったのは、見覚えのある女子生徒だった。

――オレンジ色の髪、あの子は確か……。

アリッサの友達だ、と気づいた時には、彼女の姿は見えなくなっていた。


11月9日20:35

加筆しました。

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