表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
295/616

153 悪役令嬢は嫌な香りを確かめる

ハーリオン家四姉妹の夜の作戦会議にリオネルが加わるようになって二日目。

今日もリオネルは侍女の服装である。よく似合っているが、側近のルーファスには文句を言われているらしい。劇の演出家になったリオネルに、マリナ達は出演交渉に成功したと報告した。

「これできっと大丈夫だよね?劇に出るフローラちゃんは危なくないのかな?」

マリナの隣に座るアリッサが、ネグリジェの袖をつまんで姉を見上げた。

「主人公の母役でしょう?アイリーンとしては、役を奪ってもうまみがないと思うわよ。ラブシーンになりようがないし」

「主人公はアレックスなんだよ?絡むのはやめてくれって感じ。アイリーンに邪魔者扱いされて、アリッサみたいに階段から突き落とされるのはゴメンだよ」

「……同感。痛いのは嫌い」

ジュリアとエミリーが顔を見合わせる。

「皆で集まれば、一人でいるより危なくないよ。そのための作戦なんだから。王女役は当日誰かにやってもらう。台詞はアドリブだからね」

「皆身動きが取れなくなるってことはないわよね」

「生徒会も忙しいからなあ。エミリーは役が決まってるし、ま、マリナとアリッサが動けなかったら私しかいないもん。やるよ」


   ◆◆◆


リオネルが帰った後、マリナは妹達を自分のベッドに呼び寄せた。

「あのね、今日……お兄様に交渉しに行ったの」

「へー」

「どうでもよさそうね、ジュリア」

「いやー、よく行ったなーと思って。どっかのご令嬢を押しつけて厄介払いしようとしたくせに」

「……遠慮ないわね。否定はしないけど」

「ハリー兄様かなり病んでたんじゃない?愛しいマリナに裏切られてさ」

ジュリアがにやりと笑い、マリナはジロリとジュリアを睨んだ。

「交渉がうまくいったってことはさ、仲直りしたんだ?」

「……ええ。多分ね。練習に付き合うことになったわ」

「お兄様とマンツーマンで練習するの?いろんな意味で危ないよ、マリナちゃん……」

「セドリック様も一緒よ。……余計に不安はあるけれどね」

アスタシフォン語勉強会の二の舞ではないかと、妹達は姉を不憫に思った。


「今日の別れ際に、お兄様が気になることを言っていたわ。うちの没落に関わるかもしれないの」

「没落……」

これまで父侯爵は政治に関与せず、極力表舞台に出ることを避けてきている。港町ビルクールなどの領地経営もうまくいっている。

「お父様が怪しい儲け話に手を出したとか?」

「違うわ。……お兄様に詐欺の片棒を担がせようとする輩が現れたのですって」

マリナは妹三人を交互に見た。

「お兄様が詐欺罪で捕まれば、お父様も責任を問われるわ。お父様の罪にされかねないわね」

「じゃあ、マリナは王太子妃なんかなれないじゃん。下手すりゃ一家そろって流罪かな」

「……死罪だったりして」

「歴史上でも罪人の娘が王妃になった例はないと思うよ。後から罪を犯して裁かれちゃったのはあるけど……」


「お兄様は言ったわ。マクシミリアン・ベイルズに気をつけろと」

「誰だっけ?」

「……生徒会の二年の地味な奴」

「ああー」

ジュリアはぽんと手を打った。アリッサは渋い顔をして黙り込んだ。

「……マリナちゃん、あのね……マックス先輩のことだけど」

「どうしたの?」

「私、ずっと脅されて……いつも先輩が言うの。レイ様は私のことを好きじゃないって、諦めて俺のところに来いって」

こらえきれずにアメジストの瞳が潤む。ジュリアとエミリーが瞠目する。

「マジで?」

「……優しそうに見えたが、精神的に追い詰めるつもりか」

こくん、とアリッサは頷いた。

「最初は優しい先輩だったの。でもね、私がレイ様のことを話すと不機嫌になって」

「アリッサ、変なのに好かれたねえ」

「……モテ期到来?」

「そんなの要らないもん!」

絶叫が室内に響く。エミリーが魔法で黙らせ、アリッサはぱくぱくと口を動かした。

「ハーリオン家を陥れようとしているのか、別の狙いがあるのか、まだ分からないわ。生徒会活動でも極力彼とは一対一で接触しないようにしましょう。ジュリアとエミリーも気をつけてね」

「はーい」

「……」

二人は揃って手を挙げた。マリナがまだ困惑しているアリッサの頭を撫でるとようやく笑顔が戻った。


   ◆◆◆


その夜遅く、姉達が寝静まった時間に、エミリーは窓の外に濃密な魔法の気配を感じて跳ね起きた。酷く不快な香りがする。

「外……あっちだわ」

寝室を出て廊下に立つと、廊下の端まで歩いていく。突き当りにある窓のカーテンを捲り外を窺う。今夜は明るい月夜だ。不審な影も視界に捉えられる。魔法の波動は女子寮のから少しだけ離れた隣に建つ男子寮から感じる。魔法事故並みの強い力だ。

――誰?

月明かりに照らされた低木の傍に、黒いローブを着た影が見えた。丈の長さはエミリーのものと変わらない。フードを頭に被っていても、身長から女性ではないかと推測できた。男子寮の方を向いたまま微動だにしない。何をしているかは、魔法の波動で『嫌な感じ』だとは分かるが、詳細は見ただけでは分からない。

――嫌な予感がする……。皆無事だといいけど。

カーテンを閉めて踵を返し、エミリーは自室へ戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ