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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 1 出会いは突然じゃなくて必然に?
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18 悪役令嬢と隠しキャラ予備軍

年が明け、ハーリオン侯爵夫人ソフィアは男の子を産んだ。

爵位は男でなければ継げないが、娘四人を産んだ時のことを思うと次の子を望むのは妻にとって酷だろうと、ハロルドを引き取るより前から養子を取ろうかと考えていた侯爵は、妻に養子の件を相談していた。ジュリアが侯爵の男色疑惑事件を起こし、ハロルドを大事にしている夫に、「少年が好きなのか」と侯爵夫人は逆上したが、出産で君に辛い思いをさせたくないから養子をとったと言われて夫の想いに気づき、互いに深い愛情を確認し合った。――確認中の様子は、ジュリアにもしっかり聞こえてしまったのだが。

その結果、嫡男に恵まれたのだった。


「お父様、イケメンが台無しだわ……」

マリナは心底残念そうに父を見た。

「デレデレしまくりよ。何あの呼び方」

姉妹の弟はクリストファーと名付けられた。姉妹と同じ、つまりは侯爵夫人と同じ銀の髪で、時々開く瞳は紫色だ。侯爵は息子を「クリチュ」と呼んでいる。父が弟にかかりきりで図書館に連れて行ってもらえず、面白くないアリッサは弟を目の敵にしていた。

「侯爵令嬢のプロフィールに、弟がいるなんてあった?」

「聞いたことないね。子供だから話に関係なかったのかな」

付き合いのある貴族からは、次々にお祝いの品が届けられた。父の幼馴染であるグランディア王国国王やオードファン宰相、ヴィルソード騎士団長からもである。宰相から贈られた百科事典を含む書籍一式に飛びついたのはアリッサだったし、皆が顔を顰めた騎士団長の贈り物・ダンベルを素晴らしいと言ったのはジュリアだった。王家からの品は王妃が選んだらしく、可愛らしいおくるみなどの実用的な品だった。

「私も抱っこしたいわ」

マリナがクリスを抱く。弟はほわんと温かく、紫色の瞳がこちらを見ている。ジュリアが柔らかそうな頬をつついてやろうと、クリスの顔に指を近づけると、小さな手がむにっと掴んだ。

「私の攻撃を防ぐとは、なかなかやるなあ。この子騎士に向いてるんじゃない?お父様」

「クリスは騎士にしないよ。魔法の勉強はしてもらうつもりだが」

「魔法……」

興味があるフレーズを耳にし、エミリーがクリスに近寄る。ぺしっ、と額を叩くと、ふえぇっと泣き始めた。

「何するの、エミリー!」

泣いているクリスをマリナから奪って抱き、その頬を撫でて落ち着かせる。瞳を覗き込み、目を眇めてエミリーは呟く。

「クリスは全属性か」

泣いて漏れた魔力の波動から、クリスの強い魔力が光・闇・火・水・地・風の六属性全てを含んでいると察知した。光属性以外を除く五属性の魔法の素質を持つエミリーには、主属性である闇と対を成す光属性を感じることができる。

母親似の美男子になるであろう弟に、人間離れした能力があるとなると、この子も例の隠し攻略キャラなのだろうか。エミリーは恐ろしくなった。


   ◆◆◆


四人が受けさせられている習い事の一つ、令嬢の嗜みでもあるダンスの練習の時間がやってきた。このところ、マリナはこの時間が苦痛で仕方がなかった。

「今日もグイグイくるねー」

カーテンに背中を預けて、ジュリアがにたにたしながら踊るマリナを見た。

「私達の時とはずいぶん違うものね。露骨すぎて何も言えないね」

アリッサが頷いた。

クリストファーが生まれてからというもの、侯爵の後継になる可能性があったハロルドは、自分の存在意義が揺らぎ始めたと思ったのか、以前にも増してしつこくマリナに接触してくる。貴族の兄妹なら、広大な屋敷の中で何日も顔を合わせないこともあるというのに。

「たかがダンスの練習で色気だだ漏れってどうなのよ」

「お兄様だってまだ十二歳なのにねえ」

家庭教師の指導でダンスをしている二人は、息の合ったきびきびとした動きで絶賛されている。

「何でもこなすマリナはともかく、兄様、脚大丈夫なの?」

「歩くだけでいっぱいいっぱいだって言ってたのにね」

ハロルドが侯爵家に来る前は、ダンスの覚えの早いジュリアが、主に男役をやって踊っていた。今も脚に無理をかけない約束で、義兄はダンスを習っている。

「この間も無理しすぎてたじゃん」

「マリナちゃんに心配されてたよね」

「あー、なんだ、それ狙いか。マリナはすぐ騙されるからね。自分の練習につきあって無理させたとか思っちゃうね」

今やハロルドはここぞとばかりにマリナに密着しているように見える。蕩けるような極上の微笑を浮かべてパートナーを見つめている。ジュリアとアリッサは見慣れているからいいが、初対面の令嬢なら一発で陥落しそうだ。

「マリナちゃん動揺してる……」

「さっきからステップがめちゃくちゃだな」

遂に足をもつれさせてよろけたマリナを、ハロルドがしっかりと抱きとめる。

「うわ……」

「お兄様嬉しそう」

こそこそと話していると、不意にダンスルームのドアが開いた。


「頑張っているわね、皆」

ゆったりとしたドレスを着た侯爵夫人が声をかけると、音楽が止んでマリナ達は足を止めた。ダンスは終わった。終わったはずだ。

――未だに手を放さない義兄を除いては。

「お母様、どうされましたの?」

わざと母に駆け寄り、ハロルドの手を振り切る。

「皆のダンスの出来栄えを見たくて。……近々王宮へ行くことになるかもしれないわよ」

「何だってぇ?」

ジュリアが真っ先に声を上げ、アリッサが口をぽかんと開けている。二人とも令嬢としては落第点だ。

「王妃様から再三のお召しがあってね。クリスもまだ小さいし、私の体調も思わしくなかったからお断りしていたのだけれど」

断りきれなかった、ということか。

「陛下も久しぶりに会いたいと仰せになっていると、お手紙をいただいて」

侯爵夫妻は国王夫妻と友人同士だ。会いに行くことも別に不思議はないが、国王陛下が母に会いたいと言っていると聞いて、姉妹は鳥肌が立った。

――ハーリオン侯爵家、破滅への布石だわ。


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