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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 1 出会いは突然じゃなくて必然に?
25/616

18-2 悪役令嬢は囁きに堕ちる(裏)

【ハロルド視点】


ハーリオン侯爵に連れられ、私は初めての晩餐会に臨んだ。賓客は国王陛下の学院時代の友人でもある他国の王族で、彼の意向により気取らない会にしようとのことだった。陛下が義父に私を見たいと仰せになり、私の参加が決まった。

妹達に礼儀作法を教えている家庭教師から、三日間みっちり指導を受けた。概ねできているとの評価をいただいた。

晩餐会とその前後の挨拶で、私は多くの値踏みするような鋭い視線にさらされ、ついには息苦しくなってしまった。廊下に出てもバルコニーに向かっても、十代前半のご令嬢を連れた貴族に至る所で声をかけられる。適当に愛想笑いでやり過ごせば、ご令嬢はこってり化粧した顔で私に意味ありげに微笑んだ。

――要らない。

求めるものはまだ手に入れられていないのに、余計なものが転がり込んできそうだった。

私は義父の姿を見つけて逃げ出した。


帰宅すると、侍女がやけにそわそわしていた。

聞けばマリナの体調が優れず、治癒魔法を使える魔導士まで呼んだとのことだった。

原因は不明で、侯爵の忘れ物を王宮へ届けに行ってからだと。

男の私でさえあれほど値踏みされたのだ。彼女がどんな目に遭ったのか想像に難くない。

今すぐその苦しみから解放してあげたい、抱きしめて話を聞いてあげたいと思い、部屋の前まで行った。

中から魔法の発せられる音がし、エミリーの悔しそうな声が聞こえた。マリナは姉妹で寝室を共有している。私が入っていけば、三人の邪魔になってしまう。

回れ右をして、私は自室へ戻った。


   ◆◆◆


私は朝食の後、マリナと話をしたいと思っていたが、義母に王宮への使いを頼まれた。王妃付きの女官に言づけて手紙を渡すだけの任務だった。

侯爵家の馬車で乗り付けて、言われた通りに用事を済ませると、女官はじろじろと私を見て頷いていた。何なのだ一体。

急ぎ戻ってマリナを探すと、彼女は中庭の四阿にいた。

「マリナ。ここにいたんですね」

弾む息を悟られないよう、わざと落ち着いた声をかけた。

「少し、考えたいことがありまして」

ちらりと私を見て目を伏せる。伏し目がちにした彼女も美しい。

「そうですか」

肩が触れ合う距離に座れば、少し狼狽えた様子で私を見上げる。

「お兄様?」

揺れる瞳に少しの不安が見え隠れする。

「……昨日、あなたが真っ青な顔で王宮から帰ってきたと聞きました」

「あれは、その。うん、もうよくなりましたから」

よくなったようには見えないのだが。

「本当に?」

「はい。ご心配には及びません」

「心配で心配で、あなたの部屋へ行こうかと思いましたが」

抱きしめて話をしたいと思ったくらいで。

「部屋は四人で共有していますから」

「ええ。ジュリア達の迷惑になってはいけないかと、お見舞いを控えました」

そろそろ姉妹別々の部屋にしたほうがいいと、義母上に相談するべきか。

いやいや、義兄が妹の部屋に夜中にいたら問題なのか?

「私は……」

彼女を落ち着かせたくて、頭の上から長い銀髪を撫でる。流れる髪から見え隠れする白い背中に指を滑らせる。

「あなたが王宮の魔物に捕まってしまったのではないかと心配になったのです」

「王宮の、魔物?」

「王宮には魔物が巣食っているではありませんか。権力に取り憑かれ、あるいは嫉妬に狂い蹴落としあう、恐ろしい魔物が」

「お兄様こそ、昨日は何かあったのですか?お顔の色が優れませんね」

この期に及んで私の心配をするとは。

顔色を見ようと私を見つめるマリナは、心配そうに眉を顰める。

「大したことはありませんよ。私を気にかけてくださるのですね、マリナ」

嬉しくてつい、笑顔がこぼれる。

「実は、昨日の晩餐会で、何人かのご令嬢と知り合いになりました」

「お兄様が微笑みかけたら、皆様コロっと……コホン。何でもありません」

コロっといかない最たるものがあなただ。

「私が微笑みかければ、令嬢は私に夢中になるとでも?」

恨めしい気持ちで横目で見れば、マリナが頬を紅潮させている。

「そうやって、何人か夢中にさせてきたのではありませんか?」

向こうを向いた彼女は首まで赤い。

可愛い嫉妬に気持ちが昂る。が、冷静を装って問いかける。

「私がご令嬢と仲良くしたらいけませんか」

耳元に唇を近づけ、低めの声で囁くと、彼女はすぐさま耳を押さえた。

こちらを振り返った瞳はわずかに潤んでいて唇が震えている。

「いけなくないです。わ、私、ピアノの練習がありますので、失礼しますわ」

もう少しからかってやろうかと思った時、彼女は勢いよく立ち上がり、私の前から去って行った。他の令嬢と仲良くしたともっと言ってやるべきだったのだろうかと思い返す度、私は顔がにやけるのを抑えられなかった。



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