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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 6 演劇イベントを粉砕せよ!
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149 悪役令嬢は組織票に悩まされる

マリナが先に教室へ行ってしまったため、アリッサはレイモンドに付き添われて教室の前まで歩いてきた。後はドアを開けて入るだけだ。流石のアリッサでも迷わない。

「ありがとうございました、レイ様」

「礼を言われるようなことはしていない。俺も君と時間を共有できて楽しかった」

鉄面皮のレイモンドが優しく微笑み、アリッサの手を取り甲に口づける。

「ではな。また昼に」

踵を返して上階へと向かう彼の背中をアリッサはときめきながら見送った。

廊下を歩く生徒達が遠巻きに二人の様子を見て囁き合っている。普段は階段の前で別れるのだが、キスはせずに手を振る程度だ。

――レイ様、少しやりすぎよね。


教室のドアに手をかける。

「アリッサ様ぁー!」

令嬢らしからぬ足音がし、オレンジ色の髪の少女が走ってくる。

「フローラちゃん……おはようございます」

「おはようございます、アリッサ様。今日もレイモンド様と仲がよろしくて羨ましいですわ。わたくしにも誰か素敵な殿方が現れないかしら。学院祭実行委員になれば、上級生とも知り合いになれますでしょう?それを狙っておりましたのに、蓋を開けて見たらまあ、何と申しましょうか、非常に残念な結果でしたわ。うちは伯爵家ですから、同じ伯爵家か、できれば公爵家や侯爵家にご縁があれば嬉しいのですけれど、やはり素敵な方は皆お相手がいらっしゃいますものね。わたくしに破格の持参金でもあれば、没落しかかった上位貴族の隠れた美男子を……」

「フローラちゃん、あの……」

「あら、まあ。つい話しすぎてしまいましたわ。お話ししたかったのはわたくしの良縁獲得大作戦ではなくて、学院祭の『みすこん』のことですの」

「準備で何かあったの?」

「昨日の会議の後すぐに、食堂の前に投票箱が設けられましたでしょう?昨日わたくしが置いたばかりですのに、今朝見てきましたら、もう大量の投票用紙が入っておりましたわよ。皆さんご興味がおありですのねえ」

「そんなに?」

「ええ。男子と女子とそれぞれ、ざっと五十枚以上でしょうね。箱を開けて数えておりませんけれど」

「箱は明後日開けるんだよね」

「一人一枚しか投票できないように魔法がかかっておりますもの、不正はないと思いますわ。わたくしもアリッサ様に投票しましたから、頑張ってくださいませね」

「ええっ!?」

「ぜひ一位になって、ファーストダンスを踊ってくださいね」

――そうだった!ダンス!私、踊るの苦手なのに……。

絶対一位になんかなるまいとアリッサは心に決めた。仮に事前投票で五位以内に入っても、適当なところで失格になるようにしようと。


   ◆◆◆


昼休み。

「お願い、マリナちゃん!一緒に食堂に行こう?」

「……行かない」

「そう言わないでよぉ」

アリッサは渋るマリナを説得し続けていた。自分一人ではおそらく食堂までたどり着けない。

「もう一か月以上行っているんだから、道順は覚えたでしょう?階段は上っちゃだめよ。後は誰かの後ろをついていけば、皆食堂にいくでしょうよ」

「そんなあ……」

優しい姉にぞんざいな扱いを受け、アリッサの瞳に涙が滲む。

「迎えに来てくれるように、レイモンドに言えばよかったのに」

「だって……レイ様、お忙しいもの」

「レイモンドはアリッサを優先すると思うわよ。……困ったわ。クラスの皆はもう出て行ってしまったし……」

開いたままのドアを振り返ると、マリナの視界に金の髪が飛び込んできた。

「あ……王太子様だわ。レイ様も一緒よ」

泣きそうになっていたのを忘れたかのように、アリッサの声が弾む。パタパタとドアに駆け寄り、花が咲いたような笑顔を愛しい婚約者に向けた。


コツコツと人が少ない教室に足音が響き、セドリックはマリナの机の前に立った。

「なかなか来ないから迎えに来たよ」

いつも通りの彼だ。キラキラした王子オーラも健在だ。

「……行きたくありませんわ」

セドリックは屈みこんで、マリナと視線を合わせた。

「何故かな。僕はマリナと一緒に昼食を取りたいと思っているよ。今日だけではなく、明日も明後日も、歳を取ってもね」

「セドリック様……」

青い瞳が細められる。

「劇の脚本はエミリーから見せてもらったよ。配役の件は、スタンリーにきちんと『お願い』してきたから」

「お願い?」

「僕の相手役をマリナ以外の誰かにしようものなら、王都中央劇場を潰して美術館にするってね」

――それって、脅しよね?

マリナの知る限り、セドリックは腹黒いキャラクターではなかったはずだ。何かの聞き間違いだろうか。

「安心して、ね?」

「う……は、はい」

にっこりと微笑んだ天使のような彼が何を考えているのか分からず、マリナは少しだけ怖くなった。

「あ、それからね、『みすこん』の投票のことだけど」

「昨日から投票箱を置いたのでしたね」

「二年の教室を回って、僕とマリナに投票を呼び掛けておいたよ」

セドリックは再び満面の笑みだ。

「……は?」

王太子に投票を呼びかけられて、応じない貴族がいるだろうか。

「セドリック様、『みすこん』は生徒会役員選挙とは違いますのよ?」

「そうなの?知らなかった……」


二人のやり取りを見ていたアリッサが、今朝フローラから聞いた話をレイモンドに伝える。

「ほう。道理で票が入っていたわけだ」

「王太子殿下はそこまでしてマリナちゃんとファーストダンスを踊りたいんですね」

「アリッサ、君は踊らないのか」

「ファーストダンスなんてあり得ません。私は、人の群れの中で目立たないように踊りたいんです。……ダンスは、あまり……」

口ごもるとレイモンドはクックッと笑い、

「では、今度足を踏んだら、何か罰を与えることにしよう。何がいいか考えておく」

とアリッサのこめかみに軽く口づけた。


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