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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 5 異国の王子は敵?味方?
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128 悪役令嬢の新たな提案

「展示を、やめる?」

セドリックは机に頬杖をついて、青い瞳をぱちくりさせた。この三年でかなり男らしくなっているが、育ちが良いせいか、ふとした仕草は可愛らしい。

「はい。貴族階級の見栄や権力を前面に押し出した展示はしてはいけないと思うんです。高価なものを展示すれば民衆の反感を買います。生徒が作ったものでも、売れば庶民が何か月も何年も暮らせるお金が手に入る……私達には当たり前に思ってきた世界とは違います」

「代案はあるのか。否定するだけなら誰でもできるぞ」

「はい、レイ様。……私は、皆が楽しめる学院祭にしたらいいと思います」

「どういうものなら楽しめそうなの?」

マリナは前世の学園祭を思い浮かべた。

「来る人皆が参加できるものに。劇や音楽の発表も、絵の展示も、剣の試合や魔法ショーもそのままでいいですから、ひと手間加えませんか」


アリッサの提案では、昨年までの準備に加えてさらに工夫が必要だった。生徒有志による演劇は、観客の投票で結末が変わるものにする。音楽は観客に受け入れられるように庶民の流行歌を編曲して演奏する。油絵は取り掛かっているものが多いが、町の風景などの分かりやすい題材を水彩画で描き、人物画が得意な生徒には当日デッサンをしてもらう。剣技科の生徒が見せる試合は、服装や武器を変わったものにしてどちらが勝つか観客に考えさせる。魔法ショーは、今まで通りの華々しく魅せるだけではなく、魔法石があれば庶民でも使える実用的なものも紹介する。いずれも倍の作業をこなさなければならない。


「大変だわ。アスタシフォンの歓迎会もあって、準備期間がただでさえ短いのよ。できるかしら」

「マリナちゃん……」

アリッサの瞳が曇る。唇を引き結び、泣きそうになって耐えている。

「アリッサの提案に意見のある者はいるか。俺としては、最大限実現したいと思うが」

「うん。僕もいいと思う」

「僕もアリッサさんの意見に賛同します。……マックス先輩?」

「……いい、と思いますよ」

「では、今の内容で進める。俺が明日までに作業内容を確認しておく」

レイモンドが胸を張った。

瞬きもせずにアリッサを見つめていたマクシミリアンは、キースに声をかけられてゆっくりと呟く。

「……偽善的で、実に彼女らしい……」

低く呻くように言ったのを、誰一人として聞いていなかった。


   ◆◆◆


男子寮の一室、ハーリオン侯爵家のハロルドの部屋では、おびただしい数の姿絵と釣書きを前に、ハロルドが固まっていた。

「どういう意味ですか、これは?」

「旦那様と奥様が選ばれたご令嬢です。いずれも爵位を継承する男子のいらっしゃらないお家のご令嬢でして、才ある方を婿養子にお望みです」

ハーリオン家執事のジョンが、数枚広げて見せる。

「義父上と義母上は、私にこの中の誰かと結婚しろと仰った……のですか?」

「具体的には仰いませんでしたが、おそらくご推察の通りかと」

ジョンはにっこりと微笑んだ。


「先日の手紙とは……違うお話ですね。領地管理人以外の道があるようにお聞きしましたが?」

娘婿になれる可能性に光明を見出していたハロルドだったが、打ちのめされて言葉少なに訊ねた。

「旦那様も奥様も、ハロルド様に無理強いするおつもりはないようです。ゆくゆくはビルクール海運の事業をハロルド様にお任せしようと、準備を進められていたほどですから。お嬢様からお手紙が届いて、お考えを改められたようでして……」

「お嬢様……」

「ハロルド様が一介の領地管理人で終わるのは気の毒だから、外交官になる道を模索できないかと。グランディア王国の外交官になるには、貴族の身分が必要ですから、爵位を継ぐ男のお子様がいらっしゃらない家に婿入りし……」

「誰が」

「は?」

老執事は驚いて眼鏡を上げた。

「私は外交官になるつもりも、貴族令嬢の婿になるつもりもありません。望んでもいない未来を押しつけられても迷惑なだけです。……分家とは名ばかりの平民のような私を、ハーリオン家本家の力で貴族令嬢に婿入りさせてやるから、娘のことは諦めろと、はっきり命じればよろしいのですよ」

青緑色の瞳が愁いを帯びていく。

「旦那様も奥様も、お嬢様はハロルド様にお心を寄せられているとばかり思っていらっしゃいました。ですが……」

「マリナは王太子を選んだ……と」

「はい。お手紙にはそのように書かれておりました」

「私を厄介払いしたくなったのですね。……言いつけに背き、リオネル王子と接触させてしまいましたから」

ハロルドは悲しげに笑った。

「役立たずは、侯爵家には要らないのですよ。王太子妃に横恋慕する男など、この先、妃の実家にとって害にしかなりません。義父上は賢明なご判断をなされました」

「ハロルド様……」

瞳を閉じて、軽く左右に頭を振った。淡い金色の髪がさらさらと揺れた。

「ご心配なく。……マリナには近づきませんから」

ジョンの耳には、微かに震えているように聞こえた。俯き加減で表情を窺うことができない。

部屋にいる使用人達を振り返ることなく、ハロルドは寝室に入り鍵をかけた。


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