表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 4 歓迎会は波乱の予兆
251/616

【連載3か月記念】閑話 怪しい薬には裏がある 3

「ところで、君は何を読んでいたんだ?」

レイモンドはアリッサ(エミリー)が持っていた本の表紙に目をやった。

「『古代魔法解放歴程』?君は古代魔法に興味があるのか?」

「は、……いいえ」

アリッサは古代魔法など知らない。慌てて否定する。

「今日は何を読むんですか」

――難しい歴史書だったらどうしよう。絶対寝る。

「ああ、こっちだ」

書棚を回った先には小説が並んでいた。

難しそうな本ではなくて、アリッサ(エミリー)は一先ず安堵した。


   ◆◆◆


図書館に到着するなり、エミリー(アリッサ)は従僕のロイドに馬車で待つようにと言った。

「よろしいんですか、お嬢様?初めて利用する時は、登録の手続きもあるんですよ?」

「知ってるからいいわ」

「はあ。それなら、いいんですが……」

手を借りて馬車を降り、慣れた様子で図書館に入る。

「こんにちは」

と知り合いの司書に声をかけたが、相手はエミリーとは初対面だった。

「初めてご利用の方ですね」

「ええ」

手早く手続きを済ませ、ハーリオン侯爵令嬢の行先を訪ねると、二階の閲覧室にいると言われた。

――大変だわ。

レイモンドが何をするか分からない。

エミリー(アリッサ)は急いで階段を駆け上がった。


閲覧室の書棚の陰からそっと中の様子を覗くと、レイモンドとアリッサ(エミリー)は隣同士に座って本を読んでいた。

「小説ですね」

「君の好きな恋愛小説だ。主人公の一途な愛が素晴らしいんだ」

アリッサ(エミリー)が、げえ、っとレイモンドに見えないように吐きそうな顔をした。

――エミリーちゃん、恋愛小説は嫌いだもんね。

「はあ……」

「特にここ、恋人とのやり取りがいい。彼は一時期砂漠で行方不明になって、敵国の傭兵になっていたんだ。戦場となった町の外れで、二人が再会した場面だ」

「はあ」

「俺が恋人役をするから、君は主人公のセリフを読んでくれないか」

――レイ様!それは……。

エミリー(アリッサ)は物陰でドレスの裾をぎゅっと握りしめた。ちらりとアリッサ(エミリー)の様子を見ると、彫像のように固まっている。

「『砂漠の空を見上げて、何度も君のことを思い出した。満天の星空より美しい君の瞳を』……アリッサ?君の番だ」

「……『私もエリオット様を想って毎晩涙にくれておりました』」

――エミリーちゃん、棒読みだわ!

アリッサ(エミリー)は、明らかにやる気がない。ロボット音声だってもう少しマシだろうというような出来だった。


   ◆◆◆


エミリー(アリッサ)が覗き見をしているとは知らず、アリッサ(エミリー)は目の前の状況に戸惑っていた。ゲームでツンデレキャラだったレイモンドが、自分を熱っぽい瞳で見つめている。

「『二度と君を泣かせたりはしない。私はここにいる。……ああ、本当に君なのだな、ロザリー。白い肌も赤い唇も、私が夢に見、恋焦がれたままの』」

うっとりとアリッサ(エミリー)を見つめたレイモンドは、がっちりと彼女の手を取り、頬に指先を滑らせた。

「ひっ」

――何、アリッサ、いつもこんなことしてるの?

「『確かめさせてくれないか。君が幻ではないと』」

顎が上向けられ、レイモンドの怜悧な美貌が目前に近づいてくる。

――ぼ、防御魔法を!

とアリッサ(エミリー)は思うものの、アリッサの身体では魔法は発動しなかった。

「や、無理だか、らっ!」

目を瞑ってレイモンドの身体を押しやると、顎から手が離れ、クックッと笑いが聞こえた。

「……?」

「今日の君は気ままな猫のようだな。遅刻した俺に怒っていたかと思えば、全力でキスを拒む」

――拒んで当たり前でしょうが!

アリッサの身体だったとしても、エミリーにとっては初めてのキスである。まったく好みではないレイモンドに奪われたくはない。

できるだけ彼から身体を遠ざけて睨み付ける。

「従順な君も可愛らしいが、たまにはこういうのも悪くない」

眼鏡の奥の緑の瞳が欲望に煌めいた。見つめられると逃げられない気がしてくる。

――こいつ、危険だわ!

ゾクッ。

両手で自分の身体を抱きしめ、アリッサ(エミリー)は身構えた。レイモンドは薄い唇の端を上げて微笑み、

「手強い獲物ほど、手に入れたくなる性分でね」

と低い声で呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ