表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 4 歓迎会は波乱の予兆
257/616

116 悪役令嬢は抱きしめる

「とうとう……やったわ……」

入浴を済ませて夜着に着替えたマリナは、一点を見つめたまま小さく震えていた。

「マリナちゃん?……ねえ、エミリーちゃん、マリナちゃんてばどうしちゃったの?」

訊ねられたエミリーは、面倒くさそうにベッドから身体を起こし、

「引導渡したって」

とだけ言う。アリッサは眉を寄せて首を傾げた。

「誰に?」

「義兄に」

「……ええっ!?お兄様に……近づくなとか嫌いだとかキモいとか言っちゃったの?」

「どうかな」

エミリーはちらりと長姉を見るが、わなわなと震えながらブツブツ言っているだけだ。

「酷いこと言ったら、お兄様がもっとヤンデレになっちゃうよ?」

「または、ひたすら病んで、デレない……?」

「マリナちゃんを恨んじゃうとか?怖いよぉ……」

「……っしゃああああ!」

マリナが突然声を上げて立ち上がった。

驚いたアリッサがエミリーを押し、長椅子に倒れたエミリーは肘掛に頭をぶつけた。

「痛……」

「ごめんねえ」

「ビビっててもしかたないわ!生きるために前に進むしかないのよ!」

胸を張って腰に手を当てたマリナは、女王然とした大物感を漂わせ、アメジストの瞳に凛とした決意を滲ませていた。


   ◆◆◆


消灯時間が過ぎても、ジュリアは女子寮に戻って来なかった。

「ねえ、マリナちゃん。ジュリアちゃん遅いね」

「男子寮から来るのに手間取っているのよ。生徒の目に触れないように、使用人の出入口から出てくるって、リリーが言っていたでしょう?」

「ジュリアが、男装……前と同じか」

エミリーは魔法球をお手玉しながら暇をつぶしている。

「フィービー先生に許可をもらったっていっても、男子寮に泊まるのは流石によくないよね。アレックス君だって迷惑だよ」

「……案外喜んでるかも」

にやり。エミリーが笑った瞬間、寝室の向こうの居間部分が騒がしくなった。

「帰ってきたんだわ」


寝る支度をしてもらったジュリアは、姉妹に向かって情けない顔をした。

「はー。参ったよ」

「帰りが遅かったのと関係があるの?」

「そ。消灯時間の後で、いきなり殿下がきてさ」

「セドリック様が?」

「違う違う。リオネル殿下だよ。うちのクラスに来てる」

あの空気を読まない王子か、とマリナは内心舌打ちした。

「国では対等に話せる友達がいなかったとかって、やけに楽しそうでさ」

「お友達になったの?」

「……世話係」

「アレックスが世話係になってんの。席替えでアレックスが私の隣の席だったのに、一番前が嫌だからってリオネル王子がアレックスと席を交換して……」


しばらくジュリアの愚痴が続いた後、マリナは改めて三人に報告した。

「お兄様に、セドリック様が好きだと言いました!」

「えええええ!」

大声を上げたジュリアの口をアリッサが塞ぎ、エミリーは消音の魔法をかけようかと指を上げた。

「静かに。……もう潮時だと思ったのよ。セドリック様の妃になっても、あるいは家が没落して死ぬとしても、お兄様と私の道は交わらないわ。ハーリオン家の領地管理人でいるよりも、どこかの貴族の養子になれば……」

「お兄様優秀だからねえ」

「うちが没落しなくても、跡取りはクリスがいるもんね。マリナの婿になれるかもって期待させるよりは、今のうちにスパッと諦めて別の道に進んでもらおうってこと?」

「そうよ」

マリナの英断を褒めるジュリアとアリッサの隣で、エミリーが目を細める。

「……単純」

「エミリーちゃん、何を……」

「優柔不断なマリナにしては、よくやったと思うけど?」

「義兄が隠しキャラなら、心に深手を負わせるのは、危険。憎しみを持ったままヒロインに取りこまれたら、確実に破滅する。……マリナも、私達も」

シン……

姉妹の寝室を静寂が支配した。

「破滅するのが先か、魔王が全てを壊すのが先か……」

「魔王?」

「マシュー先生と何かあったの?」

「魔法が使えなくなっちゃうから、腕輪は返したんだよね?」

こくり、とエミリーが頷いた。

「今日、アイリーンが……腕輪してた」

「嘘!」

「乗り換え早すぎだろ、おい!」

「何かわけがあるのよ、きっと。先生と話してみたの?エミリー」

俯く妹の手を取りゆっくりと撫でる。前世で末妹がぐずった時の必殺技だった。

「……話してない」

「腕輪だけで判断するのは早急じゃないかしら?」

顔を覗きこんだマリナは、エミリーの瞳からぽたぽたと雫が垂れているのに気づいた。人形のように無表情の妹が、ただ涙だけ流していた。

「……アイリーンは喜んでた。さも、マシューが自分のものになったって顔で!……だから、この世界でマシューに会うのが嫌だった。会えば好きになるし、好きになっても結局、ヒロインに取られるんだ……」

「エミリー……」

マリナがぎゅっと抱きしめた。その上からアリッサとジュリアが抱きしめる。

「マリナちゃんだけじゃなくて、私もいるよ?」

「ヒロインから奪い返してやりな!協力する!」

「……だ、そうよ。定められた物語に抗ってみてもいいと思うわ。ヒロインの言いなりになった彼らに、ただ殺されるのは馬鹿馬鹿しいもの」

「よぉし、ここで一発、円陣でも組んどくか!」

一番外側に腕を回していたジュリアが離れ、マリナとアリッサの肩を叩く。

「ほら、準備準備!」

三人が手を重ね、ジュリアに掴まれたエミリーの手が一番上に乗る。

「何て言うか決めたの?」

「決めてない。エミリーが決めて」

「は?私?」

驚いて涙が止まった。

「エミリーちゃんお願い」

「う……」


それから何度か掛け声をかけたものの、姉三人に交互にダメ出しをされ、いい台詞が見つからなくなったエミリーがブチギレて寝るまで、ハーリオン家四姉妹の部屋は賑やかだった。


次回新章です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ