121 悪役令嬢と黒いローブの背後霊
「エミリーいる?」
昼休みに入るや否や、魔法科一年の教室に銀髪ポニーテールの少女が現れた。
「エミリーさん!起きてください!」
「何?また寝てんの?」
ドアのところで出ていく生徒にぶつかりそうになりながら、ジュリアは机にうつ伏せで寝ている妹の前へ、ブーツの音も高らかに歩いて行った。
「……うるさい」
「起きな。昼だから学食行こう」
「……面倒」
「今朝話した、リオネル王子のことで、皆に相談があるの」
「私は行かない」
「いーいーかーら!……ね!」
後ろから椅子を思いっきり引くと、落ちたエミリーが尻餅をついた。
「……痛い」
「ぼやっとしてないで、行くよ!席はマリナが取っててくれるから!」
後ろで手を振るキースに礼を言い、ジュリアは半分寝ている妹を引きずるようにして食堂へ向かった。
◆◆◆
「ジュリアちゃん、エミリーちゃんはどうしたの?」
足を下ろしたまま背負われているエミリーは、黒いローブも手伝ってジュリアの背後霊のようだった。
「眠いって」
「また魔法実技で頑張りすぎたんでしょう」
仕方ないわね、という顔でマリナがジュリアを手伝い、寝ぼけたエミリーを椅子に座らせた。
食事が運ばれ、早速パンを頬張ったジュリアが話を切り出した。
「今日の放課後、いいよね?自習室に集合だよ」
「リオネル王子……私、正直言って苦手だわ」
マリナが眉を顰めた。アリッサも泣きそうな顔だった。
「ちょっと怖い人みたい」
「だーいじょーぶだって。危険はないから。私が保証するよ」
「……当てにならない」
寝そうだったエミリーがムクリと起きて呟く。
「エミリーちゃん、何か食べた方がいいよ?魔力を消耗してるなら、なおさらね」
「……食欲ない」
「体調が悪いなら、無理をしないで寮に……」
「そうだよ?この頃寒くなってきて、風邪でも引いた?寝る時ちゃんと毛布かけてる?」
「ジュリアちゃんはかけてないもんね」
「蹴とばして、朝には床に落ちているわよね。私、何度かけたことか」
「……風邪じゃなくて、魔力にあてられたの」
ぼそりと呟いたエミリーの顔が赤い。姉三人だけが分かる表情の変化だった。
「赤くなってる。『彼氏』となんかあった?」
ジュリアがにやにやして肘で突いた。
「魔王の魔力は強いもの。あてられることもあるわよ」
「そうだよ。エミリーちゃんが弱いんじゃないよ」
左右に首を振り、末妹は徐に口を開いた。
「……口から注入されて、ビリッときて、倒れそうになった」
「……」
「……」
「……ぶっ」
ジュリアが口からスープを吹き出し、給仕がナプキンと布巾を持ってくるまで、マリナとアリッサは目を見合わせて頬を染めていたのだった。
◆◆◆
デザートの後、近くに座った生徒達が学院祭の話をしているのを聞き、ジュリアははっと思い出した。
「学院祭の実行委員、うちのクラスはリオネル殿下とレナードだから」
「えー?ジュリアちゃんは手伝ってくれないの?」
「始めは私とアレックスでどうかって言われたんだけど、殿下がどーぉしてもやりたいってゴネてさ。人脈がないと大変だろうって、皆がレナードを説得したの」
「レナードにはいい迷惑」
「だね。ま、一時期だけだから、諦めてもらったよ。皆のところは?」
ずずずうう……。
ジュースを飲み干してジュリアは左右を見る。
「私達のクラスはサディアスとトラヴィス、男子二人よ」
「ふーん。イケメン?」
「……ジュリアちゃん、そこ重要?」
「何となく聞いてみました」
「そうね。私達の前世に彼らがいたとしたら、二人ともバレー部かバスケット部あたりに入っていそうなタイプよ」
「おおー。今度見に行っていい?」
体育会系爽やかイケメンはジュリアの琴線に触れたらしい。
「アレックス君のほうがずっとカッコいいよ?」
イケメンの話で盛り上がる三人の横で、エミリーが憂鬱そうな顔で言った。
「……うちは、アイリーンと私になった」
◆◆◆
放課後になり、リオネルはジュリアにひっきりなしに話しかけていた。一番前の席のアレックスがこちらを見ている。
「ねえねえ、ジュリア。皆はどうだった?話を聞いてくれる感じかな」
「うん。部屋を案内するよ」
周囲の喧騒に紛れる小声で打ち合わせていると、
「俺も行ってもいいか」
とアレックスが近寄ってきた。
「君は遠慮してもらいたいな」
「そうだよアレックス。ガールズトークなんだから」
「がーる……?今日は練習場に行かないつもりか?」
「遅くなると思う。レナードと先に行っててよ」
自習室にリオネルを伴って入ると、既にマリナ・アリッサ・エミリーは集合しており、上座を空けて座っていた。
「どうぞ、リオネル殿下」
「リオネルでいいよって言ったのに。僕とマリナの仲なんだから」
仲良くなった覚えはないが、と言い返しそうになって、マリナは根性で口を閉じた。
リオネルの隣にジュリア、向かいに三人が座っている。
「私達にご用とは、どのような……」
渋々切り出したマリナに、リオネルは満面を笑みを浮かべて返す。
「皆はさ、ここが『とわばら2』の世界だって知ってるよね?」
――続編!?
四姉妹は表情を強張らせて、王子が続きを話すのを待った。




