122 悪役令嬢は新たな攻略対象者を知る
ゴクリ。
自習室に唾を飲みこむ音がする。
窓の外、リオネルの後方に広がる風景はオレンジ色に色づき、日暮れが近いと感じさせる。
「やだなあ、皆、知らなかったの?」
「存じませんわ。……と言いますか、リオネル様は『とわばら』をご存知なのですね」
リオネルは丸い瞳をキラキラさせて頷いた。
「正確には、『とわばら2』をね。『1』はプレイしたことないもん」
「殿下は、前世で女の子だったのね」
「うん。病院のベッドの上で、携帯ゲーム機で『とわばら2』をプレイしたんだ。残念なことに全部はクリアできなかった……」
病院と聞いてリオネルの前世の終焉を思い浮かべ、四人は押し黙るしかなかった。
しばらく、リオネルのプレイ履歴の話になった。
「『とわばら』と『2』のダブルパックを買ってもらってさ。キャストで選んで『2』からプレイしたんだけど、『2』は『1』に攻略対象をプラスして作られただけあって、イベントも多いみたい」
「では、単刀直入にお聞きしますわ。増えた攻略対象と、隠しキャラを教えてくださいませ。悪役のハーリオン侯爵令嬢がどうなるのかも」
マリナのアメジストの瞳が血眼になっている。
「『1』がよく分かんないから、不完全な情報だと思うよ。いいの?」
「何でもいいです!お願いします!」
アリッサが頭を下げ、机に額をぶつけた。
「『1』の攻略対象は四人だったよね。セドリック王太子、レイモンド、アレックス、マシュー先生。僕が調べた限りだと、皆君達の恋人らしいね」
「恋人なんて……照れますぅ」
もじもじしているアリッサを、エミリーの肘鉄が襲う。
「『2』には四人のキャラクターが加わった。どうやら、『1』で関係があったキャラもいたみたい。調べてないからわかんないな。一人目、キース・エンウィは、ヒロインが魔法科を選択した時だけ出てくる」
「やっぱり、キースか」
容姿に実力、身分や家柄が揃った彼が、攻略対象ではないはずがない。
「つまり、キースは隠しキャラじゃないってことね」
「その通り。二人目はうちのクラスのレナード・ネオブリー。キャラが好みじゃなくて、僕はクリアしてない。メリーバッドエンドらしいよ」
「嘘!」
ジュリアが叫んだ。マリナがふむふむと頷く。
「ヒロインでメリーバッドエンドなら、悪役の私達がどんな目に遭うか、想像に難くないわね」
「……ジュリア、もうフラグ回収してるんじゃない?」
にやりと笑ったエミリーは、完全に死んだ魚の目だった。
「攻略対象は『1』の四人より病んでるって評判だったよ?レナードが病んでるところなんて思い浮かばないよね。三人目は、グレゴリー・エンフィールド。学院の行事で接点がある図書館長らしいね。まだ会ってないな」
「晩餐会の予行に出ていたわ」
「へえ。見てないや。役割は年上キャラの補充ってところだろうね。身分も侯爵だし」
「いたいけな私を殺そうとした男よ。何がいいのか分からないわ」
マリナの呟きに、リオネルが絶句する。
「……それ、本当?で、どうしたの?」
「どうって……こうして生きているんですもの、反撃したに決まっているわ」
「まずいよ、マリナ。グレゴリーの出会いイベントだよ、それ。反撃されると燃えるって」
「……『ヒロイン』は、でしょ?私達は『悪役令嬢』なのよ。そもそも……」
「とにかく、あいつはダメ。危険だから近づかないほうがいいよ。エンディングがグロいって評判だよ」
机をバン!と叩いて立ち上がり、リオネルは熱く語る。
「顔に騙されてはいけないよ。……それと、四人目」
「四人目は、僕の兄上だ。アスタシフォン王国王太子、オーレリアン・ヒューリー・アスタス。本来は今回の交流に来るのは兄上だったんだ。ただし、兄上が物語に出てくるのは二周目以降。一周目で『1』の攻略対象から、愛の証のアクセサリーを集めないといけないから。アクセサリーは知ってるよね」
「ええ。セドリック様はサファイアの髪飾り、レイモンドはエメラルドのイヤリング、アレックスはルビーのペンダントだったかしら?」
「……もらってないし」
「拗ねないで、ジュリアちゃん」
「……マシューは腕輪」
「マリナは持ってたね。アリッサは?」
「……レイ様にもらったのに、もらったのに……ぐすっ」
滝のように涙が溢れる。
「どうも失くしたらしいんだよね」
「失くしてないもん!宝石箱にしまってあったのに……」
「管理は厳重にね。ヒロインに取られたら大変だよ?」
「先ほどから思っておりましたが……リオネル様は何故、私達にいろいろと教えてくださるのですか?悪役令嬢よりヒロインを応援するものではございませんの?」
えー、と声を上げ、リオネルは眉間に皺を寄せて、嫌そうな顔をした。
「あのブリッコ、虫唾が走るんだもん。兄上と僕は半分しか血がつながっていないけど、それなりに似ているらしくて、早速アタックしてきたんだよ」
「うわ」
「積極的……」
「でもさ、僕、男の格好してても女だからさ」
「えっ!?」
ジュリア以外の三人が声を上げた。
「言わなかったっけ?……ま、ブリッコにベタベタされても全然うれしくないんだよ。僕にはルーファスとノアという、目の保養になる取り巻きがいるし、ハーリオン四姉妹のほうがずっと美人じゃないか」
「いやあ、それほどでも」
ジュリアが照れて頭を掻いた。
「ハーリオン侯爵令嬢に悪役令嬢のレッテルを貼らないで、自分の目で見て判断しようと思ったんだ。一番最初に会ったマリナは好感のもてる令嬢で、セドリックはベタ惚れだったし、僕がジュリアに絡んだ時、アレックスの嫉妬がすごかったよ。歓迎会でアリッサが出ていって、レイモンドが必死の形相で追いかけて行ったよね。これは彼らを本気にさせてると感じた。皆だって、簡単にヒロインにくれてやる気はないでしょ?僕はいつでも、愛し合う恋人たちの味方でいたいのさ」
目を細めたリオネルは、机に肘をついてくすくすと笑った。
日曜日の仕事の都合で明日は投稿できないかもしれません。
なるべく書けるように頑張ります。




