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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 5 異国の王子は敵?味方?
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124 ルーファスの回想 1

リオネルの側近、ルーファス視点の話になります。

【ルーファス視点】


「リオネル殿下はもう帰ったよ」

「ジュリアとどっか行ったな」

放課後に剣技科一年の教室へ行った。俺には主君であるリオネル王子を無事に寮まで送り届ける義務がある。

「どこへ行った?」

リオネルのクラスメイトは、ぼんやりした奴が多いな。剣士が務まるのだろうかと思う。

「なあ、お前知らね?」

「さあなー。レナードに聞いたら分かるんじゃないか」

「レナードとかいう奴はどこへ?」

「アレックスと練習場だな、多分」

多分、だと?

不確実な情報ばかりだな。こんな大雑把でのんびりしたところなのか、グランディアは。

まあ、ノアが学院内を探り、リオネルが王宮に潜入できるくらい警備が緩いからそんなものなのだろう。侵略しても大した収穫にならない小国で、我が王も興味はないようだからな。勝手に他国に滅ぼされようがどうでもいい。忠告してやる義理はない。


形ばかりの礼を言い、レナードとアレックスというクラスメイトがいるであろう、剣技科の練習場に向かった。

しかし、剣技科は物音がうるさいな。剣のぶつかり合う金属音が耳につく。斬りかかる時の気合の入った声も鬱陶しい。俺は汗と涙の熱血物語は大嫌いだ。

練習場の中はさらに最悪だった。魔力を逃がす構造の魔法科練習場とは異なり、砂地の闘技場が濡れないように屋根がある。そのせいで熱気が籠り、男達の汗の臭いが立ち込めている。吐きそうだ。

何とか意識を集中させて、辺りにいる生徒に訊ねると、レナードとアレックスは今まさに試合中だとのことだった。終わるまで無駄な時間を過ごすしかあるまい。観客席に座って闘技場の砂地に目を向ければ、赤い髪と茶色の髪の二人が剣を交えている。勝敗などどうでもいい、さっさと終わってくれ。俺はリオネルの行き先を知りたいのだ。


  ◆◆◆


リオネル・ハガーディ・アスタス。

多数の属州を従える広大な領土を持つアスタシフォン王国の第四王子――ということになっている俺の幼馴染が、剣に興味を持ったのは人里離れた古城に母君と二人で暮らしていた頃だと記憶している。


王子リオネル――レオノーラは、王が気まぐれで王妃の姪にあたる令嬢を戯れに手折って、一夜の過ちでできた子供だ。王妃は有力貴族である侯爵の末妹だから、レオノーラの母君は侯爵令嬢だった。しかし、侯爵家は醜聞をひた隠しにし、レオノーラが生まれても国王陛下に知らせることなく、人目につかない山奥の領地に住まわせていた。


転機が訪れたのは、王妃の死だった。

元々身体が丈夫ではなかった王妃は、王太子を産んでからは床につくことが多かったが、権力欲の強い侯爵は、妹に二人目の王子を産むよう迫った。妾にうつつをぬかし、王妃を顧みることがなかった王も、美しい王妃に求められれば喜んで応じたのだろう。ほどなく王妃は二人目の子を懐妊した。

六人いた妾全員が王妃の敵であった。うち二人には男子が生まれ、王太子が亡くなればわが子に王位が転がり込むと思ったのか、王妃や侯爵家の目が届かないところで王太子に嫌がらせをするようになった。自分で突き落としておきながら、王太子がふざけて池に入ったのを止めたと、妾達の息のかかった使用人がしれっとした顔で言うのを何度も見た。オーレリアン殿下は十二歳。いくら何でもふざけて冬の池に入る年齢ではない。階段から転がり落ちる頻度も相当なものだ。懐妊中の王妃は心労で寝込んでしまった。王太子が明らかな嫌がらせを受けているのに、王は何もしない。王太子の側近になった兄について王宮に出入りしていた俺は、父伯爵の目を盗み、王に直談判することにした。


王の私室に行き、王妃と王太子を守って欲しいと言うつもりだった。部屋に入れてもらえなければ廊下で待てばいいし、中に入っても子供のしたことだと多少は大目に見てもらえるのではないか。王もたくさんの子を持つ親だ。子供には甘い面もあるだろうと。

ノックをして中に入ると、王の隣には新しい妾がいた。第二王子を産んだ妾の妹が王宮に出入りしていると聞いたが、王と親密になっているとは。

これしきのことで怯んではいけない。

俺は勇気を奮い立たせ、王太子を守ってくれと訴えた。

頭を下げた俺に、王は笑って

「見上げた忠誠心だな」

とたった一言褒めただけだった。


王から父へ伝えられたのは、俺のミドルネームを変えるようにという指示だった。

王妃の実家である侯爵家から、幽閉同然になっている令嬢が子を産んでおり、王の実子として認めてほしいと申し出があったらしい。父は、王妃と面影が似ている侯爵令嬢が、王の遊び相手にされたと知っていた。令嬢の子が俺の一歳下で、実子と認められれば第四王子になると言った。王はその子のミドルネームを俺につけると決めた。アスタシフォンの風習では、王族と同じミドルネームを持つ者は、その王族を主君として一生仕える。そして、自分より先に王族が死んだ場合、殉死する決まりになっていた。

――見上げた忠誠心だな。

王の一言が蘇った。王は俺に、第四王子に仕えろと言うのだ。王太子と同じように、妾達から嫌がらせを受けるであろう子供と運命を共にしろと俺に命じたのだ。


王から名前を賜り、父に連れられて古城へ行った俺は、そこで初めてレオノーラと出会った。質素な灰色のワンピースを着ていたが、腰まで伸びた明るい茶色の髪が陽光に煌めき、大きな緑色の瞳は美しく、興味津々で俺を見ていた。

「あなた、誰?」

一歳年下と聞いていたが、想像より小柄だった。俺を見上げる瞳がくるくると良く動く。

「ルーファス。……ルーファス・ハガーディ・エルノー。エルノー伯爵の次男で……」

言いかけた俺に、レオノーラは飛びついてきた。

「ハガーディ!あなたが私の相棒なのね!」

「相棒?」

「おじいちゃまがそう言ってたわ。私と同じ名前を持った子が来たら、私の相棒、一生一緒にいられるお友達なんだって!」

俺は相棒なんかじゃない!一生お前に従わされる下僕なんだ。

最期は命まで持って行かれるんだぞ!


……と言おうとしたが、レオノーラの眩い笑顔に何も言えなくなってしまった。

「あなたが来てくれてよかったわ、ルーファス。ここはお母様とばあやとモーリスしかいないんだもの」

寂しかったの、と呟き俺の袖を引いた少女を怒鳴ることなどできなかった。

ただ、何となく胸が高鳴り、これが運命の力なのだと感じたのだ。

直後にレオノーラが木刀で俺の頭を叩き、

「やーい、引っかかった!悔しかったら捕まえてみな!」

と走り去るまでは。


2018.1.27 国名誤記修正。

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