表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 4 歓迎会は波乱の予兆
250/616

【連載3か月記念】閑話 怪しい薬には裏がある 2

コンコン。

ノックをして間もなく、リリーが中に入ってきた。

「エミリー様。皆様お出かけになられましたよ。たまには外出されてはいかがですか?」

毎朝エミリーはリリーに声をかけられていたが、絶対に外には出なかったと聞いた。が、アリッサにはこれは願ってもない提案だった。

「リリー!」

寝ていたエミリーが突然起き上がって縋りついてきたため、リリーは驚いて後ろに転びそうになった。

「お、お嬢様?」

「お願いがあるの。私、目立たないように外出したいの」

「はあ……それで、エミリー様はどちらに行かれたいのです?町にお買いものですか?」

「ううん、違うの。……えっと」

――エミリーは『えっと』なんて言わないわよね。しっかりしないと……。

「王立図書館」

「図書館で魔法の研究ですか?」

「そ、そう」

「かしこまりました。あまり華やかではないドレスにいたしましょう。私にお任せくださいませ」


姉のような侍女のリリーは、エミリー(アリッサ)の願いを聞き、極力地味な色のドレスを選んできた。灰色とベージュが混じった色だ。襟も丸襟で袖も全く華やかさが感じられない。

大人しく着せられて、同じような色の帽子をかぶる。

「いかがでしょう、エミリー様。落ち着いたお色ですが、お美しいですよ」

鏡の前に立たされ、エミリー(アリッサ)はうんうんと頷く。

「いいわ」

「では、ロイドに馬車を回すよう言ってまいりますわね」

「ロイドと行くの?……一人でもいいのに」

御者もいるのだから迷うわけがない。エミリーは方向音痴ではないのだから。

「お一人では危険です。頼りなくてもロイドをお連れ下さい」

「分かったわ……」

図書館に行く理由は魔法書探しではなく、レイモンドと図書館デートをするアリッサ(エミリー)を尾行するためなのだ。大人の男を連れていては目立ってしまう。入口で待たせるしかないかとエミリー(アリッサ)は思った。


   ◆◆◆


「よく来たね、マリナ」

「こんにちは、王太子殿下」

「……?」

ぎくしゃくした淑女の礼を見たセドリックが首を傾げた。

「どうされました?」

「いや、何か、脚を痛めているのかなって」

礼が変だとは言えず、控えめに言ったのに気づかないマリナ(ジュリア)は、

「全然、このとおり元気ですよ?」

とヒンズースクワットをしてみせる。

「あ、ああ……元気そうだね。うん……」

ドン引きしたセドリックが庭園へ案内すると、マリナ(ジュリア)は促されてもいないのに白い椅子に腰かけ、目の前のお菓子にロックオンした。

「うわあ、今日のお菓子もおいしそう!」

「マ、マリナ?」

マフィンを一つ手に取り、半分に割ることもなくそのまま食いついた。

「おいひーです。殿下もどうですか」

「僕は別に……」

マリナ(ジュリア)は自分の食いかけのマフィンから少し割ってセドリックに渡した。

傍で控えていた侍従が、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「……これは、君の……」

セドリックが少し頬を染めたのにも気づかず、マリナ(ジュリア)はにっこりと笑った。

「おいしいものを分け合うのって幸せですよね」


   ◆◆◆


「こんにちは、ヴィルソード侯爵様」

邸に着くなり、筋トレをしていた侯爵に挨拶をすると、彼は少し変な顔をしたが、重そうな樽を持って再び腹筋を始めた。

「アレッ、クス、は、庭、だぞっ」

「ありがとうございます」

話す時ぐらい腹筋を止めてもいいだろうとジュリア(マリナ)は呆れた。

ヴィルソード家には来たことがなかったが、使用人の動きで庭の方向が分かった。

「ジュリアン!」

ほどなくして声がかけられた。一人で練習をしていたのだろうか、シャツを着崩した汗だくのアレックスが、白い歯を見せながらこちらに向かってくる。

――汗くらい拭きなさいよ!

「待ってたぞ。庭に行こうぜ」

汗ばんだ手で手首を掴まれ、ジュリア(マリナ)は思わず手を振り払った。

「……何だよ?」

――まずい、変に思われた?

「汗ばんで気持ち悪かったから」

ジュリアなら思った通りのことを言うはずだ、とジュリア(マリナ)は率直に感想を述べた。

「悪い。次から気をつける」

「『次から』って言う奴はだいたい直らないよな」

「うわ、何か、今日のジュリアンは厳しいな」

アレックスは片目を瞑ってガシガシと頭を掻いた。


   ◆◆◆


「やあ、アリッサ。今日も早いな」

アリッサ(エミリー)が窓際の椅子に座って本を開き、読む気も起こらずにぼんやりしていると、銀糸の刺繍が入った白い上着に深緑色のズボンをはいて、いかにも王子様という風情のレイモンドが前に立った。

「目の前が暗くなった。邪魔」

「は?」

「……あ、いえ、何でもありません」

「今日も愛らしいな。遠くから君を見つけた時は、窓辺に天使が降り立ったのかと思ったが」

ぞわわわわわ。

――バカじゃないの、こいつ!キモい!ありえない!

アリッサ(エミリー)は、キッ、とレイモンドを睨んだ。

「おや?俺が遅くなったから、拗ねているのか」

「……拗ねてない」

「フッ、まあいい。閲覧室に行くぞ。君に見せたい本があるんだ」

遅れてきておいて自分のペースに巻き込むなんて、姉は毎度この男によく付き合っているものだとアリッサ(エミリー)はうんざりした。


今日の深夜に100万PVとなりました。

ありがとうございます。

励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ