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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 5 異国の王子は敵?味方?
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139 公爵令息はヒロインに辟易する

【レイモンド視点】


「うふふ、レイモンド様と一緒に打ち合わせに行けて、アイリーンは幸せですぅ♪」

またか。

口元に軽く握った拳を当て、上目づかいでこちらを見るのはやめてくれ。

先程から悪寒がして仕方がない。昨晩も遅くまで、自室で生徒会の仕事をしていたせいだろうか。


学院祭の準備を皆に割り当てるにあたり、この危険な女をどうするか、誰と組ませるのが最も被害が少ないか、俺は一晩頭を悩ませた。

ハーリオン家の姉妹と一緒に行動させれば、必ず彼女達に被害が及ぶ。アレックスは一度魔法で操られているし、セドリックは精神的に脆い部分がある。二人ともつけこまれる可能性が否定できない。マクシミリアンは有能だが、アリッサを見る視線が気になる。あいつは油断できない。生徒会役員の中では、キースが比較的無難だったが、彼はリオネル王子が務めるはずだった広報宣伝を任されている。魔法の研究に没頭して社交を疎かにしてきた彼には、貴族連中との交渉は荷が重い。余計な負担を増やしたくはない。


「レイモンド様が来てくださらないと、私、うまくお話がまとめられなくて」

腕に縋りつこうとするアイリーンを振り払い、俺は蔑みの目で見る。話がまとめられないのはお前が無能なせいではないのか?余程言ってやりたいが、口を開けば会話が成立してしまう。それこそアイリーンの思うつぼだ。

勘違い女は無視するに限る。


アイリーンに任せたのは所謂雑用だ。生徒会室から職員室へ書類を届けさせたり、校内のいくつかの教室を拠点に準備を進めている実行委員へ連絡事項を伝えるだけだ。時間潰しに与えた任務は簡単なもので、俺が出なくてはいけない案件ではない。

俺を連れ出すための口実なのか、それとも、本当に仕事ができない馬鹿なのか。

どちらにしても、二人で行動を共にする時間を増やす気はない。


「失礼します」

「ああ、レイモンド君か。待っていたよ」

学院長はちらりと俺の斜め後ろに立っているアイリーンを見た。

「魔法披露にあたって、講堂の使用許可が出せないとか」

単刀直入に訊ねる。教室の使用許可を出すのは最終的には学院長の権限だが、担当の職員を間に置かず、直接生徒会側と交渉しようというのか。過去にも講堂で魔術を披露している。何も問題はないはずだ。

「おや?私は許可を出せないと言った覚えはないよ」

何だって?

嘘だったのか?

横に進み出てきたアイリーンを睨めば、嬉しそうに媚びた微笑を返された。

「そうでしたか。実行委員が聞き違えたようですね」

「私は彼女から、君が話をしたがっていると聞いたのだよ。講堂の使用許可ではなく、もっと複雑な話なのだろうと思っていたが、違うのかね?」


   ◆◆◆


職員室から戻る俺は、アイリーンを振り返りもしなかった。

生徒会室からまんまと俺を連れ出し、職員室に行く前に他の生徒達のところへ立ち寄らせた上、学院長を待たせてくだらない話をさせたのだ。

「レ、レイモンド様!待ってくださぁい!」

知るか。待てと言われて待つ奴がどこにいる。

「私、次はちゃんとできますからぁ!」

どうせ初めからやる気がなかったに違いない。俺を連れ回して校内をぐるぐる歩かせただけではない。アリッサを生徒会室に一人にしてしまったのだ。

「そんなに冷たくされたら、私、私っ……」

嗚咽が聞こえるが、廊下の角を曲がる時に見た限りでは、涙は一滴も出ていないようだった。すれ違う生徒達が変な顔をして彼女を見ている。俺には構ってやる暇はないのだ。アリッサが待つ生徒会室に、一刻も早く戻らなければ。


姉のマリナはセドリックと共に王宮へ行っている。学院祭には国内の主だった貴族が招かれるため、招待客リストを作っておく必要がある。加えて今回は、アスタシフォンのリオネル王子が在籍していて、かの国からも貴族が学院を訪問するという。セドリックは国賓の接待には慣れているし、マリナは今後慣れていく必要がある。学院は王都の外れにある。しばらく戻って来ないだろう。

キースやフローラあたりが、アリッサと一緒にいるといいが。


   ◆◆◆


俺が到着した時、生徒会室のドアは半分開いていた。

中にいたマクシミリアンが、倒れた椅子を直し、床に散らばった書類を拾っているところだった。俺の足音に気づき、顔を上げて目を細めた。

「副会長、お早いお戻りでしたね」

アイリーンに呼び出された俺の用事が、時間を要するものだと知っている?あの女と繋がっているのだろうか。そう言えば、歓迎会の手伝いと称してアイリーンが生徒会に出入りしていた時、参加を認めたのはこいつではなかったか。

俺が訝しんでいるのに気づいたマクシミリアンは、感情が読み取れない微笑を浮かべた。

「どうされました?」

「アリッサはいないのか」

「ええ。先ほど、副会長を探しに出て行かれましたよ?」

「俺を、探しに?校内で迷うアリッサを一人で行かせたのか」

「アリッサさんが、お望みでしたので」

抑揚のない声が響く。

「……何をした?アリッサに何かしたのか?」

「特には。……あなたがアイリーンと嬉しそうに校内を回っていたと、お伝えしただけですよ」

涼しい顔で言ってのけるマクシミリアンに掴みかかろうとした時、廊下の向こうから悲鳴が聞こえてきたのだった。



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