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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 5 異国の王子は敵?味方?
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118 悪役令嬢と王子の秘密

――胸、触られた……。

呆然自失のジュリアの肩を叩き、リオネルはふふっと微笑んだ。

「びっくりしちゃった?完璧に隠したと思っても、難しいよねえ。あんまりきつく巻くと苦しいもん」

――布を巻いてるって……男装してたのがバレたの!?

「ね、手、かして?」

リオネルはジュリアの手を握った。そのまま自分の制服の襟元から潜りこませる。

「リオネル殿下、何を……!」

アレックスが声を上げた時、ジュリアの顔色が変わった。

――え?え??……これって……。

「ね?大変だよね、身体の線を隠すのは」


   ◆◆◆


朝食までの短い時間で、リオネルはジュリアとアレックスに自分の秘密を打ち明けた。

「僕は一番上の兄上を助けたいんだ。健康を取り戻していただくために、グランディアの薬草が必要なんだよ。……ただ、とても貴重な植物だから、国外に持ち出しが禁止されているらしくてね。二国間の交流を深めて、どうにか突破口を開きたいんだ」

「王太子殿下は、そんなに具合が悪いの?」

面倒になったジュリアは、リオネルの許可を得てタメ口をきくことにした。敬語は疲れる。

「うん。一年の内殆どは寝ているかな。兄上の母君はすでに亡くなられた先の王妃様で、兄上自身は勤勉で広い視野を持った素晴らしい方だ。二番目と三番目の兄上は、それぞれ違う妾の子だけれど、恥ずかしい話、素行が悪くてね。とても外交に出せるような人物じゃない。で、可も不可もない僕が選ばれたってわけ」

「四番目なら、男装して王子でいなくてもいいんじゃない?」

リオネルはふるふると首を振る。

「ダメだ。王女はたくさんいても、王子は僕ら四人だけだ。兄上が王位を継げない事態になった時、第二第三王子に王位が転がり込むのは、父上も大臣たちも嫌なんだ」

「リオネルが犠牲になる必要はないのに」

「犠牲だなんて。僕は思ったこともないよ。ルーファスもノアも、兄上の代わりに僕が王になったら支えると言ってくれている。秘密を墓場まで抱えていく覚悟で」


「ノアか……なあ、リオネル」

今まで黙っていたアレックスが口を開いた。ジュリアが敬語をやめたので、自分も同じように普通に話してみる。

「ノアがどうした?」

「なんで名字がないんだ?事情があって家名を伏せているのか?」

「彼にはもともと、家名はないんだよ」

「平民でも名字はあるでしょう?グランディアはそうだよ?」

リチャードとマシューの兄弟は、平民だが名字がある。学院には何人も平民の生徒がいるが、名字がないなど聞いたことはない。

「分かんないんだって。訓練所みたいなところでは、名前で呼ばれていたから。……ノアは僕を狙ってきた刺客だったんだ」

「しかく!?」

二人が声を揃えて訊ねた。

「暗殺者だよ。十年前だからお互い子供でさ。護衛の兵士に捕まったノアを僕が遊び相手に指名したんだ……そうでもしなきゃ、死罪だから」

懐かしそうに目を細めるリオネルを、ジュリアとアレックスは信じられない気持ちで見ていた。グランディアは小国だが比較的治安が良く、王族が狙われるような事件は長いこと起きていないと聞いている。騎士団は主に魔物退治要員だ。隣国のアスタシフォンはそれほど治安が悪いのかと冷や汗が出た。

「暗殺……」

「知ってるだろうけど、父上には妃や妾がたくさんいる。王の寵姫になって権力を手に入れるために、ライバルになる子供を殺そうと画策してるのさ。グランディアだって、国王陛下には王妃様しかいないけれど、過去には王位を巡って殺し合っていたじゃないか」

「……」

歴史の時間は睡眠学習と決めている二人は、何のコメントもできなかった。


「ルーファスは僕の目付け役だ。王女として育っていたら、彼に嫁がされていたかもしれないね」

「二人はリオネルの秘密を知っているんだろ?」

「勿論。女だと知られないように、万全の体勢を整えてくれている。……グランディア国王陛下と王妃殿下には気づかれてしまったけれどね」

「セドリック殿下は知っているの?生徒会長だし、役に立つかもよ?」

ジュリアの話に根拠はなかった。ただ何となく、知らせておいたらいいかな、という程度の話だ。

「教えていないよ。彼は素直だし、うっかり話してしまいそうだから。……ところで」

話をやめて、リオネルは二人を見た。

丸い瞳がくるくると動く。

「君達は絶対に誰にも話さないよね?……誰かに話したら、国際問題だよ?」

「うちの姉と妹達にも言ったらダメかな?リオネルが私達姉妹の誰かを妃にしたいと思ってるって、皆で不安だったんだ」

「妃にしたいのは本当だよ?僕はグランディアの後ろ盾が欲しい」

あっけらかんと言い放つ。アレックスが口をぽかんと開けている。

「マジか……」

「ねえ、ジュリア。君とマリアと妹さん達と僕で話したいんだけど、どうかな?」

顔を近づけて囁いたリオネルは、数秒置いてから、

「誰にも聞かれないところで、ね?」

と付け足した。


2018.1.27 誤記修正

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